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家から目的地までの実況

ブォォオ、フォオオオ、ビュオオオ

という、風が物体に当たった音なのか、はたまた窓が揺れている音なのか、ごちゃまぜになった音が、強風が吹くこの季節になると聞こえてくる。

空はあまりにも澄み切っているのに、風だけは優しくない。

髪をもみくちゃにするし、前に進もうとする私の行手を阻む。

漕ぐときにいつも以上のエネルギーを使うから、すぐに足の筋肉は悲鳴を上げて、ジンジンジンと太腿が痛みだす。

少しでも皮膚が出ていたら、そこはもうキンキンに冷やされる。
トナカイのような鼻、チーク要らずのピンクのほっぺにでもなっているだろうか。あら素敵。……なんて呑気なことも言ってられないくらい足が痛いのだけど。

「あぁ、今日は寒くなんかないじゃん。いけるいけるいける」

と、出発した瞬間、自分に言い聞かせる。

ただそんな言葉も交差点を曲がってしまえば砕け散る。そこからキョウフウとサムサとの戦いが始まるのだから。

そこでの戦いの模様は、さっき話した通りなので割愛する。

そしてその結果はなんだかんだ私の勝利。

時々、「あぁ、もう……」という諦めの悪魔の囁きが聞こえてくることがある。

けれど、私は負けないのだ。

「ここで緩めたら遅刻するぞ」

と自分を鼓舞して、もう一回、いやもう二回立ち漕ぎをする。

「うぅ、太腿が痛いよ……it’s hard hard hard but I never give uuuup」

と心の中で叫びながら、もう少し頑張る。

そうすると今度は登校中の小学生に出会う。

どのあたりの道で出会うかによって、今自分が順調なペースなのか、それともやや遅れ気味なのか判断できる。

ちなみに今日はやや遅れ気味だった。

先頭にいる大人の方に会釈して、私はまた立ち漕ぎを始める。

この辺りになると、だんだんマラソンをしているときのような息づかいになってくる。

「ねぇ知ってる?規則正しく吸って吐いてをした方が息辛くないらしいよ。スッスッハー、みたいにさ」

と、友達の教えを今でも忠実に守っている。

規則正しく吸って吐いてを繰り返していても、マラソンのときに感じる、あの喉の痛みは消えていかない。

つま先がキーンと冷えている。

この辺りがうぅ、と思う第二のゾーンだ。

けど、このあたりの道は車通りが激しくて、「あぁ、この車に乗ってる人たちもこれから仕事を頑張るのだな」と思うと、私ももう少しだけ頑張れる。

そうして漕ぎ続ければ、目的地付近のコンビニが見えてくる。

ここまで来れば、もうすぐフィニッシュ。

ここにある横断歩道で一度立ち止まるのだけど、立ち止まるとドッドッドッと心臓が早鐘を打つ音が聞こえてきて、全身に血が巡るような感覚がして、今度は身体が温かくなってくるのである。

身体もポカポカ、目的地まであと20m、遅刻もしていない。

あぁ、今日もよくやったな。

そう思って信号が青になるのを待っているのである。



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