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オウンドメディア進化論

なかば「転校生」の立場の私は、その話の一つひとつがとても面白かったんですね。何より、従業員が語る商品に対する愛情や思い入れに感動しっぱなしでした。一見するとクールに振舞う従業員たちですが、いざ自身の取り組んでいることを話すとなると、まるでこどものように目をきらきらさせる。その熱量に触れて、入社するまで抱いていた「大企業」の人のイメージがガラリと変わりました。同時にこの話を「外に出さないのはもったいない」と思い始めました。 オウンドメディア進化論の中の一節です。この話を「面白

    • カーラのゲーム

      東京都知事選が終わった後、選挙戦にからんでこの本が紹介されていた書評から読んでみました。書評で説かれていた一市民が立ち上がる意味、もこの小説の大事な要素です。しかし、私にとっては、やはり、この小説では避けて通れない、戦争、について考えずにはいられませんでした。 これまで私が読んできた戦争の小説は、戦争当事国の視点が主でした。このカーラのゲームは当事国の視点と周辺諸国の政治家の視点、一介の一市民の視点が行きつ戻りつするところが特徴です。それだけに戦争の悲惨さだけではない、いや

      • 決戦!株主総会 ドキュメント LIXIL死闘の8か月

        CEO辞任の経緯が不明確、偽計といえる形で株式を3%しか所有しない一経営者の一存で決まってしまったことに対して、異を唱え、株主提案をし、最後CEOに返り咲くまでの8か月を描いた1冊。 固くとらえれば、コーポレートガバナンスとはどういうことか?を 具体的なエピソードとともに学ぶ本、であろう。しかし、そこまで考えずとも、単純に「読み物」として読んでも十分、面白く、読み応えのある本である。 会社側についた人物にも取材を申し入れてはいるようだが、やはりどうしても瀬戸氏の言い分に寄っ

        • 知ってるつもり 無知の科学

          無知の知。まず知らないということをわかっておかないと知ることはできない、というのをソクラテスはその昔説きました。その言葉を我々はみな知っていますし、意味も理解しています。 いや理解しているつもり、です。でも実際自覚していないだけで、知ってるようで知らないことはたくさんあります。本の中で出て来た事例ですが、たとえば水洗トイレの仕組みを我々は「知っている」か。水で汚物をみな流してしまう、というのはもちろん知っています。レバーを下におろす、なり 最近ではボタンを押すことで水が流れる

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        • 読書記録
          56本

        記事

          くちぶえ番長

          小6の姪に薦められて読んだ本。あの赤ん坊だった姪に本を進められるなんて感慨無量。しかも私の大好きな重松清さんの本! 期待にたがわず、相変わらずのあたたかく、心にじんわり感慨が残る一冊。 犬が死ぬシーンで号泣しましたが、姪は「え?あそこで?泣くの?」と意外そうな様子。考えてみたら私もあまり小学生の頃、本で泣くことはなかったな。かわいそうだな、とか大変だなとかは思ってもそれで泣くということはなかった。 歳をとると感情の制御ができにくくなって涙もろくなるというのを どこかの本で

          くちぶえ番長

          想定外シナリオと危機管理

          東京電力のクライシス対応を軸に、危機管理で「あってはならない」企業行動が論じられている一冊。 東京電力の事故について、売り上げ利益の確保に偏り過ぎ、本来コストをかけるべき、リスク管理がおざなりになっていた、という主張が繰り返しなされています。そこに異を唱えはしませんが、そうなってしまったのはなぜなのかについてももう少し深堀しないと、そりゃそうだよね、で終わってしまうかなという感想を持ちました。 とはいえ、この本が出たのは、2011年で震災の直後。震災直後にここまで明確に言及

          想定外シナリオと危機管理

          世界標準の経営理論

          普通の単行本の大きさを想像して、近所の図書館に予約してた本書を受け取りに行ったら、そんじょそこらの辞書よりもかなり分厚い800ページ以上もある大作。最初はちょっと腰がひけました。もともとは、はじからはじまで読むことだけを想定しているわけではなく、知りたい理論がでてきたら つまみ食いのように読んでみる、といった読み方も著者自身が推奨されており、辞書的な本でもあるようです。 もっとも、私の場合、サラリーマンとして普通に勉強していればまあ知ってるよね、というような理論もまったく頭

          世界標準の経営理論

          多様性の科学

          いい本とはどういう本か。 読み終わって感動に打ち震える本もいい本、だし 知らなかったことをたくさん知ることができて満足するのもいい本。 次どうなるのかドキドキしながら読み進めることができるのもいい本。 さてこの多様性の科学も、いい本だなあと思ったのだけど、 上記にあげた「いい本」の定義にはあてはまりません。 英語の本を訳したからか、ちょっと読みにくいし、出てくる例示も訳本だからしょうがないけど、なじみがないものも多い。 でもいい本だなあと思います。 この本で書かれている内

          多様性の科学

          安全。でも、安心できない

          どうして安全だからと安心できるのか。いや、安心できない。 本のタイトルを私なりに言い直すと、高校生の頃に学んだ漢文の言い回しを連想するこんな表現になります。 むろん、安心するために安全であろうと努力することは必要です。 でも安全であっても、人は安心できるわけではない。 この事例として、もう今どきのお子様は知らないであろう、赤福の製造年月日偽装事件が引き合いに出されます。赤福については食品衛生法に基づく営業禁止にまでなりましたから、なんだか、「衛生によくない」とお役所が判断

          安全。でも、安心できない

          おろしや国酔夢譚

          大黒屋光太夫と同じネタで、今度は井上靖による小説。 吉村昭氏よりは短く、どちらかといえば、ロシア本国に辿りついて 帰国の交渉をしてから日本に帰るまでの経緯が、吉村昭のものより詳しく書かれています。逆に言えば吉村昭の小説の方が、船が難破し、島に命からがら辿りつき、ロシア本土に足を踏み入れるまでの苛酷な毎日を詳細に記しています。 吉村昭のほうが、過酷にして数奇な光太夫に起きた「出来事」に焦点をあてている印象ですが、井上靖は、帰国前から帰国後に至るまでの光太夫の心情の変化もかなり

          おろしや国酔夢譚

          世界最高峰の経営教室

          マイケルポーター、フィリップコトラー、コリンメイヤーといったまさにタイトル通り世界最高峰の経営学者、その他新進気鋭の経営学者へのインタビューを通じて、最新、最高な経営の在り方を学ぶことができる一冊です。 難しいことをやさしく、やさしことを深く、は井上ひさしの名言ですが、やはり世界最高峰ともなると、小難しい言葉をひねりだすこともなく、言ってる内容は実にシンプル。ともすれば日本の社長だってこれくらいのことは言っているのかもしれません。 ただ圧倒的に違うのは「そのように考えるに至

          世界最高峰の経営教室

          パイロットが空から学んだ一番大切なこと

          時に旅行、時に出張。飛行機には年に何度も乗ります。仕事であれ、旅行であれ、飛行機の旅はちょっとだけワクワク感が募る。あと個人的に電車よりも疲れないで移動できる気がしています。飛行機に乗るのが怖いとおっしゃる方もいらっしゃいますけど、私にとって飛行機は恐ろしいものではありません。実際事故確率でいえば自動車よりも相当低いんですから、理屈上は恐ろしがる理由はそうない、といえます。 とはいえ。ケーブルテレビで航空事故の事例をとりあげいる報道番組があってよく見るんですけど、事故が起き

          パイロットが空から学んだ一番大切なこと

          想定外を想定せよ。失敗学からの提言

          過去の事故の要因分析を通じて、以降の再発防止を考え続けている畑村洋太郎さんの著書。 私が一番印象深かったのはJALの事故機を社内に保存してある、という事例。こうしたものを残しておくことは、事故の悲惨さを伝える、というもっともらしいきれいな言葉で語られますが、言葉で伝えるよりも、生々しい事実で視覚で訴えられた方が、人の記憶に残るし、財産になる。動態保存はそういう意味でも意味があるというところでした。 三井物産でも、過去の数値偽装の象徴ともいえる、DPFの実機を社内研修所に飾

          想定外を想定せよ。失敗学からの提言

          未来実現マーケティング

          SDGSに並んでいる、こうなったらいいな、でも解決は難しいな、というような難題も、お、もしかしたら解決できるかも、と思えてしまうようなさまざまなものの見方を示唆してくれる一冊です。 ちなみに著者の神田氏のマーケティングの定義はちょっと一般的なもの、つまりいわゆる営業、というものとはちょっと違っています。 神田氏のマーケティングの定義は「必要な価値を必要な人に届け、必要な変化を起こす仕組みづくり」「売る方法」という一義的なものではないのです。 むろん変化を、社会において起こ

          未来実現マーケティング

          重大事件に学ぶ危機管理

          いくつもの、それこそ重大事件を指揮してきた人だけに、なるほどと思わせる諫言がたくさんありました。 リスクが発生しているという報告も大事だが、逆に「異常なし報告」をしておくことも重要であること。アメリカの緊急報告体制に倣った「事実報告」→「情勢判断」→「意見具申」の短時間報告。アメリカの緊急事態においてはエレベーターに乗る15秒の間にこれをやるべく定められているそうですが、ビジネスシーンでも十分使える、いや使うべきやり方でしょう。 また、組織のいわゆる「集団愚考」についても

          重大事件に学ぶ危機管理

          大黒屋光太夫

          船の難破、厳寒での過酷なロシア滞在。帰国の許可も中々おりない中、ロシア滞在を勧められ、それでも希望を捨てずに交渉し、十数年ぶりに日本帰国とあいなった人物の生涯を綴る吉村昭氏の歴史小説です。 この本を読む前、アメリカ彦蔵自伝という本を読みました。光太夫よりも 100年ほどのちに、やはり漂流し、アメリカの船に拾われ、アメリカに渡り、のち日本に戻って通訳として活躍し、何不自由のない生活を送る浜田彦蔵と比べると、光太夫の苛酷さたるやなんなのか。 帰国をあきらめ、ロシアで何不自由の

          大黒屋光太夫