見出し画像

(毎週ショートショートnote参加作品)穴の中の君に贈る

その穴を見つけたのは山の中を散策している時だった。
深く暗い穴の中を覗いてみると、何かが動く気配を感じた。

「おーい、誰かいるのか?」

耳をすましてみると、微かに声が聞こえた。
「おーい。助けてくれ。腹が減ったから食べ物が欲しいんだ」

ギョッとした私は、急いで持っていた食べ物を穴の中に落としていった。
「食べ物を穴の中の君に贈るからな!」

しばらくすると、少し苦笑いを含んだ声が聞こえた。

「ありがたいんだが、食べ物といっても今の俺にこれは食べられないんだよ」

私は夜食用に持ってきていたカップラーメンを放り入れたが、そもそもお湯がないのだから食べられる訳がない事にはたと気づいた。

「それは申し訳なかったね。そうだよな。うっかりしてたよ。まさに穴があったら入りたい気持ちだ」

相手が少し笑っていたせいか、不謹慎な冗談が口から出た私に穴の中から返答があった。

「じゃ、入れてやるよ」

その瞬間、穴のような真っ暗で大きな口が私を飲み込んでいった。

======================

(410字)
たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?