地政学的に最悪の立地にある国ランキング!!
最近学歴の話ばかりでしつこいので、久しぶりに地政学トークを。
世界には様々な国があり、地政学的に恵まれている国もあれば、困難な立場に陥っている国もある。例えば日本は天然資源を算出しないという一点を除けば極めて恵まれている。周囲を海に囲まれ、外敵から守られているからだ。お陰で日本は騎馬民族の侵入を防げたし、共産圏からの脅威も少なかった。
しかし、世界の国は日本ほど幸運な立場にはない。今回は地政学的に不遇な立場の国を考察してみよう。
第5位 ポーランド
最近はマシになっているが、この国の地政学的な立ち位置は非常に悪い。周囲を強国に囲まれている上に国境が平地ばかりばかりだからだ。侵略者をせき止める山脈や海が存在しないのである。したがって、ポーランドの歴史は外敵による侵略ばかりだった。モンゴル軍が欧州に侵攻したときに攻め込んだのもポーランドである。世にいうワールシュタットの戦いだ。
ポーランドは栄えていた時期もある。17世紀がそうだ。この時代のポーランドリトアニア共和国は強大な国土を抱え、大帝国として君臨していた。しかし、三度にわたるポーランド分割で国家は消滅してしまった。ナポレオン戦争の際に一時独立するも、ナポレオンの敗北とともに再度分割された。この時代からフランスとポーランドの友好関係は始まる。フランス軍元帥のポニャトフスキはポーランド最後の王の甥にあたり、祖国復活のために奔走していた。
ポーランドが復活したのは1918年だ。第一次世界大戦によってオーストリア・ドイツ・ロシアの三帝国が崩壊したため、民族自決の潮流に乗って独立することができたのだ。
しかし、ポーランドの運命は暗かった。その理由はほぼ全てがこの国の微妙な位置取りにある。ドイツとソ連の間に位置していたため、双方から狙われる立場にあった。その上ポーランドという共通の敵が存在するため、ドイツとロシアは緩衝地帯の下で協力することができた。戦間期のポーランドはただ存在するだけで独ソの恐怖の同盟を促進してしまったことになる。しかもポーランドとフランスが友好関係にあったおかげで、英仏はソ連を巻き込んだ対独包囲網を構築することができなかった。しかもポーランドは中途半端に大きい国だったので、ドイツまたはソ連の従属国になることもプライドが許さなかった。
1939年、ポーランドは独ソによって侵略され、占領地となる。英仏はポーランドを支援するために参戦したが、地理的理由で全く役に立たなかった。ここでようやく第二次世界大戦の地政学的構造が完成した。ポーランドが消滅したため、独ソは隣接するようになり、対立関係になった。独ソ開戦によってようやくソ連は西側の対独同盟に加わることになった。ポーランドが消滅したことでようやく独ソは離間したともいえる。
第二次世界大戦中のポーランドはひどい目に遭い、虐殺によって国民の6分の1が死亡した。ポーランド亡命政府は1944年に一斉蜂起を始めるが、亡命政府を敵視するソ連によって見殺しにされ、20万もの市民が殺害された。ポーランド国家は独ソのはざまで残忍に扱われ、戦後もソ連の衛星国となった。ポーランドは1989年まで真の独立を得ることはできなかった。
現在のポーランドは地政学的に安全な位置にある。ポーランドは冷戦終結後にNATOとEUに入ったからだ。お陰でより強大な西側世界の一員として生き残ることができた。地政学的に不安定な国が取れる一番良い解決法はどこかの大国の傘下に入って緩衝地帯をやめることなのだ。ポーランドとバルト三国は西側の衛星国になり、ベラルーシはロシアの衛星国になったことでようやく安定を得ることができた。
第4位 北朝鮮
朝鮮半島は東アジアの地政学的緩衝地帯であることが多く、常に踏んだり蹴ったりの状態だった。秀吉の朝鮮侵略や清朝の朝鮮侵攻など、常にこの国は攻め込まれる立場である。日本・中国と近代になってからロシア・アメリカの緩衝地帯にされ、大変な立場にあった。
19世紀の朝鮮王国は非常に弱い国だった。日本の軍隊が上陸しても何もできなかったのがいい例だ。近代化を進める日本としては朝鮮王国の弱さは問題だった。ここにロシアが進出してくると困るからだ。戦前の日本は日米安保のような都合のいい存在はないので、自分の身は自分で守るしかなかった。日本はなんとしても朝鮮半島からロシアを排除する必要があった。
日清戦争で日本は清朝に勝利し、朝鮮の独立を勝ち取ったはずだった。しかし、朝鮮側は日本の衛星国になることを良しとせず、ロシアに泣きつこうとした。日本はロシアが朝鮮半島に進出するのを恐れていたため、日露戦争が勃発した。日清日露戦争は朝鮮半島の進出を巡る戦争であり、日本はこの戦争に勝利した結果、朝鮮半島を植民地にすることができた。
第二次世界大戦後、半島は今度はアメリカとソ連によって分割されることになる。南北分断の始まりだ。朝鮮戦争によって300万人の死者を出し、南北は恒久的な緊張状態になった。この問題は今も解決されていない。北朝鮮は米中ロの緩衝地帯となり、非常に難しい地政学的立ち位置に置かれた。北朝鮮は他国によって振り回されるのを嫌がった。これをイデオロギー化したのが主体思想である。北朝鮮は異常な全体主義体制を取ることによってアメリカに軍事的に対抗し、中国とソ連から自立しようと試みた。きわめて強引なやり方だ。
この戦略は北朝鮮の生き残りには役に立ったが、代償は大きかった。北朝鮮の経済は破綻し、高度に栄える東アジアの中心で極貧の暮らしをしている。この国はいつ崩壊してもおかしくない。日米中ロの四か国にとって囲まれており(北朝鮮の見解では韓国は存在せず、南に陣取る敵はアメリカである)、外国の干渉から身を守るので精いっぱいだ。この立場を打開するために作られたのが核兵器である。北朝鮮の独裁体制・鎖国・核問題・貧困問題といった特徴はこの国が置かれている難しい地政学的立場に端を発している。
北朝鮮は現在アメリカと中国の緩衝地帯となっており、きわめて地政学的にデリケートな国となっている。38度線は西側の自由世界と東側の専制世界の境界であり、同時に大陸勢力と海洋勢力が衝突する点でもある。経済格差も世界一大きい。東アジアでもし戦争が起きた場合、確実に北朝鮮は戦場となるだろう。
第3位 ウクライナ
ウクライナもポーランドとよく似た困難を抱えた国だ。周囲は見渡す限り平原であり、ロシアとヨーロッパの境界に位置する。ウクライナという国名も実は境界という意味である。
ウクライナはポーランドと違って独立国家としての伝統がほとんどない。西部はポーランドの、東部はロシアの支配を受けていた期間が長かった。ウクライナ人とポーランド人の関係はあまり良くない。ポーランド分割でこの国が消滅すると、ウクライナは完全にロシアの支配下に入った。
ウクライナは近代になると悲惨な運命をたどる。第一次世界大戦で戦場となり、続くロシア内戦で独立に失敗して多くの犠牲を出した。1933年に大飢饉で大量の死者を出したこともあった。独ソ戦では激戦地になり、ポーランドと同じくらいの犠牲者を出した。
ウクライナの地政学的困難はソ連崩壊後に際立つことになる。隣国ポーランドとの落差は明らかだ。ポーランドは西側世界の仲間入りをし、政治的安定と経済発展を手に入れた。ウクライナは西側に入ることができず、かといってロシアと同化することもできず、中途半端な存在となってしまった。こうした緩衝国は西側とロシアの双方から介入を受けるため、政情不安になりやすい。経済的にも苦境が続き、ポーランドとの経済格差は3倍に開いた。
独立ウクライナは常に政情不安が存在したが、2014年のマイダン革命の後はついに武力紛争に突入した。東部ドンバスでは激しい内戦が続いた。2022年のウクライナ侵攻でついにロシア侵略を受け、ウクライナは踏んだり蹴ったりである。
ウクライナの抱える困難は一言で言うとヨーロッパとロシアの間でどっちつかずになってしまったことだ。さっさと西側に決め切ったポーランドとは明暗が分かれてしまった。
個人的な予想だが、金王朝崩壊後の北朝鮮はウクライナと似たような地政学的立場に置かれるのではないかと予想している。早急な同一は困難だろうし、常に中国の政治的介入があるだろうから、政治は常に不安定だろう。
第2位 アルメニア
この国の地政学的な立ち位置は本当にひどい。東西を敵国のアゼルバイジャンとトルコに挟まれているからだ。アルメニアはロシアだけが頼みの綱だが、隣接するジョージアはロシアと犬猿の仲だ。ロシアがアルメニアを支援するときは南側から回り込んでイラン経由で回廊地帯を通るほかになく、非現実的だ。アルメニアは孤立無援と考えた方がいい。
アルメニアの歴史はそれなりに悲惨だ。19世紀までは良かったのだが、20世紀初頭にオスマン帝国による大量虐殺を受け、人口の半分を殺されている。この点はユダヤ人に近いところがある。どちらも古い歴史と宗教を持ち、エルサレムに街区を持っている。聖書に登場する民族のうち、現存するのはユダヤ人とギリシャ人とアルメニア人だけとも言われるのだ。
アルメニアは人口300万人の小国であり、アゼルバイジャンやトルコに比べて非常に人口が少ない。その上石油収入のあるアゼルバイジャンと違ってこれといった産業がなく、人口も減少傾向だ。成長著しいトルコとアゼルバイジャンに圧迫され、この国は押しつぶされようとしている。頼みの綱だったロシアはウクライナ戦争で忙殺され、もうアルメニアを守る気はないようだ。アルメニアはロシアとの同盟を解消して西側に接近しようとしているが、西側はどうにも無関心である。
第一位 イスラエル
イスラエルの地政学的な立ち位置は最悪だ。なんでこんな場所に国を作ったのか、地政学的には狂気の沙汰だ。聖書に書かれているという理由で敵のど真ん中に入植しようとしたのがユダヤ人なのである。アルメニアはまだ山がちだったから良かったが、イスラエルは平地なので、本当に遮るものがないのだ。これはイスラエルという国家が近代に作られたきわめて人工的で不安定な国であることを示す。
イスラエルの地政学的な酷さを語ればキリがないが、国土の形を見るだけで明らかだろう。1948年当時の国境であるグリーンラインを見てみると、中央部に食い込むようにヨルダン川西岸地区が存在しており、経済の中心であるテルアビブは細長い回廊地帯に位置する。なんとここの幅は10キロ強しかない。戦略的な縦深性という観点では最悪である。イスラエルが首都と主張するエルサレムに至っては、自ら西岸地区に食い込む形になっている。首都が敵陣の隣にあるという大変無防備な位置取りなのである。しかも南部の紅海への出口はエイラートという小さい町のみであり、ここが攻められたらイスラエルは南方への出口を失ってしまう。
イスラエルは先制攻撃をかけられたらひとたまりもない。何しろ喉元に短剣を突き付けられているようなものなのだ。この地政学的脆弱性を解消するために第三次中東戦争で周辺地域を強奪し、領土を拡大した。エジプトとの間の和平条約でシナイ半島は返還されたが、現在でもイスラエルは西岸地区を占領統治している。
また、イスラエルの位置取りは地域において非常に重要だ。アラブ世界の中央に位置する上にスエズ運河に隣接し、しかも聖地エルサレムを抱えている。イスラエルの地政学的重要性が原因でこの国は常に狙われる立場であり、中東地域の紛争には常に巻き込まれる立場である。エジプトが勢力を拡大するうえではイスラエルは通り道になるし、シリアやヨルダンの動きにも必ず影響されてしまう。
そして最も厄介なのは周辺のアラブ諸国がイスラエルを激しく憎悪しているという事実である。世界に関係の悪い国は沢山あるが、ここまで熱狂的に憎まれている国も珍しい。アラブ人は1948年の建国当初から常にイスラエルを目の敵にしてきたし、それは和平を結んだ現在でも変わらない。それにアラブ諸国のみならず、インドネシアやパキスタンといったイスラム世界全体でイスラエルは憎悪の対象だ。20億のイスラム教徒に憎まれるイスラエルはいつ滅びてもおかしくないだろう。ゾンビに包囲されたショッピングモールのような国である。
こうした事情が影響して、イスラエルは世界で最も好戦的な国になっている。何かあれば常に先制攻撃だ。西岸は絶対に手放さないし、ガザも封鎖を続けている。国際社会で悪者になろうとも、第二のホロコーストを招くことに比べれば安いものだと考えているだろう。イスラエルの地政学的な立ち位置は世界最悪なのだが、イスラエルの強大な軍事力のおかげでウクライナのような緩衝国にはなっていないのである。
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