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創作小説 影女刀

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初めて書いた 微ホラー系の時代小説です ある刀を巡る事件を書いてみました
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創作小説 影女刀(9)終

この一件の一部始終を聞いた火付盗賊改の長官 長谷川平蔵はポツリと 「女の執念は恐ろしいものよ 執念が刀に乗り移り 手にした者を不幸に 周りさえも巻き込んだ 米原殿の采配がなければ お前も只ではすまなかったろうよ…」と神妙な面立ちであった 

事件から2日後 惣太郎は牢内で衰弱死していた

そして 惣太郎の妹にあたる二人は山端の養子として迎え入れられたのだ そして近田は役宅内で祝言を挙げた 近田は兄

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創作小説 影女刀(8)

惣太郎は先ほどの亡者のような顔つきから

黄土色の顔つきになり倒れ伏した 刀はより

禍々しく光り近田を刺さんとした時米原が

念仏を唱えながら刀を叩き落とした 

米原は叩き落とした 影女刀を紐で縛り 

近田を連れ 近在の寺の住職が護摩行をしている

場所まで来た すると住職はより一層強く

念じると護摩の火中から倶利伽羅竜王が飛び出し

刀を飲み込んだ 刀は悲鳴のような音を立てながら火の中に

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創作小説 影女刀(7)

近田は上司の米田金吾に米原宅を警備するように懇願した後 米原当人にも説明をした上で

米原宅近くの家屋を借り入れ見張っていた

それから二~三日した頃か 米原の屋敷付近で

明かりも付けずに彷徨く男がいた 近田は

陰から手龕灯で見つからぬように照らすと

惣太郎 本人であった 右頬に青痣が確認

できたが 全くもって正気を失ったかのように

歩き 亡者のような顔つきをしていた 

米原宅の裏門に

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創作小説 影女刀(6)

山端はこれしか言わなかったが 山端の奥方が帰り際に近田に書簡を握らせた 近田はその書簡を

役宅に持ち帰り開いてみた

「惣太郎は 二年前に上総にて消息を絶ちましたが

一年程前 ふらりと現れ 夫に内緒で仕事を

世話してくれと懇願され松房藩の下働きとして

雇わせることと致しました これは内儀である

私の一存ですので 夫久造は存じません

どうか内密に…」※現代語訳

と書かれていた 相当に内

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創作小説 影女刀(5)

だが今の被害者の関連する人物に凶行に及ぶような人間がいるだろうか?

近田はその時 ふと思い付いたことがある

刀剣商の岡田の親族についてである

被害者となった岡田 妻の房 次女のさつ

生存者の たね おたまだ だが嫡子の

惣太郎の行方が依然として解らない

近田は日を改めた後再び山端の家を訪ね

嫡男惣太郎について問いただした 山端は最初は

渋っていたが観念したのか白状した

所謂惣太郎

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創作小説 影女刀(4)

所謂あの刀は昔 ある刀鍛冶が打ったもので そのままならなんの変哲もない刀であった

だが その刀鍛冶は非常に女癖が悪い上に

その妻が嫉妬深く常に悋気を起こしていたのだ

という とうとう我慢ならなくなった女は

その刀で夫を斬り殺し 自らもその刀で自害し

果てたのだという 

だがこの話はこれだけでは

終わらず 女はその刀に自らの血を吸わせ

果てた 刀はその頃からか手にした男に幻覚を

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創作小説 影女刀(3)

凶行は近田の知り合いにも及び勘定方の成田勘蔵と言う者が夜更けに斬られていたのを発見された

近くには成田が食していたのであろう蕎麦の器と

夜鳴きそばの亭主が斬られていたのだ

成田は近田が盗賊改方に配属された時に親身に為ってくれた人物であり同じく独り身であった

親類縁者の縁が薄い近田には兄の様に思えた故に歯噛みをするしかなかったが

近田は刀に何らかの因縁があると感じたのか

近田は被害者の共

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創作小説 影女刀(2)

惨殺の起こった三日後凶行は起き今度は越前松房藩下屋敷で松房藩城代家老 堀忠兵衛永芳が何者かによって袈裟斬りに斬られ事切れていたのを下男の次郎作が発見した この一件は

城代家老の死故に奉行所が躍起になり下手人を探したが手懸かりが一向に掴めなかったのだ

近田でさえも今回の件に関しては酷く動揺した何せ賊の動きが全くと言ってよい程に読めないからである苛立ちを隠せぬままその日報告をしたが

賊はまだまだ

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創作小説 影女刀(1)

これはある刀を巡る世にも奇妙なる話である

寛政9年 四月二十日 子の刻 芝の刀剣商 岡田久次郎宅に賊が入り一家と下男下女が惨殺され 刀が奪われるという残忍な事件が発生した だがこの事件には生存者がおり 久次郎の末の娘であるたねと長女であるおかねであるその事件が起こった日は寺子屋に行き 帰りに祖父母の家に泊まった為 難を逃れていた それ故に目撃証言がなく この一件は難航を極めた だが盗まれたであろ

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