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重大事件に学ぶ危機管理

いくつもの、それこそ重大事件を指揮してきた人だけに、なるほどと思わせる諫言がたくさんありました。

リスクが発生しているという報告も大事だが、逆に「異常なし報告」をしておくことも重要であること。アメリカの緊急報告体制に倣った「事実報告」→「情勢判断」→「意見具申」の短時間報告。アメリカの緊急事態においてはエレベーターに乗る15秒の間にこれをやるべく定められているそうですが、ビジネスシーンでも十分使える、いや使うべきやり方でしょう。

また、組織のいわゆる「集団愚考」についても本の中で引き合いに出されていました。平常時の「全役員総意」にこだわらず、集まれる人でまず集まり、社長の決断のもと意思決定する覚悟をもつことの重要性、そうしたことができていないケースの多さも指摘されています。

学ぶべき示唆は多いですが、一方で、やや根性論に偏っているところもあります。また政治についての見解、政治家についての評価も偏りがある気が私にはしました。

またこれは本の特性上いたしかたないところもありますが、同じような話があちこちで行きつ戻りつしているところもあります。文体としては読みやすいのですが、佐々氏の考える危機管理とはとどのつまりなんなのか、を体系的に理解するのは難しかったです。もっとも重大事件の場合、セオリー通りの判断ですべて賄えるはずもなく、自身の頭の中にあるさまざまな経験知を、その事件の内容、おきたタイミング、関係者の状況(どの政党が政権を握っていてリスクに対してどの程度のスキルがあるかなど)によっても違ってきますから体系化などできるはずがない、というのが著者の見解なのかもしれません。

ということで読みやすくも読みにくい一冊でした。重大事件周辺で起きているドラマを、臨場感を持ってまずは読んでみるというのにふさわしい一冊かと思います。


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