ユカミリク

物書きを目指していた20代から光の速さで時間が経ってしまいましたが、改めて書き直してみ…

ユカミリク

物書きを目指していた20代から光の速さで時間が経ってしまいましたが、改めて書き直してみようかと一念発起しました。どんな文章を自分は書けるのか色々と模索中ですが、いつか文章を書く仕事ができたら嬉しいです。

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  • ことわざ新解釈/ショートショート

    ことわざをテーマにしたショートショートを書いたものをまとめています。

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[ショートショート]隣人

そりゃあ私だってね、あの人がそんなことをしたなんて思いたくもありませんよ。いつも笑顔で挨拶をしてくれるようなあの人がまさかね。ほら、よく言うでしょう。まさかあの人が、って。でもね、いつも思うんですよ、私は。まさかあの人が、って言うくらい、みんなあの人の何を知っているのかしら、って。ただみんな、"まさか"って言葉を口にしたいから言ってるだけなんじゃないかしら。きっとそうよね。だって、挨拶したくらいで人なんて分からないもの。え、私?私は違いますよ。挨拶どころじゃないですよ。あの人

    • (毎週ショートショートnote)大増殖天使のキス

      「なんで売れないんだろう」 私の隣に立った営業担当者が嘆息した。 棚には隙間なくリップクリームが並べられている。 "大増殖中、天使のキス!"と丸文字のフォントで書かれたPOPがやけに寂しく見える。 開発に相当の時間を掛けた結果、保湿成分とその持続性には競合他社とは比にならないものを作ることができたと鼻息を荒くしていた彼も今は意気消沈だ。 「うーん、保湿だけで売り込むのは...なかなか甘くないですね」 「甘くないかあ...」 そう呟き、彼は店を出ていった。 -数週間後- 「

      • (毎週ショートショートnote)失恋墓地

        失恋墓地。 この墓地を訪れる人は暗い表情をしているが、墓地を出る時には明るくなっているという。 「束縛之墓」と彫られた墓の前に男が一人立っていた。 男は電話で最後に言われた言葉を思い出していた。 「誰ともご飯に行くなって言われるのはもうイヤ!」 なぜ去っていったのだろうか、と思いながら彼は手を合わせた。 ふとその時、彼は横に人の気配を感じた。 女性が墓に向かって手を合わせていた。 彼女が頭を上げた時、彼は声を掛けた。 「あなたもですか、束縛」 「ええ。なぜ駄目なんでし

        • (毎週ショートショートnote)宝くじ魔法学校

          ネット上で発表された番号と同じものが私の手の中にある。 宝くじ魔法学校卒業後も技に磨きをかけたが、いざ番号を合わせられると「こんなものか」という虚無感だけが残った。 私はPCを閉じ、銀行へと向かった。外は晴天だが心は晴れない。 銀行近くにある病院の前で一人泣いている子がいた。 「どうしたの?」 「お母さんが病気で、今すぐ手術が必要だって」 「お父さんは?」 「お空の上」 途切れ途切れに話す彼女を見て、早い内に両親をなくした私は手の中にあった紙を差し出した。 「これをあげる

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        [ショートショート]隣人

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        • ことわざ新解釈/ショートショート
          4本

        記事

          (毎週ショートショートnote)運試し擬人化

          「あ、今日は吉だね」 出勤してきた中西くんのつむじが寝癖で逆立っているのを見て、同僚がヒソヒソと話をしている。 中西くんの寝癖の強弱で運試しを行うようになったのは、彼の頭が爆発していた日に上司から褒められたからという、単なる女子社員たちの気まぐれからだった。 「一昨日が大吉、昨日は末吉で、今日は吉か」 彼女たちが最近の運試しの結果を話しているのを、私はぼんやりと聞いていた。 人の目を気にしない中西くんを好きになり、みんなに内緒で付き合っている私たちが昨日電話をしていた時

          (毎週ショートショートnote)運試し擬人化

          (毎週ショートショートnote)クリスマスカラス

          刑事達の目の前に倒れている作家の指先にはダイイングメッセージが残されていた。 "クリスマス カラス" それを見て刑事の1人が呟いた。 「これはアナグラムか?」 言葉の順番を入れ替える事で別の単語となるアナグラムは、この作家の推理小説にも使われていた。 刑事達は死体を取り囲んで考え始めた。 「"カリスマ スラックス"というスラックスの似合う人物が犯人じゃないでしょうか」 「"ッ"がないぞ」 「時間がなかったとか」 「無理がある。ボツだ」 「"リスクから済ます"という嫌

          (毎週ショートショートnote)クリスマスカラス

          (毎週ショートショートnote参加作品)穴の中の君に贈る

          その穴を見つけたのは山の中を散策している時だった。 深く暗い穴の中を覗いてみると、何かが動く気配を感じた。 「おーい、誰かいるのか?」 耳をすましてみると、微かに声が聞こえた。 「おーい。助けてくれ。腹が減ったから食べ物が欲しいんだ」 ギョッとした私は、急いで持っていた食べ物を穴の中に落としていった。 「食べ物を穴の中の君に贈るからな!」 しばらくすると、少し苦笑いを含んだ声が聞こえた。 「ありがたいんだが、食べ物といっても今の俺にこれは食べられないんだよ」 私は

          (毎週ショートショートnote参加作品)穴の中の君に贈る

          (毎週ショートショートnote参加作品)バイリンガルギョウザ

          曽祖父の頃から東京に住んでいる俺は生まれながらの江戸っ子として育てられた。 東京から一歩も出ることなく40年近く生きてきた俺は、窓ガラスに貼られたメニューに目を引かれた。 「バイリンガルギョウザあります」 新しいもの好きなのも江戸っ子の気質だ。俺は暖簾をくぐって店に入った。 店の中はこざっぱりとしていて、無駄なものはない。気に入った。 ずっとこの店の中だけで生きてきたような高齢の親父さんが厨房から出てくる。 「おとっつぁん、バイリンガルギョウザっての一つ!」 「うちのは

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          (毎週ショートショートnote参加作品)全力で推したいダジャレ

          「今季は根気が大事だぞ!」 一瞬の間が空いた後、オフィス内に追従笑いが広がった。 ワンマン社長による「全力で推したいダジャレ」が毎日の朝礼で披露されるようになって10年が経つ。 笑い声に満足そうな笑みを浮かべた社長の顔を見て、周りの社員達は一様にホッとした顔をしていた。 ある日、前職が外資系コンサルという経歴の山田さんが役員として入社した。 朝礼で山田さんが紹介された後の事だった。 「今季がヤマだからな。頼むぞ山田くん!」 お決まりの笑い声が広がるかと思った矢先、山田

          (毎週ショートショートnote参加作品)全力で推したいダジャレ

          (毎週ショートショートnote参加作品)立方体の思い出

          あの頃の俺は、暇さえあれば湾岸線を飛ばしていた。 派手にカスタムした愛車は否が応でも目立ち、警察に追いかけられることも一度や二度ではなかった。 海岸沿いの駐車場では別のグループがたむろし、その日の機嫌によって談笑する時もあれば、殴り合いの喧嘩に発展する時もあった。 あいつと出会ったのはその頃だった。 喧嘩で大怪我を負ったある日、病院に駆けつけたあいつは俺を責める事なくただ泣いて俺のそばにいた。 その瞬間、俺は恋に落ちた。 今、あいつは助手席で少し目立ち始めたお腹をさすっ

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          (毎週ショートショートnote参加作品)告白雨雲

          「いつも舌打ちされるんですよね」 そう発した男とそれを取り巻く男たちの表情は一様にどんよりとしていた。 彼ら、雨雲の表情が冴えないことを気にした親分肌の入道雲は「告白雨雲の会」という雨雲の悩みを吐露する場を設けた。 悩みを皆で吐き出せば、きっと表情は晴れやかになるはずだと思っていたのだが、のっけから愚痴は止まらず、暗雲が漂っていた。 「イベントの時なんて露骨ですよ。運動会に遠足、老人会。こっち来んなって、老若男女から」 「そうそう。頭痛がしてきたのも雨のせいだ、とか」 「

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          (毎週ショートショートnote参加作品)ジュリエット釣り

          「今日のやつらは演技力が足りんよ」 助手はそれを聞いて腹の中で嘲り笑った。 演出家のこの男が無類の女好きである事は業界では有名だった。 オーディションにかこつけては自分好みの女優が現れると合格をちらつかせて関係を迫って、飽きたら捨てる。 今回の舞台、ロミオとジュリエットのオーディションも、裏ではジュリエット釣りだと揶揄されていた。 「次の方どうぞ」 入ってきた美女に助手は僅かな既視感を覚えた。 演出家は好色そうな笑みを隠す事なく女の方に近づいていった。 「では、ロ

          (毎週ショートショートnote参加作品)ジュリエット釣り

          (毎週ショートショートnote参加作品)日本ダイエット

          「憂国の士としてあの場所でハンストする!」 湾岸の埋め立てに着手した建設会社の汚職事件のニュースの最中、男はインタビューでそう語った。 スタジオは苦笑だったが、彼が芸能人顔負けの二枚目だったことから大きく話題になった。 男が向かった埋め立て地には若い女性が向かい、彼女たちは「これもダイエットの一環だ」と言って一緒にハンストを行った。 加速度的に増えていく女性とマスコミの加熱ぶりは海外でも報道され、いつの間にかハンストは日本ダイエットと名付けられた。 「この埋め立て地の工事

          (毎週ショートショートnote参加作品)日本ダイエット

          [掌編小説]配信者

          もしもし。ああ、姉さん、私。久しぶりね、って先週も電話したじゃない。そう、火曜日。覚えてないの? 相変わらず忘れっぽいのね。まぁいいわ。父さんは?いないのね、そう。いや、何でもないの。ねえ、父さん、怒ってた? あ、やっぱり。そうよね、SNS上とはいえ、勝手に父さんを殺しちゃまずいわよね。まさか見つかるとは思わなかったもの。ちょっと、怒らないでよ。だって仕方ないじゃない。そうやって言った方が同情票も入るんだし。考えてみてよ。「父さんを不慮の事故でなくしました」と「父は教師です」

          [掌編小説]配信者

          (毎週ショートショートnote参加作品)違法の健康

          路地裏にひっそりと佇んでいる病院に、1人の男が入っていった。 「君、飲み過ぎには...」 「先生、それは言いっこなしですよ。俺にはこれがないと生きていけないんだ」 浅黒い顔で口元を歪める男の姿は、服の上からも分かるほど筋骨隆々な姿だった。 医師が渡した薬を持ち、男は人目を気にしながら去っていった。 「先生、あの患者さん」 「うん。健康維持のアドバイスを求められたんだが、根っからの天邪鬼が邪魔して簡単に言うことを聞かないんだ」 「だから、あんな?」 「そう。『これは違法薬

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          (毎週ショートショートnote参加作品)株式会社"のおと"

          加奈子は髪をかき上げ、看板を見上げた。 「株式会社 “の音”」 興味を惹かれた加奈子が店に入ると、昔ながらのカセットテープがいくつも置かれていた。 「夏祭りの音」 「打ち上げ花火の音」 なるほど。だから”の音”なのか。 変に納得した加奈子はふと一つのテープに目を止めた。 「かの音」 加奈子はそれを手にしてレジにいた老人にお金を払うと、老人は加奈子にニヤリと笑いかけてきた。 加奈子は家に帰り、テープを再生した。しかし、何も聞こえてこない。 ちぇ。不良品か。 しばらくし

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