見出し画像

大黒屋光太夫

船の難破、厳寒での過酷なロシア滞在。帰国の許可も中々おりない中、ロシア滞在を勧められ、それでも希望を捨てずに交渉し、十数年ぶりに日本帰国とあいなった人物の生涯を綴る吉村昭氏の歴史小説です。

この本を読む前、アメリカ彦蔵自伝という本を読みました。光太夫よりも
100年ほどのちに、やはり漂流し、アメリカの船に拾われ、アメリカに渡り、のち日本に戻って通訳として活躍し、何不自由のない生活を送る浜田彦蔵と比べると、光太夫の苛酷さたるやなんなのか。

帰国をあきらめ、ロシアで何不自由のない暮らしをしたほうが、光太夫の
苦労たるや少なかったのかもわかりません。しかし、彼は、船長として責を果たすべく、ほかの水主とともに帰る道をあきらめませんでした。そこまでして帰った日本での生活、についてはあまり詳しくこの本では書かれていません。将軍との謁見など、当時にしてみたら大変なことだったでしょうが、エカテリーナに外国人でありながら会い、帰国を交渉する冒険談に比べればどうしても薄味なエピソードになってしまうゆえ、でしょうか。

ロシアの島に辿りつき、陸地に上がれた安堵よりも、光太夫が希望の光を抱いたのは「言葉」の存在。島の人々のかわす言葉から「これは何か?」という意味のロシア語であることを知った時、光太夫は「闇の中に突然明るい光明がさしたような気持ち」になります。食べ物を与えられることも、水があることももちろん大切だが、この「言葉」により、光太夫は、帰国の切符をつかみとるわけで、言葉こそが希望の第一歩となったことはとても印象深いエピソードでした。

井上靖も同じ人物を題材に「おろしや国酔夢譚」を上梓しています。この後こちらも読んでみて、筆致の違いを味わってみようかなと思っています。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?