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新版によせて/加地大介著『なぜ鏡は左右だけ反転させるのか』/著者インタビュー

2024年5月16日に加地大介著『なぜ鏡は左右だけ反転させるのか』が配本になります。

本書は2003年に哲学書房から出版された『なぜ私たちは過去へ行けないのか―ほんとうの哲学入門』に加筆修正を加えて改題をしたものです。

20年の歳月を経て、新版として生まれ変わった本書。新版刊行に際して、著者の加地大介さんへインタビューを行いました。
本記事では、その模様をお伝えします。


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著者略歴

加地 大介(かち・だいすけ)
1960年、愛知県に生まれる。1983年、東京大学教養学部(科学史科学哲学分科)卒業。 1989年、東京大学大学院人文科学研究科博士課程(哲学専攻)単位取得退学。博士(文学)。 2007−8年、ニューヨーク大学・ダラム大学(いずれも哲学科)客員研究員。 現在、埼玉大学学術院(大学院人文社会科学研究科・教養学部担当)教授。専門は形而上学および論理哲学。 主な著書に、『もの:現代的実体主義の存在論』(春秋社、2018年)、『論理学の驚き:哲学的論理学入門』(教育評論社、2020年)、『穴と境界:存在論的探究 [増補版]』(春秋社、2023年)など。

インタビュー内容


――本書では著者自身が夢と現実を行き来して、問いを深めていく点が印象的です。このアイデアにはどんな意図があったのでしょうか。

哲学への入門書を書くに当たって、私は、まず何よりも「哲学する」ことの楽しさを読者の皆さん自身に体験していただきたいと思いました。そのため、「哲学とは何か」ということについて「語る」(「論ずる」)のではなく、哲学することのひとつの具体的なサンプルを「示す」ことによって、哲学する人間の頭の中の展開を読者の皆さんができるだけリアルに追体験できるよう試みました。哲学者で小説家でもある三浦俊彦さんが旧版への書評で表現力豊かに形容してくださったように「著者の思考現場からの実況中継による哲学徒の実態レポート」となるような哲学への入門書を書きたかったのです。

――旧版刊行時の2003年と比較して、ご専門とされる分析哲学という学問の変化や深化などを教えてください。

当時は、「分析哲学」の「分析」とは「概念分析」「言語分析」であって、もっぱら私たちの概念や言語について論ずるのが分析哲学である、というイメージが少なくとも我が国の出版・教育レベルではまだまだ根強かったと思います。その意味で、「実在」を考察対象とする形而上学とは水と油の関係にあるような哲学だと思われがちでしたが、今では形而上学も「分析形而上学」というその立派な一分野として認定されています。また、当時は分析哲学そのものが異端視されがちでしたが、今やその手法が「グローバル・スタンダード」とさえ言われるまでに浸透し、科学哲学・倫理学・美学などの隣接分野、現象学・実存哲学・ヘーゲル主義などの現代哲学の他の学派、自然科学・社会科学・認知科学などの個別科学とのハイブリッド化が進行しています。

――この本をどのような人に読んでもらいたいですか。

どんな問いについてでも良いので考えることそのものを楽しんでくれる人、考えた結果の如何よりも考える過程を尊重してくれる人ですね。私は音楽も鳥も大好きで、最近、『モーツァルトのムクドリ』(青土社)という本を読んだのですが、その著者のライアンダ・リン・ハウプトが「わたしは、合理的な理由なくひとつの問いを愛せる人、それも大いに愛せる人の輝かしき好奇心が好きだ。」と書いていました。私もまったく同感です。特に哲学においては、色々頑張って考えたのに結局当たり前のことをただ再確認しただけだった、という「大山鳴動鼠一匹」的な事態が起こりがちですが、たかが鼠一匹によって大山を鳴動させられたということに喜びと誇りを感じてほしいです。

ーー最後に、note読者の方に向けて一言おねがいします。

 本書は、「なぜ鏡は左右だけ反転させるのか」「なぜ私たちは過去へ行けないのか」という二つの問い(だけ)から成っていますが、いまの時代、これらの問いをChatGPTに打ち込めば、たちまち答えが出てきます。仮にそれが正しい答えだったとしても、先に述べたような「考える過程」という一番美味しいところを自ら放棄しているだけだと思います。また、本書では、ChatGPTで出てくるような答えを疑ってかかるところから始まっています。ChatGPTが出す答えはあくまでも「一般に流通している考え方」にすぎませんので、そのような考え方を鵜呑みにせず主体的に再検討するという姿勢が、哲学に限らず今後のAIの時代においては一般的に重要となっていくでしょう。


 (インタビューおわり)

5月16日発売です!


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