「指切り約束」―#霧の朝 シロクマ文芸部参加作品
あなたと走る
霧の朝 私は まだ
あなたの 姿を
目を凝らして 探し続けてる
川霧は 水面を覆い
白鷺の 立姿も 溶かしこんでしまう
高く 鋭く鳴く声だけが
鷺の寝床を 教えてくれる
あなたは この川岸を
いつも ランニングしてた。
ペールブルーの ナイキジャケットが
遠ざかるのを よく 見つめてた
私に気が付くと 走るのを 辞めて
大きく手を 振ってくれる
「一緒に 走ろうよぉ」と手招きする
二人で 肩を並べて走る
朝日が 遠くの空から 顔を出す
雲は 紫 茜色 黄金色と
衣装を 脱ぎ捨てながら
新しい吐息で 心の窓の汚れを
奇麗に 吹き払ってくれる
電線に 止まるムクドリたちは
五線譜のように 明け空に
きれいな シルエットを描く
あなたの 日に焼けた横顔が
オレンジ色に 染まり
聞こえるのは 二人の息づかいと
足音だけ
この静寂が 私の心を
琥珀色に染めて
潮騒のように 繰り返し
胸をときめかせてくれる
「今日は 何する?」
何気なさを 装って聞く私。
「そうだなぁ 高尾山へ
紅葉狩りは どうだ??」
秋の ささやかな行楽
あなたに 手を取られて 登る山道
顔を見合わせ 笑顔を交わす
山頂に着き 石に腰掛け
眼下の町を見下ろしながら
指切の 約束を交わす
「俺達 まだ 蒼い春の時代にいて、
先のことは わからないよな。
でも お互い 心を 寄り添い合わせて
つきあっていこうな」
夕食は あなたが 作ってくれた
グリーンサラダ ウエルダン・ステーキ
香のたかいドリップ・コーヒー
あなたが 私に話しかけてくる
でも 私には 声が届かない
必死で 耳を傾ける
空中浮遊
その時 自分が 空中に浮いていて
斜め上から あなたを 見ているのに
気づき あたふたする
もう一人の私は テーブルに付き
あなたと 話してる
自分の手を ふと見ると
手がすけていて 向こうが見える
私には 何が起こっているのか
わからない
ただ あなたの 横に戻りたい
それだけだ
突然 黒い幕が降りて 場面が変わる
自分が ベッドに横たわっているのを
上から 見下ろしている
何人もの人が ベッドの周りにいて
目に ハンカチを当てており
あなたが 号泣している
私の 冷たい手を握り
顔を うつむけて 動かない
歯を食いしばり 嗚咽している
その時 宙に浮いた 私の手に
触れる人がいた
その人は 白くキラキラと輝く
羽根を広げて 微笑んでいる
「さあ お向かいに来たわ。
一緒に 雲の階段を上って
いきましょう」
「階段をのぼる??って。。
あなたは 誰なの??」
「私は 天使。あなたの命は
もう終わったの。あなたには
まだ 判らないかもしれないけど
あなたは ハング・グライダーが墜落して
亡くなったのよ」
蒼い時の終わり
私の記憶は フラッシュバックした
彼と一緒に 飛んでいたハング・グライダーが
強い横風を受けて バランスを崩し
地面が 顕微鏡の画面のように
みるみる迫ってきたのを 思い出す
「ダメ 私まだ死ぬわけにいかない!
彼に さよならも、スキも言えてない」
涙が 水晶屑のように 落ちる
「人は いつかは 終わりがくるのよ。
それを 受け入れるしかないの。
あなたは 若くして 旅立つから
何度も 地上を訪れられる 機会があるわ」
天使は ゆっくりと 諭して、
手に持った杖を 一振り。
私は 雲の階段を足元に感じながら
手をひかれて 天国へ昇って行く
涙は 露となって 降り注ぐ
地上世界への訪問
天から 降りてくるたびに
私は 川霧の中を手探りして
あなたを 捜している。
霧を割いて ペールブルーの
ナイキジャケット姿の ランナーが
現れるのを ドキドキしながら待つ
あなたを みつけたら
紅色の蝶の 姿になり
その肩にとまり
耳元で ささやきつづける
「今も 大好きよ
指切りの約束 わすれない!!
あなたの 心の中にずっといるからね」
あなたは 立ち止まり 涙を拭い続ける
他のランナーは 怪訝な顔をしながら
側を走り抜けていく
小牧幸助さん企画 題「霧の中」のシロクマ
文芸部に参加いたします
小牧さんまた お世話になりますが、どうぞよろしく
お願いいたします
#忘れられない恋物語 #シロクマ文芸部 #霧の朝 #賑やかし帯 #詩 #Poetry #lyric #抒情詩 #恋愛 #私の作品紹介 #生き方 #立山 剣 #事故死