永和けい

小説を書きます。

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小説│駆動 [#夜行バスに乗って]

 23時半の高速バス乗り場は、漆黒の中で切れかかった街路灯が瞬きを繰り返しており、錆びれた舞台上を想起させるようだった。ガード下で一列に並ぶ人々の他に歩く人はなく、時折目の前の道路を、大型のトラックが低い振動音と共に走り去っていくのだけが、唯一の動きらしい動きだけだった。  私はバスを待つ列の中ほどに立ちながら、ダウンジャケットに顔を埋めた。北国の春は遅い。3月も末というのに気温は1桁を叩き出していてた。一方で、本日の目的地では桜が開花したらしい。しまったなと、僅かな後悔が芽

    • 小説|甘美なる罠

       ”言葉”など、捨ててしまえたのならばどんなに楽だっただろうか、なんて、叶わない夢をずっと見続けている。 『書けないから飲みたい。今晩、暇?』  友人がチャットを寄こしてきたのは今日の十四時過ぎだった。偶然にも暇を持て余していた私は、二つ返事で承諾した。十八時。串カツの有名な居酒屋チェーン店の前に現れた彼女は、前に見た時よりげっそりとしていた。あぁ、これは溜まっていそうだ。今晩は彼女のガス抜きに徹そう。意思を固めて、店の暖簾を潜る。  座席に案内されて、真っ先に注文したのは

    小説│駆動 [#夜行バスに乗って]