5-6.カウンセリング

 それから他の精神科も行ったが、私が出会った精神科医たちは「お前こそ患者だろ」と思うような医師ばかりで、問診中にキレたり、「あなたにも問題があるから親が喧嘩するんでしょ」と笑ったり、前回診察時に一緒に決めた予約日に行ったら「また来たの?」と言われたり、相性が悪かった。
 そこで、自力でカウンセラーを探して、PTSDの緩和を目指すことにした。
 担当の心理士が苦手だと思うと、我慢せず違う人に代えてもらった。そうしないと心を開きたくなかったし、我慢すると更にストレスになると思ったので、いつも受付の方に丁寧に丁寧に担当を代えてもらうお願いをした。
 信頼できる心理士さんの元で、カウンセリングを重ねると、自分でも驚くほど心が休まった。「治る」とか、そういう感じではなかったが、自分のことを沢山知れたので、自分を信じて行動できるようになった。フラッシュバックが起こった際も冷静に対応できるようになった。
 私が最も気に入った心理士さんは「聞き上手」な人だった。私が言いたいことを好きなだけ言うと「それでそれで!」「その話もっと知りたいな」「どうしてだと思う?」と、話を盛り上げて、私からどんどん話を引き出してくれた。
 私は幼い頃から、母に話を聞いてもらえない生活をしていたし、学校ではいじめられていたし、結婚生活は会話に困っていたので、恥ずかしながら「聞いてほしい!私に興味を持ってほしい!沢山喋りたい!」という欲望の塊だった。
 お気に入りの心理士さんは、その欲を上手に刺激して、よーく聞いてくれた。全然アドバイスなんてしてくれない人だったけど、いつも大大大満足で帰った。本当に、ただ聞いてほしいだけだった。
 カウンセリングに通って、一番良かったことは「安心」を得たことだった。「何か困ったことがあったら、次のカウンセリングで話せばいいや」と思いながら暮らせることは、本当に心強かった。
 夫もサポートしてくれた。
 夫は私が愚痴ると「それで、俺はどうすればいい?」とか「それは仕方ないね」と判断を急ぐので「私は、あなたに共感だけしてほしい」と繰り返し伝えたところ、「そっか。大変だったね」「頑張ったのに残念だったね」と上手に受け止めてくれるようになった。ついでに言うと、一緒に起業した友達も、アドバイスはしてくれないが、じっくりと話を聞いてくれるタイプの人だ。だから仕事で躓いた時、いつも不安を受け止めてもらえて安心できた。
 自分が「言い返さずに聞いてほしい」というお願いを意識的にして回ったことで、運よく、一気に「自分の話を聞いてもらえる環境」が整ったのだ。
 私は今まで自分の身に起こる全てのことに不満を抱きつつも、「どうせこの不遇は変えられない」と全て諦めて、我慢して進んできた。しかし、心理士や夫や友人たちが、悩んだり困ったりした私を受け止めてくれる安心感を知ると、何事に対しても「別に不満を頂かなくてもいいや。不安だけど、過剰に心配しなくてもいいのかも」と少しだけ流せるようになった。我慢ではなく、自分の不幸に過剰反応しなくなったのだ。
 初めて少しだけ「生きやすい」時間を手に入れた。

 幸せそうな私を見て、夫が「そろそろ子作りを始めてみない?」と言ってきたので、悩んだ末に挑戦することにした。
 この時、デザインの仕事も軌道に乗っていた。フリーランスと変わらない状態の私には育休も産休もないので、一度立ち止まるのが嫌だった。しかし、一緒に働く友人が応援してくれた。
 不安もあったが、私の中にも「一度でいいから、妊娠・出産の経験がしたい」という気持ちがあった。「自分の子ども」という存在を知ってみたいと思った。
 うちの母も、義母も、なかなか一人目ができなかったと言っていたし、こればかりは授かりものだと思ったので、自然に身を任せることにした。どうせすぐはできないと思っていたが、あっさり妊娠した。
 でも「授かるということは、産む資格があるということだ」と前向きに考えることにして、なるべくいい母になれるように、育児書を読んで勉強することにした。

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