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鬼滅の刃が人気の理由は、スターウォーズにあった

「鬼滅の刃」が大人気ですね。私もあの独特の言い回しが好きで、漫画もアニメも全てチェックしています。

私が「鬼滅の刃」と最初に出会ったのは日本にいた頃で、ラーメン屋の本棚に単行本が置いてあったため、試しに読んでみました。

「絵が古いなぁ」が最初の感想。また、鬼を倒す設定なら週刊少年ジャンプで同時期に連載していた「約束のネバーランド」の方が世界観も独特で、当時はこちらの方が個人的に好きでした。

しかし、ufotableが2019年4月にアニメ化し、状況は一変。社会現象になるぐらい人気な作品となりました。

正直、まったく予想していなかったレベルの人気で驚愕しました。私も試しにアニメを見てみたら「あれ?すごく面白い?」と感じ、漫画を全巻購入したぐらいです。

この大人気を考察したところ「スターウォーズと感動した点が似ている?」と思ったため、その内容を記載していきます。また、もう一点「作品の二面性」ということもありますが、それは別記事に書かせていただきます。アニメ1期までの内容で書いていきますので、それ以降のネタバレは無しです。ご安心ください。

1:題材設定を因数分解することは難しい

因数分解

まず最初に内容面で見ていきます。よく多いのが「ジョジョの奇妙な冒険」の呼吸、鬼の設定が類似、また、刀を使うため「BLEACH」や「銀魂」と似ているからヒットしたという話を聞きます。確かに、否定できない要因です。

ただ、過去の人気作品をエビデンスに持ってきてしまうと、全てのヒット作品がそのように説明できてしまいます。「ハンターハンター」や「ナルト」も「ドランゴンボールの気力」などと例えることが可能です。極論、「鬼滅の刃」も鬼を倒す設定なら、童話の「ももたろう」と同じです。

となると、設定を因数分解することは個人的にかなり難しいと思っています。様々な人気作品がある中で、どこかしら結びついてしまいます。

また、この因数がクリティカルにわかれば、世の中人気漫画だらけです。個人的には、作者、編集者が苦労して世の中に出した作品を、過去作品のパクりと簡単に言ってほしくないと思っています。

では「設定を因数分解」ではなく、まずは「話の構造」の観点から分析してみます。

2:鬼滅の刃は、最高の「王道シナリオ」


まず、前提として「鬼滅の刃」のストーリーは理解しやすいです。設定は上記のように様々な作品と似ている点がありますが、ストーリーは王道となっております。

これは、金子満先生を中心とする東京工科大学クリエイティブ・ラボで、変化を納得させるシナリオは13の場面変化を普遍構造として持つとの研究結果が出ています。

図1

週刊少年ジャンプの漫画は「努力、友情、勝利」で有名ですが、また別に、上記のストーリープロットも当てはまるケースが多いです。漏れになく「鬼滅の刃」も上記プロットに当て込み可能です。

図2

特に6の成長描写が上手で丁寧なのが「鬼滅の刃」です。鬼の様々な能力に翻弄されながらも、主人公の炭治郎は諦めないで思考しながら戦っていきます。その思考描写が丁寧であり、読者は炭治郎が成長していると認識しやすいのです。

この成長描写が無しで、強敵を簡単に倒してしまうと「え?なぜ?なんで?」となってしまい、読者は納得感を得ることができません。

つまり、鬼滅の刃は王道のプロットを丁寧に描写している作品といえるわけです。そのため、ストーリーが理解しやすく、作品への理解が高まり「面白い」と思える1つの要因となります。

鬼滅の刃は2020年10月16日(金)公開の「無限列車編」以降で、8:試練、9:破滅(乗り越えられない困難に直面すること)、10:契機(破滅を乗り越えるための決意)と繋がっていきます。

その後で、また第二幕「葛藤」のフェーズを繰り返し(このフェーズは行ったり来たりします)、第三幕「終わり」へと移行します。

ただ、理解しやすい王道のストーリーだけでは大ヒットとはなりません。それでは次に、アニメ化の観点から分析したいと思います。

3:スターウォーズ理論からの分析


ここまででストーリーが理解しやすいという前提の説明できました。ここからは人気の起爆剤となった「アニメ化」の観点です。

まず、アニメ化を手掛けたufotableですが、映像美(ここでは「美しさ」と「壮大さ」と定義します)に長けた作品を作るのが特徴です。他に有名な作品として「Fate/Zero」、「Fate/stay night(2014年版)」を手掛けています。本2作品とも映像美が優れた作品で、「Fate/Zero」を当時見たとき「これは映画かな…?」と錯覚したレベルでした。

「鬼滅の刃」も同様に映像美が素晴らしい作品です。特に、アニメ1期の19話「ヒノカミ」は主人公の炭治郎が技を繰り出すシーンは百花繚乱が如く、凄まじい描写であり、国際的にも人気の高い回となっています。

綺麗な映像

つまり、人気の理由は単純で「圧倒的な映像美」がもう一つの要因と推察されます。作品内容が良いことは前提としてありますが、社会的現象レベルのヒットとなると、人気の要因は複数となり、今回は映像美が優れているということが「鬼滅の刃」には外せないポイントです。

同様に爆発的なヒットをした映像美が優れている作品の例を挙げると、2016年に映画公開した新海誠監督の「君の名は」も有名です。これもストーリーは先ほど記載した「13の構造」に当て込みやすく、変化に納得感が得られやすい、その上で、風景描写の緻密さと美しさが素晴らしく、観た人を圧倒させました。

新海誠監督は「秒速5センチメートル」や「言の葉の庭」など様々な映像美に長けた作品を昔から創作しています。どの作品も素晴らしいのですが、社会現象クラスのヒットは「君の名は」ぐらいです。これは前提としてやはりストーリーが要因として含まれるかと思います。

つまり「引き込むストーリー を前提とした圧倒的な映像美」が、現代のヒット要因となることがここまででいえます。

さて、ではなぜ、映像美がここまで重要なのでしょうか。ここには三つの要因があるかと思います。

① テレビ、スマートフォンの高画質化
② 動画ストリーミングサービスとの相性が良い
③ 映像美は「予測不能な期待の裏切り」を起こす

まず、①の高画質化、②の動画ストリーミングサービスの話です。①に関しては映像美が単純に活かせるという理由なので説明を割愛します。②の動画ストリーミングサービスとの相性は「どこでも、いつでも見られる」というインフラ整備の話ではなく、動画にある「シークバー」の観点です。

昔は、深夜アニメであるとDVD、TV本体に録画して見ていました。ここで、巻き戻しをする場合、ボタンを長押しし、同じシーンを高速で逆再生します。これが割とストレスでした。まず、単純に上手く巻き戻せないケースや、逆再生に時間がかかるからです。

しかし、動画ストリーミングサービスで見る場合は「シークバー」があるため一瞬で巻き戻しができるのです。これは映像美の素晴らしいシーンを反復して見れることになります。この動作により、ユーザーは映像美が映えるシーンをストレスなく、何回でも楽しめます。この最短巻き戻しが、作品印象を高めている要因にあるかと思います。例えは悪いですが、コンビニで買ったアイスをフタまで舐めて完全に楽しむ感覚です。作品を隅から隅まで堪能できます。


そして、もう1点の大きなポイントが「映像美は、予測不能な期待の裏切りを起こす 」ということです。

これはスターウォーズ作品を見たときの感想と似ていると思います。スターウォーズは1977年に「エピソード4」、その後、3年毎に、「エピソード5、6」と順次公開されました。そして、続編の「エピソード1」は10年以上の時を経て1999年に公開。その時の映像進化に当時の観客は魅入られたと話をよく聞きます。私も当時、父親にまずは「エピソード4から見なさい」と言われて順番に見ていきました。そして「エピソード4、5、6」の後に「エピソード1」を見て、映像技術の進化に驚愕しました。宇宙船の動き、ライトセイバーでのアクション、細かなカメラワークなどに驚きを隠せず、素晴らしい映像体験ができた記憶が残っています。

このスターウォーズでの映像体験と、鬼滅の刃の映像体験は似ています。近年のTV放映のアニメ映像は見やすく綺麗です。ただ、その中でも鬼滅の刃は、画面レイアウト、カメラワーク、カットワークなどがTVアニメ映像レベルではなく、映画級の映像となっていました。一度見たら、脳を鷲掴みにされ、眼球が作品から離せなく感覚になります。

アニメを見るときに多くの人は「原作が忠実に再現されているのか」、「声優は誰か」などを重視します。その状態で、圧倒的な映像美がくると良い意味で期待が裏切られ、作品に没頭し、印象が深まります。よく使われる言葉であると「予想もしていなかった素晴らしい映像体験ができる」ということです。

そこで次回も「話を楽しみたい+あの映像体験をしたい」と作品に没頭していくことになるのです。

そのため、鬼滅の刃のヒットは「理解しやすい王道のストーリーと、圧倒的映像美」といえるということになります。

ここまでですが、鬼滅の刃によく出てくる「炎」で例えるならば、炎自体が「理解しやすい王道ストーリー」、それを大きく燃やす着火剤が「圧倒的映像美」、もう一点、火を長く保つための炭が「キャラクター」にあります。

この「キャラクター」に関しては、「作品の二面性」と関連する内容なので次回に記載していきます。


【参考書籍】

・シナリオライティングの黄金則 ー コンテンツを面白くする ー 金子 満 (著), 長尾 康子 (編集)

・おもしろいストーリーをつくろう: 画創り・インパクト・プロットで考えるストーリー構造論(仮説) マンガ・アニメ・ゲームのストーリー構築法 第三版: 映像とストーリーの構造論 沼田やすひろ (著)




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。「遊びを学びに」をモットーに書いていきます。サポートに関しては、学術的な引用書籍に使用させていただきます。