三八〇ルミヲ

仕事をリタイアし、毎日テレビを見ながら暮らせる生活を楽しもうと思ったら、テレビが人生史…

三八〇ルミヲ

仕事をリタイアし、毎日テレビを見ながら暮らせる生活を楽しもうと思ったら、テレビが人生史上、一番面白くない。目下のところ、費やす時間の優先順位は、「ヤフーニュース」「散歩」「巨人」「競馬」「ユーチューブ」「昔の音楽」だいぶ離れて、「書き物」となっている。

マガジン

  • やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった

    結婚に男のロマン(=理想)を求めていた「私」が出会い、結婚した「妻」は、家事ができない、怒り、叫ぶヒステリックな女だった。 「私」は離婚の恐怖に怯えながら、現実逃避をし、他の女との幸せな暮らしを妄想し始める。そして、極たまに見せる「妻」の優しさ、健気さだけを愛し、【幸せ】とはほど遠い殺伐とした夫婦生活に順応していく。 ◆私がもうちょっと若かった時に書いた作品です。noteでの発表にあたり、時代背景を一部修正しました。

  • ワンダーテンダーの森

    ナキタクナルホドカナシイトキに現れる「ワンダーテンダーの森」のお話をこちらでまとめています。

最近の記事

【小説完結】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #23

 それから六年がたち、四十歳を過ぎたいまでも、私は美佳を毎日思い続けている。  涼子と一緒に暮らしながら、私は誰かの人妻になった美佳を思うことでかろうじて幸福を保っている。そうしないと、涼子との結婚生活がなりたたないような気がした。涼子の怒声にがまんができるのも、私には美佳を思う幸福があるからだ。むろん涼子が私に幸福を与えてくれていたなら、私はあの時、運河沿いの道で美佳にばっさり胸を斬られることはなかっただろう。  涼子に非はない。結婚生活に失格なのは私のほうだ。美佳が与

    • 【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった  #22

       三十代も半ばを過ぎると、男は過去の女を忘れていく。まず名前が思い出せなくなり、容姿も記憶になくなり、裸も忘れ、脱がせた下着の色や形だけが妙に艶かしく残る。次々に女を忘れていき、胸ン中の宝箱に最後まで大切に保管しているのは見返りを期待せずに十代の頃に一途に愛した女だけだ。  しかし、だいぶ前のことなのでその記憶は定かではない。  私は二十歳の夏に、森高美佳と一度だけドライブをしたことがある。これは事実だが、自分の人生の名場面として憶えておこうと思っても、年齢とともにあの日

      • 【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #21

         引っ越した年の七月半ば過ぎ、会社から帰ると、涼子はテーブルの椅子にいて燻った煙草のようにぶすっとしている。目をぼんやりと伏せ、べそっかきのように下唇を突き出し、押し黙っている。そういう風采でいる時はたいていは「金がらみ」で、小遣いをもっとよこせとか何々を買えと言ってくる。だから、私は涼子の口を開かせないようあえて無視をし、さっさと料理の日の料理に取りかかり、話すつもりもなかったどうでもいい話題を口にし、心の中の何かの不満から涼子を引き離そうとした。しかし、涼子は適当に相槌を

        • 【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #20

           そのマンションは地下鉄東西線の円山公園駅から南西へ七、八分程歩いたところにあった。まだ引っ越す前、ヘアーデザイナーが家財道具を片付けた頃に行ってみると、涼子の言う通り、なかなかいいところだった。円山の森に寄り添うように佇む四階建の三階角住戸で、リビングが思いのほか広く、ダウンライト付きの天井はおしゃれな折上げ式で、壁はコンクリート、床は本物の板張りのフロアだった。ワイドスパンの大窓をはめているせいか、眺望に広がりがあり、ちょっといるだけで開放的な気分になった。その一角にバー

        【小説完結】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #23

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        • やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった
          20本
        • ワンダーテンダーの森
          9本

        記事

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #19

           涼子が朝ご飯を作ってくれなくても、会社に出掛けるのを見送ってくれなくても、私はもう不満に思わないようにした。ワイシャツのボタンが取れかかっているのに気がついた時は、裁縫箱を出してきて、自分で取りつけた。涼子がやってくれるものと期待していたら、あとできっと悲しい思いをし、いじいじと腹を立てることにもなるだろう。食事の支度にしても私が作った方がおいしいのだし、それに発想を変えて男の趣味と思えば・・・わだかまりや惨めさ、情けなさといったものが多少は和らいでくるのだった。  涼子

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #19

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #18

           翌日、私は朝から仕事が手につかなかった。デスクに座っていても心は別のところにあり、 「田島さん・・・電話です・・・・二番に電話・・・」  社内の方々から飛んでくるそんな事務的な声にも上の空だった。たまらず竹田が話しかけてきた。 「田島さん、どうしたんです? ぼんやりしちゃって。今日は朝からおかしいですよ」 「何でもないよ。ちょっと体調がよくないんだ」 「飲み過ぎですか?」 「生活の疲れだよ」 「へえェ、薔薇色の生活でも疲れることがあるんだ」 「どぶだよ」

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #18

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #17

           確かに、そう確かに、私は欲求不満だった。  金を出して解決できるものならと、女達が豊満な肢体を市場に開放している「ピンクの穴」とか「溜息の館」とか「立ちんぼ」いう店の前まで行ったこともあった。だけど、そういうところへ行き慣れていない男には、ドアを開く勇気はない。  結局私は、裸の桃子を空想の世界から解放できず、現実の夫婦生活の不満を胸に抱え続けた。  朝の風景に妻はいないもの。そう割り切ったと言っても、私の不満は涼子と一日暮らすごとに膨張した。油断をせず、涼子を警戒し

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #17

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #16

           新婚時代より二十年近くも昔の話になるが、倶知安に住む母方の祖母が病気で倒れた時、母が看病のため病院に何日も寝泊りをしたことがあった。その時、家事を切り盛りしていたのは姉だった。姉は中学三年生だったが、食事の支度から掃除、洗濯、父や弟の私の世話まで当然の顔でやっていた。私は母にしろ姉にしろ、女の仕事を当たり前にこなす、そんな立派な女達を見て育ってきたわけだ。ところが私と結婚した妻は、りんごの皮すら満足に剥けない、困った女だった。私が女に対して抱いていたものが、こうだと決めつけ

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #16

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #15

           元日の朝、私は七時に目が覚めた。襖の向こうはしんとしていて、まだ誰も起きてはいないようだった。涼子は私に撃たれる夢でも見ているのか両腕を布団から出し、万歳をするような格好で高鼾をかいていた。私は仕方なく目を閉じた。しかし、眠れず、かと言って起きれず、それから二時間ばかり布団の中で寒い時間が過ぎるのを待った。その間に二階から涼子の両親が起きてきた。襖越しに話し声や新聞を広げる音、食卓を整える音が聞こえてきた。私は小便が我慢できなくなってきたこともあり、もうこの辺で布団から出て

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #15

          【童話】うさぎつねの悲しみ

           青い青い山おくの森に、うさぎの親子が住んでいました。  父さんうさぎはラビーシェ。子どもうさぎは兄がライで、妹はラミといいました。  ラビーシェは、とても教育熱心な父親でした。  ラビーシェの教育テーマは、ただひとつ。それは森の中で生きぬく方法を子どもたちに教えることでした。  ラビーシェは草間の土にきつねの絵を描き、とがった顔を枝切れでつんつんと叩きながら、生徒である子どもたちに言いました。 「きつねには、近づくな」 「どうして?」  息子のライが聞いてくる

          【童話】うさぎつねの悲しみ

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #14

           十二月三十日、私たちは特急大空3号に乗って釧路へ向かった。その時、席のことで涼子とちょっと揉めたことを覚えている。  世間の夫婦はどんなふうに座る席を決めているのか知らないが、私たちの場合は、いや正確には涼子のルールブックでは、女性が窓側に座ることになっていた。新婚旅行の時に千歳から成田へ向かったJALの飛行機でも、余市を一度だけ訪ねた時の岩内行きのバスでも、この時に乗った大空3号でもそうだった。「女が窓側に座るもんよ。常識じゃないの」と言った顔で、涼子はいつも先にふん反

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #14

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #13

           私はかつて日記をつけていたことがある。子供から大人へ向かう人生の転換期を記録に残そうと、サッカーの部活を終えた高校三年生の三学期に何となく思いついて始めたものだ。そんな目的だったから最初から長く続けるつもりはなく、ある日が来たらやめるつもりでいた。そのある日というのは結婚式のことで、妻となる女との出会いやデートの日々を克明に綴って、後々に眺めればいい思い出になるだろうと思ったからだ。ところがそんな意識や行為があるとなかなか縁には恵まれないもので、高校時代に好きだった森高美佳

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #13

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #12

           十二月の初め、涼子が風呂に入っている時に母から電話があった。暮れに、実家に帰ってくるのを楽しみにしているということだった。私は年末の二十八日から休みになるから二十九日には余市に帰れるだろうと言ったが、受話器を置いてからちょっと不安になった。  涼子が初めて私の実家に泊まるのだ。  実家はりんご園を営む農家で、しかも古い家風なので、涼子は長男の嫁として家事から掃除まで、いわゆる「女の仕事」をさせられるだろう。隣近所にも年始の挨拶に行かねばならない。涼子の苦手なことばかりで

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #12

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #11

           今思えば恐怖の兆候はあった。それは、婚約時代に涼子が私のマンションに泊まった時のことだ。朝、私は先に起きていて未来の花嫁のためにベーコンエッグを作っていた。対面型キッチンのカウンター越しに見えるリビングの断熱サッシの向こうは、セントバレンタインデーが過ぎたというのに朝から猛吹雪だった。晴れていれば正面に見える大倉山シャンツェも白い嵐に呑み込まれていた。だけど最愛の婚約者と一緒に朝を迎えたせいだろうか、陽差しがたっぷりと溢れる真夏のどの朝よりも室内がパッと煌めいてみえた。フラ

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #11

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #10

           桃子は私の職場の看板娘で、切れ長の二重の目とハーフのような幅の細い鼻を持った、ショートカットの女だった。裾をざっくり短く刈り、きれいな左右の耳の全形を晒したそのヘアースタイルは、汗と根性と青春の体育系女子の爽やかさがあった。  挨拶がきちんとできる気が利く女で、上司からも同僚からも愛されていた。化粧っ気がなくても輝きがあり、私も前からいい子だなと思っていたが、恋愛の対象というより、職場の花のイメージが強かった。  ずいぶん前の話だが竹田が気軽に誘って、会社の仲間と飲みに行

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #10

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #9

           当時、私達には毎月一回結婚記念日があった。結婚一カ月記念日、結婚三カ月記念日というふうに毎月十七日をお祝いの日とし、ワインで乾杯したり、寿司屋に出前を頼んだりしていた。だが、例えば、 「涼ちゃん、今週の金曜日は何の日だと思う?」と、言いだすのは私の方で、たいがい涼子はその日を忘れていた。私が寂しくなって拗ねると、 「こういうのは普通女の方から言いだすもんよ」と涼子は言った。 「でも、僕が言い出さないと。涼ちゃんは忘れているんだもの」 「忘れちゃいないわ。田島さんが先

          【小説】やっと結婚できたと思ったら妻は家事をしない怒る女だった #9