三上留実

ゆらゆらと、遊ぶように。 X&Instagram→@be__boy_

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マガジン

  • 童話

    こいぬのカイくん、こぐまのルディくん、野ねずみさん、リスさん、トカゲさんとそのおともだちによるお話集です。

最近の記事

楽園のように

それは、ぼくができることの唯一であり、楽園の近くまで行くことであったように思われます。 これだけは、これだけは「守る」ということだけは。 優しく、優しく、その細い枝葉たちがけして折れないよう。 水を与えて、日の光であたためて、 強風が吹こうが、嵐が訪れようが、 一本たりとも、折らせない。 それを見ていた太陽が、木には聞こえない声で言います。 「目には見えない、でも確かに存在しているものが、あなたをずっと守ってくれているのでしょう」 そうやって木は毎日大事に、枝葉を守り

    • おいかけっこ

      ここはとある市街地の川沿い。 「今日は何かいいことあったっけ」 ぼくが川べりに座ってぼうっとしていると、目の前を、四つの足をバタバタさせながら、トカゲさんが急いで走り過ぎていきました。 「なんですか、なんですか。ぼく食べたっておいしくはないですよ」 うしろからねこさんもやっていきます。どうやらトカゲさんを、ねこさんがおいかけているようです。 「食べようとしているんじゃあないよ。おもしろいからおいかけているんだよ」 トカゲさんがしばらく走っていると、道の端に小さなしげみを見つ

      • リハーサル

        「せーのっ、で跳ぶよ!!」 「せーのっ!!」  空は青い。なんでかは分からない。 リスさんはそんなことを考えながら、木の実をかじっていました。木の実からは太陽の匂いがします。  太陽の一部が表面に宿った。表面はそう思えるような温かみを帯びていました。  そうだ、夏だ。もうすぐ、夏だ。南中の角度が高まっていくうちに、受け入れていかなきゃいけない夏。  なんだかぼくは夏が苦手だ。そう思ってリスさんは、一つ木の実を食べ終えました。  木の実の種が、ぽとんと落ちます。太陽のこど

        • 「バンクシー」

          彼はカンバスを持っていなかった。絵の具も絵筆もなかった。 家の駐車場の壁に描かれた落書き。これが、彼の作品だった。 光、うみねこの鳴き声、音楽…。 目に見えない、そのかたちを、右目でも左目でもないもう一つの目でみて、描き出す。 小さい頃からずっと変わらず、青とピンクと黄色いクレヨンで。ぎりぎりまで、短くなって、持てなくなるまで。 彼の作品には、共通点があった。 他の人にはみえないものであること、でもたしかに存在しているものであること。 そして誰もが「なつかしく思うもの」で

        楽園のように

        マガジン

        • 童話
          14本

        記事

          dawn

          濁った薄靄に、一条のひかりが差す。 それは、希望のように。「理解」のように。 あと一歩、「これしかない」が「知る」を促す。 美しいから、進む。 その美しさにだけ気付いていればいい。 もうおわりだなんて言わないで。 これがはじまりだと言って。 熱源まで手をのばす、さいごまで。 さいごまで。

          空の上のペダル屋さん

          遊ぼうよ。ぼくら楽しいから、ペダルをふむんだよ。 ペダルをふんで、はじめよう。 このはしごをのぼって、あのおうちに行けばペダルは手に入るよ。 息をするように遊ぼうよ。 きみだけのペダル、手に入るよ。 緑の絨毯。春草の匂い。風にまかせ、ちょうちょがひらひらとんでいきます。 澄んだあおぞらの下、どこまでも広がる野原の上で、ひつじさんはおひるねをしていました。 そんな夢をみていたひつじさんの鼻先に、ちょうちょがちょこんととまりす。 「そうだ、ペダルを買おう!」 ひつじさんはとつ

          空の上のペダル屋さん

          電車が通る高架線の下で

          そのノイズは必要だった。 だから、ぼくはゆっくり呼吸をする。 「美しいと思ったんでしょう?だったらきっとこの先もずっと美しいよ」 ぼくが好きだったのは、そんなことを言う橘先生だった。 先生は現代国語を担当する若い男性の教師で、ぼくが所属する文芸部の顧問だった。 先生は生まれも育ちもこの町だった。 前に、先生の母もこの町で生まれ育ったという話を聞いたことがある。 愛しそうに、独特の方言を話す母より、都会生まれの父の方が「訛っている」ように感じていたと授業で話していた。 それだ

          電車が通る高架線の下で

          うわの空

          チェス盤の上で、ぼくたち駒になったみたいだね。 野ねずみさんとこいぬのカイくんは落ち葉のベッドの上でチェスをしていました。 「ルークがうごくよ」 「ビショップは僧侶でも、象でもあるんだ」 駒のとりあい、カチカチした音と跳ねるひかりの粒たち。 ふたりの間を通りぬける乾いた風で、目の前のカラタチバナの実がゆらゆら揺れています。 「ぼくきづいちゃったんだ。このままルークをうごかせば、ビショップがとれるよ!」 「わあ、やっぱりカイくんはじょうずだなあ」 カイくんが白の駒を動かし、野

          ルシッド·ドリーム

          発するということは、得るということだった。 初めての音は、いくども方向をかえて、流星群となって、ぼくらにふりそそぐ。 エイトビートが真空を刻んで、揺らす。 そのグラデーションの成層圏の下ではまだ太陽がしずみきっていなかった。 フクロウとぼくは小高い丘で、一本だけたっているモミの木の上とその横にいました。 ぼくは言います。 「なんか目をあけてねむっているみたいだね」 「本当だね。ねむりとは準備なような気がする。すべてには準備が必要なんだ。とつぜん幕が開けたらつまらないだろ?

          ルシッド·ドリーム

          Girls’ Xmas

          カーテンは白いレースに真っ赤なバラ柄。 世界はピンクと白のホイップクリームにいちごがのってればいいの。 白いお皿の上にパンケーキをつみかさねる。ひどく文学的な作業よ。 いやんなっちゃう!シャンパーニュだって用意しなきゃいけないのに。 あの子たち、どこいっちゃったのかしら。 七面鳥なんていらないわ。お砂糖が合わないもの。 そうよ、お砂糖しかいらないの。お砂糖だけがあたしの喉を潤してくれる。 過剰なくらいが、ちょうどいいわ。 耳に赤いリボン。首輪は別注。 今日のために

          blueholic

          ぼくに息をさせないで。 深いみずうみの底に沈めて。 えいえんに。えいえんに。ずっと。 「美しい」の水圧にとじこめて。 その音しかきこえないようにさせて。 それ以外は何もきこえなくなりたい。 それほどまでに鮮烈な青。 からだ中を美しい猛毒で蝕んでほしい。 沈んで、沈んで。できたらぼくは、 青ずんだ太陽の一部になりたい。

          月旅行

          月へ行こうよ。 どこまでも、ハインリヒ·ハイネみたいに。 澄んだ空気、夜という名の宇宙、 明かりがともれば舞台はととのう。 神さまの備忘録、舞台上の空気がふるえ、 演者たちは月に帰る。 月へ行こうよ。 だって町楽隊がはじまるよ。 待っていたんだって。ずっと。 こんなふうにして音楽が続いてくれてよかった。 ぜんぶがつながって、秋めいた匂いにひっぱられる。 蜘蛛の糸みたいに、すぅっすぅっと。 ぼくにはもう、そう言うことしかできない。 それしか、言えない。

          ひかりのトンネル

          今夜は甘いにおいがする。 誘われている。暗闇のむこうでだれかが、ぼくらを手まねきしながらのぞいている。 「ほら、お薬もらってきたよー」 「ありがとう!」 こぐまのルディくんは風邪をひいていました。 心配したこいぬのカイくんはお薬をとどけにルディくんのお家にやってきたのです。 「咳はだいぶおちついてきたんだよ。カイくんがお薬をとどけてくれるおかげで」 「それはよかった!最近急にさむくなってきたからねぇ。しばらく安静にしていてね」 「うん!ありがとう」 カイくんは空気をい

          ひかりのトンネル

          文鳥さんの学校生活

          ブンチョウさんは桜小学校に通っていました。 ランドセルには授業のための教科書、ノート、 そしてブンチョウさんがだいすきな物理の本が、その日の授業に関係なく毎日はいっていました。 たくさんの鳥たちが校舎に入っていきます。 分子の動きと鳥たちの動きにちがいはない。 建物にすいこまれていく鳥たちをみつめながらブンチョウさんはそう思っていました。 ブンチョウさんが教室にはいり、席につきます。 まわりの同級生の鳥たちはおしゃべりをしていたり、おいかけっこをしていたり、ざわつい

          文鳥さんの学校生活

          遊園地

          野ねずみさんとリスさんは遊園地にやってきました。 入ってきた瞬間、その景色、匂いに圧倒されます。 「すごくにぎわっているねぇ。何に乗る?」 「まずはメリーゴーランドに乗ろうよ!」 とてもよく晴れた空。 いろとりどりの風船。ポップな赤、青、黄、たくさんの色が浮かんでいます。 遊園地そのものがなんだか大きな風船みたい。 ふくらんでいる、とリスさんは思いました。 野ねずみさんとリスさんはメリーゴーランドのりばへ向かいます。 なつかしいワルツがきこえてくる。 小さい頃、よく

          くまの床屋さん

          くまの床屋さん、はじまるよ。 開店は朝の8時。くまさんの朝は早いのです。 くまさん、くまさん。いらっしゃいな。 ここで待っているのは熟練のくま理容師さん。くまカットならなんでもお手のもの。 さあ、看板を出そう。 〈メニュー〉 くまカット 500えん こぐまカット 300えん ※シャンプー、ブローはりょうきんいただきません ひとりめのご来店。けむくらじゃらのくまさんがやってきました。ここの常連のくまさんです。 「暑いからさっぱりめにしてくれ」 コームで毛を

          くまの床屋さん