マガジンのカバー画像

【企画】夜行バスに乗って

79
2024.3月に行われた企画の収納マガジンです。 夜行バスに乗って新宿に向かう人々、見送る人々、あるいは……!! 珠玉の note クリエイターが描く、春の群像劇をどうぞみなさま…
運営しているクリエイター

#小説

SS 夜に走る【夜行バスに乗って】豆島圭さん企画参加作品

 夜行バスに乗ると疲労気味の運転手がうつむいていた。バスの運転は激務と聞いている。心配だ。 (事故が起きたら……)  薄暗いバスの通路を歩くと座っている客は外国人が多い。田舎の研修場から都内まで逃げるつもりなのか。  その時に眼のすみに奇妙な人間を感じた。夜行バスのトイレの横の席で、フードをかぶった男? が座っている。外人なのかもしれない。  激安の新宿行きのバスだ。どんな奴が乗っているのか判らない。一番後ろの席に座ると眼をつむる。 xxx 「……サービスエリアに

短編小説 | スタートライン

 集合場所に集まった全員、メガネだった。夜行バスだからね、こうなるわなと最初に言ったのは隼人だ。ワックスをつけていないせいか、いつもより髪がさらさらして爽やかに見える。華のメガネ初めて見たかも、と言って私のメガネをひょいと奪った優里に、マジでやめて、見えないから、と返すよう催促する。湊おせえな、と隼人がスマートフォンをいじりながら言う。湊が時間通りに来るわけないじゃん、と言いながら優里は、手鏡を持ち、ひっきりなしに前髪を撫でている。そのとき、突然背後から声がした。湊、家出るの

【創作】旅立ち #夜行バスに乗って

 こちらの企画に参加です。サムネ画像は「スズムラさん」の作品をお借りまました。 https://www.canva.com/design/DAF-bsmvlYQ/8Mv_yaE29uGzV7gRCRHCmg/watch (本文 ここから)  バスが到着し、待合室に居た人々は皆無言で自分の荷物を手に立ち上がった。智恵子が時計を見ると時間は20時55分だった。ほぼ時間どおりに出発できそうなので安心する。  バスから降りてきた運転手は若い女性だった、雨は降っていないものの、遠く

夜行バスに乗って。

帳面町の片田舎から新宿へ。 僕は東京へ行く。帳面町から僕の存在を消すために。 僕には妙な力がある。 人の心の声が聴こえるんだ。 この能力にだいぶ参ったけれど、蓋をする事を覚えてからは心が保てるようになった。 今ではコントロール出来るようになって狙いをつけた人だけの声が聞けるようになった。 確実に異能力だ。それを人に言ってしまうと僕は孤立することがわかったから誰にも言わない。 帳面町から逃げるように東京へ行く。 僕は……町の人から気持ち悪がられているから。 20:45 早

#夜行バスに乗って 企画参加作品|

1牧野詩織  春と風林火山号に乗って……と、ポスターには書いてあった。どういう意味だろう、と思っていたら、運転手さんの名前が乗合春さんというらしい。それがわかったとき、私は運命めいたものを感じた。私の娘の名前は、春香というのだ。春香のために、春さんの運転するバスに乗る。そんな偶然にあやかりたくなるほど、今の私は緊張している。  空気の冷えた三月の夜、ターミナルには同じバスを待つ人々が並んでいる。学生らしい複数人の男女、ピンクのツインテールが艶々した美少女、くたびれた様子の中年

春と風林火山号に乗って #短編小説

1  とうとうこの日がやってきた。  直紀は抑えきれぬ想いを胸に、帳面駅バス停に到着した。駅前の掲示板に貼られた一枚のポスターに目をやる。    春と風林火山号に乗って新宿に行こう!  弾けるような文字が躍り、そこにはバス乗務員の制服を着た女の子のキャラクターが描かれていた。何度見ても、溌剌とした明るい笑顔が可愛いらしい。  直紀はこれまで、こういった萌え系のキャラクターには全く興味がなかった。それなのに、この女の子には一瞬でグッと心を掴まれてしまった。  このポスターを

短編小説/わたしはゲーム(#夜行バスに乗って)

「取材してもいいですか?」  と声を掛けてきた女の人がいて、彼女も新宿行きの夜行バスを待っていた。駅前のバスターミナルで突然取材の申し込みと同時に名刺を渡される。でも、本名じゃなくてトレローニーって呼んでください、と彼女は言う。髪はぼさぼさで牛乳瓶の底みたいな分厚い眼鏡をかけている。月の光で水晶玉が…と言い出して瓶底をきらきらさせたりはしないのだけど、にやついている。不気味。  名刺に記載された会社はスマホゲームの開発運営を行っていると言った。 「バスの旅をテーマにゲームを作

名もなき夜に【#夜行バスに乗って】

帰る、ということは 帰る場所がそこにあるということだ。 帰る場所には待っている人がいる。 それで初めてそこがホームとなる。 僕の帰る場所と呼べるところは、 もうどこにもない。 東京の部屋はただそこに居を構えているだけで、帰る場所という言葉には値しない。僕の帰る場所はずっと、生まれた時から住んでいたあの家しかなかった。 だけど、父を追うように安らかに空へ還った母の葬式を終え、実家を処分して荷物を整理し終えると、そこはもはやただ仕切りで区切られた空間でしかなかった。 夕

小説/おめでとう。卒業と、

卒業の季節、イコール絶望。 卒業式って何だろう。結局一度も参加してないから分かんない。ただ通う場所が変わるだけで、毎日やることは変わらないじゃん。 一体なにから卒業すんの。一体なにが おめでとう なの。 新宿に向かう夜行バスの、カーテンをそっと開けて外を覗く。 景色は真っ暗で何も見えない。こんなド田舎だからダメなんだ。腐った人間ばっかりだ。 すれ違うヘッドライトの数も多くはない。こんな時間だもんね。 もうすぐ日が変わる。 私の誕生日がやってくる。 そう思うと、吐き気がする

多様性暴走バス #夜行バスに乗って【企画参加】

 友達とカフェに入って、隣の席に自分の母親と同じような年頃の女性がひとりで座っていたら、ほぼ100%、話は聞かれていると思っていい。ひょっとして、運悪く小説家や脚本家志望の人物や、邪な人間が隣になることもあるかもしれない。話す内容には気をつけた方がいいだろう。  今、そう、たった今も、私は隣の席に案内されてきた娘のような年頃の若い女性同士の会話に耳を傾けてしまっている。  私はその時、某有名珈琲店で仕事をしていたのだけれど、彼女たちが席についてからは、もはやただ画面を見つめ

小説│駆動 [#夜行バスに乗って]

 23時半の高速バス乗り場は、漆黒の中で切れかかった街路灯が瞬きを繰り返しており、錆びれた舞台上を想起させるようだった。ガード下で一列に並ぶ人々の他に歩く人はなく、時折目の前の道路を、大型のトラックが低い振動音と共に走り去っていくのだけが、唯一の動きらしい動きだけだった。  私はバスを待つ列の中ほどに立ちながら、ダウンジャケットに顔を埋めた。北国の春は遅い。3月も末というのに気温は1桁を叩き出していてた。一方で、本日の目的地では桜が開花したらしい。しまったなと、僅かな後悔が芽

【創作】夜行バスの悲劇

※この創作は  体調の悪い方、また  グロテスクな表現に弱い方は  決してお読みにならないでください。  ある意味ホラーです。 東京へ帰る手段は夜行バスにした。 新幹線よりもお値打ちだし 最近の夜行バスは とても快適だと聞いたから。 私は乗り物酔いをする。 だから長時間乗る夜行バスは 乗ったことがない。 「最近のバスはあまり揺れないから  前の席に乗れば大丈夫。  嫌な臭いも少ないし  寝ている間についちゃうよ」 私の頭を大きい手で 優しく撫でながら言った彼のことばに

短編小説/夜行バスに乗って

 帳面町には古いしきたりがあって、四人の童貞が神事を務めなくてはならない。巫男と呼ばれている。巫男に選ばれた男は死ぬまで童貞を守らなければならない。巫男の一人だった武田冨福さんが八三歳で逝去されたのは、暖冬のまま終わると思われた冬が急に底冷えしはじめた二月の終わりのことだった。  四人ということに意味があって、三人では駄目なのだろう。諜報員の眼をした自治会の人が見廻りをしている。心の奥を見透かすような笑みを浮かべて、「今日は雨ですね」と声をかけてくる。彼は黒い雨合羽を着ていて

小説/予備席の男《#夜行バスに乗って》

僕は、兄さんが託してくれた手紙を再度開いて読み返した。 「自分に何かあったときに読んで実行して欲しい」と言って手渡されていた手紙。 間違いないと思う。 夜の籠、新しき宿、そして、春。 帳面駅に貼ってあったポスターを見た時ピンと来たんだ。手紙はこの夜行バスのことを言っているに違いないって。 「予備ニ坐スラバ」って言っても小学校の時の遠足みたいに夜行バスに補助席なんてない。予備ってなんだよと思ったけど予約サイトを見てはっとした。 「4B」の席だ。 キャンセルが出たのか直前にな