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唐仁原昌子
2024年4月28日 23:11
じわりと夜が滲むような、春の夕暮れで満たされた廊下を、ものも言わずに歩いていく。 そんなミオの背中を、私も同じく黙ったまま追いかける。決してミオのためではない。私は、たぶん私のために彼女を追いかけている。 部活の後、ミオは確かに泣いていた。 ロッカールームに忘れ物をしたことに気がついて戻ったとき、私はそれをみてしまった。 一年の頃から同じクラスで、同じグループで楽しくやってきたけれ
2024年4月21日 20:59
「中島ちゃーん。次の数学の課題、終わってたりしない?」 休み時間になると、青木さんが声をかけてきた。 終わってたりしない?なんて聞いておきながら、彼女は私が課題を終わらせていることを、ほぼ確信して聞いてきている。多分。「あ…うん、終わってるよ」「よかった!ごめんだけど、お願い!見せて!」 手のひらを合わせて、ごめんのポーズをしながら、大して悪びれた様子もなくそんなことを言う。まあ
2024年4月14日 23:49
ガラリと木の引き戸を開け、見慣れた玄関を通って部屋にあがる。 入ってすぐの畳の部屋にあるお仏壇、懐かしい気持ちになるお線香の香り。 じゃらりと音の鳴る、木製のビーズでできたカーテンをくぐるとリビングがあって、その向こうにあるソファには、いつだってまあるい背中が見える。「…こんにちはー」「あら、初めまして」「わあどうもー。初めまして」「お隣さんでしたっけ?」「あ、そうそう。先日引
2024年4月7日 22:39
「 ──いや、マジで。本当に私のママうるさくって」「ウケる。それで門限十七時になったの」「そう。ヤバすぎるでしょ。そもそも部活終わったら十八時前なのに、十七時門限とかどういうことなの」「もう時空を超えて帰ってこいってことじゃないの」 何かあったよね、そういう話。何それ、聞いたことないけど。え、知らない?嘘だあ、待って調べるから。 駅構内、チェーン展開されているカフェにて。隣の席の女子