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【差別】映画『チェチェンへようこそ ゲイの粛清』の衝撃。プーチンが支持する国の蛮行・LGBT狩り

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壮絶な「ゲイ狩り」が続くチェチェン共和国の凄まじい現実と、支援者たちの命がけの奮闘

ロシア南部にあるチェチェン共和国は、プーチン大統領の信任を得て成立している独裁国家だ。そしてそんな国で起こっている、「ホロコースト」にも似た異常な状況を伝える映画が、ロシアによるウクライナ侵攻が続く最中に公開された。

ロシアの意向を強く反映する国で起こっている狂気の蛮行。LGBTQへの理解などまったくの皆無としか言いようがないその状況には、やはり、ロシアという国への恐ろしさや理解しえなさを強く感じてしまった。

チェチェン共和国で起こっている出来事を、「LGBTQの問題」と捉えるべきではないだろうだろう。何故ならこれは、「権力の濫用」の物語だからだ。映画に登場する同性愛者の家族の1人が、こんなことを言う場面がある。

どこの国でも起こり得ることよ。
人間は権力を持ち始めると、悪用する人も出てくる。

アメリカでは、「中絶の権利」が奪われるかもしれない判断を裁判所が行った。日本でも未だに「夫婦別姓」が進まない。「多様性」こそが何よりも素晴らしいなどと言うつもりはないが、多くの状況において「多様であること」が価値を持つと思っているし、世界の流れは「多様性をいかに認めるか」という方向へと進んでいるはずだ。そういう情勢にあってなお、「多様性など認めない」という判断が当然のようになされることが、私にはとても恐ろしいことに感じられる。

私はLGBTQではないし、この記事を読んでいるあなたも違うかもしれない。それでも、「自分には関係ない」とは思わないでほしい。「権力が『多様性』をいとも簡単に奪い去る」という物語として受け取られるべきだと私は思う。

「チェチェンに同性愛者は存在しない」と断言する、独裁者・カディロフ

映画には、独裁者であるチェチェン共和国の大統領カディロフが、恐らく外国メディアのものだろう取材を受ける場面があった。記者は、「チェチェン共和国で、性的マイノリティーに対する虐待の疑惑が報じられていますが、どうお考えですか?」と質問する。カディロフは、「何を聞きに来たのかと思えば、そんなことか」と前置きした上で、はっきりとこう断言した。

チェチェンに同性愛者は存在しない。
もしいたら、カナダにでも連れて行ってくれ。

一国のトップが臆面もなく堂々とこんな主張をする国が、チェチェン共和国である。

チェチェン共和国は、イスラム教徒が大半を占めることもあり、独自の文化・言語を有する、かなり閉鎖的な国だという。そんな国において、「同性愛」は「不名誉なこと」として扱われる。なんと、家族の中に同性愛者がいると分かった場合には、「血によって償うべき」と考えるのが一般的なのだそうだ。つまり、「家族の恥を『殺す』ことで解決する」という意味である。

映画の冒頭で映し出されるアーニャという女性は、助けを求めた支援団体のメンバー・デイヴィッドの電話で、「このままでは父親に殺される」と訴えていた。映画が始まってすぐの場面であり、観客はその切迫感をリアルには受け取りにくいのだが、「同性愛者だとバレたら家族に殺される」ことが当たり前の国だと知れば、アーニャの訴えの緊急性がよく理解できるだろう。

アーニャは、叔父に性的指向のことを知られてしまい、「自分と関係を持たないと、お前の父親にバラすぞ」と脅されている。デイヴィッドの見立てでは、アーニャが叔父と関係を持っても、父親に性的指向を知られても、彼女は家庭内で静かに抹殺されるだろうと予測していた。その判断には、アーニャの父親が政府高官であるという事実も多少なりとも関係しているのだが、そのような特殊な家庭環境でなくても状況に大差はないそうだ。

凄まじいことに、チェチェン共和国では、同性愛者に対しての拘束・暴力は「罪に問われない」という。要するに、国を挙げて「家族内での”清算”」を推奨していると言っていいだろう。映画の中では防犯カメラ映像も流れ、性的マイノリティーの人たちが街中などで暴行を受けている様子が映し出される。その中では、多くの人が捕えられ、殴られ、髪を切られたりしていた。

中でも最も衝撃的だった映像は、道路上で横たわる女性と思われる人物の顔めがけて、両手でなければ持ち上げられないほどの石を振り下ろとしているものだ。映像は、振り下ろされる石が手から離れる前に終わったが、恐らく横たわっていた女性は亡くなってしまったと思われる。

凄まじい状況だと言っていい。

外国メディアに対する取材の中でカディロフ大統領は、「民族の浄化のため」という表現を使っていた。まさにこれは、ナチスドイツのホロコーストを想起させる言葉だろう。デイヴィッドも、「スターリンやヒトラーの時代に戻ったようだ」という表現で、その異常さを言葉にしていた。中国のウイグル自治区で「教育」と称して拷問が行われているなどの疑惑も長く存在するが、そのような状況は、どんな理屈を捏ねくり回したところで、「現代版ホロコースト」と呼ばれて然るべき残酷なものだ。

そんなことが現代に起こっていることがやはり私には衝撃でしかない。

先述した通り、カディロフが独裁を続けられる最大の理由は、プーチン大統領の後ろ盾があるからだ。チェチェン共和国における「性的マイノリティーへの迫害」は決して、プーチン大統領が主導しているわけではない。しかし、黙認していることもまた事実だ。デイヴィッドも、「プーチン大統領に責任があることは明白だ」と主張している。

というのも、「性的マイノリティーの拘束・拷問に対して抗議し、調査を依頼する嘆願書」の提出が阻まれてしまったからだ。支援者たちは、多数の署名を集め、モスクワに嘆願書を提出するつもりでいたのだが、その直前、「無許可で集会を行った」という理由で拘束されてしまう。ロシアには、チェチェン共和国の状況を改善する意志などがまったくないのである。

「ゲイ狩り」が始まったきっかけと、支援団体の奮闘

デイヴィッドは、「同じようなことがいつロシア全土で起こってもおかしくはない」と語っていた。というのも、チェチェン共和国で「ゲイ」を対象にした大規模な「粛清」が始まったのは、非常に些細なことがきっかけだったからだ。

2017年冬、麻薬絡みの捜査の過程で押収された携帯電話から、かなり際どいゲイの写真が発見された。こんなことがきっかけなのである。それから、その写真の持ち主に「ゲイ仲間を暴露しろ」と迫り、名前が挙がった者を次々に拘束しては、さらに仲間の名前を吐かせるというやり方を続けたのだ。

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