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小説「塚森裕太がログアウトしたら」(読了)

先般、逝去された浅原ナオトさんの小説「塚森裕太がログアウトしたら」を読みました。
簡単に感想含めて、ご紹介します。


⚠️若干ネタバレを含みます




「塚森裕太がログアウトしたら」

キーワード:
同性愛、高校生、カムアウト、ペルソナ(他者から見られた時の自分像)

電子書籍だったため、帯情報は後から読みました

読み始める前は、ゲイの高校生がアウティングされる話かな?と想像していました。
(アウティング:他人からセクシャリティーを本人の同意なくバラされること)

例えば「ゲイ高校生→アウティング→いじめ→覚悟→前進」みたいな流れとか。

しかし、この作品ではアウティング、いじめ等の極端なネガティブ要素は出てきませんでした。

あえてテーマをあげるなら
・自らカムアウトしたゲイの高校生の葛藤
・他人からみられたときの自分像(ペルソナ)
・カムアウトされた側の困惑
・身内がセクシャルマイノリティーと知った時 等

このような心の葛藤(ジレンマ)、心理描写が中心的に描かれている作品でした。

現実世界では、カムアウトすること自体に相当の葛藤があるものですが、この塚森裕太はわりとあっさりとカムアウトします。この作品では、カムアウトした後に焦点を当てたかったのだと思います。

登場人物

・塚森裕太
タイトルのとおり本作の中心人物。ゲイの高校生。在校生一のイケメン(作中では芸能事務所にスカウトされるレベルと称される)。バスケ部エースでインターハイレベルの実力者。いわゆる学内ヒエラルキーの頂点にカテゴライズされる人気者。

突如インスタグラムで、ゲイであることをカムアウトする。周りからは意外にも好意的に接してもらえるのだが・・

・清水(ゲイの高校生)
塚森と同じ高校に通う高校生で、普段はクローゼットでゲイであることを隠して生きている。アプリで同性と肉体関係をもつ等、身体を売っている。塚森とは面識はないが、カムアウトして明るく人気者の彼を、同じゲイとして意識すると同時に、妬んでしまう。

・小山田(高校教師)
ザ・昭和世代の男性。あるきっかけで、1人娘がLGBTではないかと疑う。教師らしくLGBTを真面目に勉強したうえで、娘と向き合おうと決意するが、娘自身よりLGBTを対処することが全面に出てしまう。

・内藤(女子高生)
塚森のファン。インスタをフォローし、塚森のスクショ集めにいそしむ。誰よりも自分が一番のファンと自負している。塚森に対して憧れと恋愛感情をもっているが、塚森のカムアウトが受けとめきれないで苦悩する。

・武井(男子バスケ部後輩)
憧れの塚森先輩がいるから高校選びをしたというほどの塚森信者。未熟ながらもバスケのセンスはある。塚森のカムアウトに動揺し、憧れの塚森に裏切られたと感じてしまう。また、同性愛を受け入れられず、塚森に対して差別的な発言をしてしまう。

ほかにも、塚森を近くで見てきているバスケ部コーチや、塚森の親友の2人(うち1人は塚森が思いを寄せている男友達)など、サブキャラも多数出てきます。

構成

塚森裕太ほか4名のキャラクターたち、それぞれの視点で描かれる短編連作のような書き方です。
ショートショート集のような構成のため、わりと読みやすいと感じました。

はじめは周りのキャラクター視点で描かれて、最終章でやっと塚森自身の視点が描かれるようになっています。そのため、あれこれ話題の塚森くん自身はどんなことを考えているの?と気になりながら、読み進められます。

最後に

個人的に武井というキャラクターが発したゲイに対する差別的発言があるのですが、なかなか強烈なものがありました。驚きこそしませんでしたが、明文化されるとちょっとキツいものがあるなぁと。
LGBT当事者である作者浅原ナオトさんならではの視点なのかもしれません。

何も知らない人
無関心な人
見てみぬフリをする人
拒否する人
差別・攻撃する人
理解を示したつもりになる人
身近にLGBTがいて受け入れられない人・受け入れられる人
当事者として悩んでる人
当事者として人生を楽しんでる人

本当にあらためて様々だよなぁ、と感じました。



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