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説明するということ - 実践(1) 読書感想文の構成

ここまで「書く」ことに注目して説明の方法を見てきた。

そこで、小学生くらいでよく書くような読書感想文を「説明」の視点で直してみることにする。ここでは物語「桃太郎」の読書感想文ということにした。

この記事では、文章構造に注目する。詳しくは次の記事を参照してほしい。

再構成前の例文とその課題

まず、小学生の作文のような文章を用意した。典型的な学校作文のように書いてある。大人としてツッコミどころもたくさんあるはずだが、そこは見なかったことにしてほしい。

 私の読んだ本は桃太郎です。桃太郎は、桃から生まれた強い子です。川で流れてきた桃から生まれてきました。桃から生まれてくるなんて不思議だなと思いました。
 大きくなると悪いことをする鬼ヶ島にいる鬼を退治しに行くことになりました。その途中で、犬と猿と雉がきびだんごをあげたら仲間になりました。きびだんごだけで仲間になるなんて、お腹が空いていたんだと思います。普通ならもっと他の物ももらった方が嬉しいし、桃太郎に付いていっても鬼に負けてしまったら困るから、どれくらい強いのか試合してから決めても良いと思います。それか、桃太郎が一人で行くのを見て、3匹は優しかったから助けようと思ったかもしれません。
 桃太郎と3匹は、協力して鬼をやっつけてしまいました。たった1人と3匹で全部の鬼をやっつけるなんてすごいです。それに、鬼が隠していた財宝ももらってきて大金持ちでいいなと思いました。
 私も桃太郎みたいに強いけど友だちと一緒にすごいことができるようになりたいです。一人だけだと鬼みたいに強そうな人たちには勝てないけど、仲間と一緒なら勝てると思うからです。
(469文字)

学校作文の特徴を反映して、次のような書き方になっている。

・起きた順に書いてある
・教訓が書いてある
・主張が明確に書かなくても良い

一方で、説明する文章では、次のように書かなければならない。

・主張を最初に書く
・主張の理由を書く
 * 主張の根拠として、作中の出来事を引用して良い
 * 教訓よりは自分の信じることを示す
・主張-根拠の流れで書く

内容の分析

説明する文章に直すためにまず大切なのは、言いたい事を順茂木型の木に当てはめてみること。この文章の主張は次の2点になるはずだ。

(1) 桃太郎のように強くなりたい
(2) 仲間と協力してすごいことをしたい

この2つのうち、より根元になりそうなのは、(1)だろう。その上で、ただ強くなるのではなく、一人ではできないことを協力して達成したいということになりそうだ。

この他に、書かれている情報を列挙すると次のようになる。

(3) 読んだ本の紹介
(4) 物語の内容について
 (4-1) 桃太郎は桃から生まれてきたこと
 (4−2) 鬼退治の途中で3匹に会ったこと
 (4-3) 鬼を1人と3匹で退治したこと
 (4-4) 鬼の財宝をもらって大金持ちになったこと
(5) 物語のそれぞれの部分についての感想・考察
 (5-1) 桃から生まれるなんて不思議だと思う((4-1)に対応)
 (5-2) きびだんごだけで3匹が仲間になった理由((4-2)に対応)
 (5-3) 少ない人数で鬼を退治してすごいと思う((4-3)に対応)
 (5-4) 大金持ちになっていいなと思う((4-4)に対応)

このうち、(5-2)の部分の分量が多いことから、これについて書きたい気持ちが強かったと想像する。また、(5-3)の部分は、主張(1)に繋がることのため、重要な内容と言えそうだ。

順茂木型の構造の作成

主張-根拠の繋がりになるように書き直す(番号は前述のまま)。

(1) 桃太郎のように強くなりたい
  (5-2) きびだんごだけで3匹が仲間になった理由
   (4−2) 鬼退治の途中で3匹に会ったこと
 (2) 仲間と協力してすごいことをしたい
  (5-3) 少ない人数で鬼を退治してすごいと思う
   (4-3) 鬼を1人と3匹で退治したこと
 (3) 読んだ本の紹介
  (5-1) 桃から生まれるなんて不思議だと思う
   (4-1) 桃太郎は桃から生まれてきたこと
  (5-4) 大金持ちになっていいなと思う
   (4-4) 鬼の財宝をもらって大金持ちになったこと

(1)には(2), (3)の枝があり、その他に(5-2)の枝がある。(5-2)には(4-2)の枝がある。以降も同様。

説明する文章への再構成

先の順茂木型の構造において、(1)と思う理由は、(2)や(3)だということになる。この部分だけを文章にするなら次のようになるだろう。

 私は、桃太郎のように強くなりたいです。一人だけで強くなるのではなく、仲間と協力してすごいことができる強さがあるからです。この桃太郎は「桃太郎」という本の中の人物です。

少々たどたどしい感じがする。桃太郎の物語を知らない人が読んだ場合を想像してほしい。

主張(1)-根拠(3)の関係は、「桃太郎が描かれた本があり、それをもとにして『桃太郎のように強くなりたい』と思った」で論理的にはたしかに正しい。しかし、「桃太郎」が何者か説明される前に「桃太郎のようになりたい」と言われると困ることもあるだろう。

このように、前提となる情報が先になければならないことは往々にしてある。その場合には次のように書くのが実際だろう。

 私は、「桃太郎」という本を読みました。この本の主人公は桃太郎です。
 私は、桃太郎のように強くなりたいです。一人だけで強くなるのではなく、仲間と協力してすごいことができる強さがあるからです。

その他についても、並べながら肉付けしていく。また、そのときに各段落の最初の文(トピックセンテンス)は、その段落の内容をできるだけ指すように注意する。

再構成後の文章

最終的に書き上げた文章が次のものだ。週刊少年ジャンプ色がさらに付いているかもしれない。

 私は、「桃太郎」という本を読みました。この本の主人公は桃太郎です。
 私は、桃太郎のように強くなりたいです。一人だけで強くなるのではなく、仲間と協力してすごいことができる強さがあるからです。
 桃太郎た犬と猿と雉という仲間だけで鬼を退治できてしまいました。3匹はきびだんごをもらって仲間になりましたが、きびだんごだけで仲間になったのではないと思います。きっと桃太郎だけだと鬼を退治できないから助けたかったのだと思います。
 3匹が桃太郎を助けたかったと思う理由は、きびだんごをもらうだけで普通は簡単に仲間にならないからです。恐い鬼を退治するから、きびだんごだけでは割に合いません。桃太郎の鬼を退治したい気持ちに共感したからきびだんごだけで仲間になったのだと思います。
 仲間がいると人数以上の力が出ると思います。実際に桃太郎と3匹だけで鬼を倒してしまいました。読んだときは1人と3匹だけですごいなと思いましたが、互いに信じ合って協力したからなのでしょう。
 この「桃太郎」の本を読んだとき、桃から生まれてきて不思議でした。でも桃から生まれてきたこととは関係なく、仲間と協力して強くなれたところが印象的でした。
(499文字)

このうち、5段落目の「仲間がいると人数以上の力が出ると思います。」「互いに信じ合って協力したからなのでしょう。」はこの文章で新たに書き込んだ内容だ。一方で、大金持ちの話は除いた。落ち着きどころが悪かったためだ。

もうひとつ注意するのは、最後の段落(6段落目)だ。これはよく言われる「主張-根拠-実例-主張」の構成のうち、最後の「主張」のようにも見える。しかしその意図よりは、全体の文の「まとめ」の意図が強くして書いたつもりだ。

つまり、最後の段落は、「主張-根拠」の入れ子構造を段落ごとに「サブ主張-サブ根拠」として書いていき、最後にその全体をメイン主張を中心にまとめて書いたものだ。

このように、最後の段落をまとめとして中心的主張をとりまいて書くようにすると、この雉のテーマである「説明する文章」としての書き方になる。

さらに、もう1段落だけ増やし、この中心的主張の限界点や改善点、発展への期待を書くこともできる。例えば、「3匹を仲間と考えたが、捨て駒だった場合の論考は十分にできていない」「仲間になるときの心理描写をもう少し深く読めれば、仲間になろうとした理由がはっきりするかもしれない」など。

もちろん、その増やした1段落に教訓を書いても良い。ただし、「説明」というスタンスから離れるため、ここでは取り上げない。

まとめ

この記事では、既に何らかの形で書かれた文章を説明する文章に再構成する方法を示した。題材として「桃太郎」の学校作文的な感想文を用意した。

再構成前と後のどちらがすんなりと読めるかは、これまでに接してきた文章に依る部分も大きい。また、内容としても、文章もこの場の思い付きで書いたもので、いずれの文章もブラッシュアップする余地はある。あくまでも、「説明する文章として書き直すならこうやる」の例だと思って読んでもらえるとうれしい。

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