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韓国博物館#05.「巨匠の視線、人に向かう~英ナショナル・ギャラリー名画展」

 現在、ソウルの二村(이촌)にある国立中央博物館では、10月9日まで「巨匠の視線、人に向かう~英ナショナル・ギャラリー名画展」を開催しています。

 ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵の絵画が韓国で紹介されるのは、これが初めてです。来韓したのは、15世紀のルネサンス美術から20世紀初頭の後期印象派まで、50人の巨匠によって描かれた作品です。

 この巨匠というのが、ボッティチェッリ、ラファエロ、カラヴァッジオ、ティツィアーノ、ベラスケス、レンブラント、ヤン・ステーン、ヴァン・ダイク、ゴヤ、トーマス・ローレンス、ターナー、コンスタブル、セザンヌ、ルノアール、マネ、モネ、ゴーギャン、ファン・ゴッホ・・・錚々たる名前がずらり。

 これは、絶対に、見逃せん!

 開催直後から大人気ということで、チケットを予約し、有料のオーディオガイドも借りて、特別展に臨みました。

特別展「巨匠の視線、人に向かう~英ナショナル・ギャラリー名画展」

ご挨拶

ルネサンス時代、古代ギリシャ・ローマのように人々は再び人間に目を向け始めました。当時、依然としてヨーロッパ美術において宗教と神が重要な地位を占めていたものの、それでも神の世界を描いていた絵画に、人間が観察した世界を描くようになったのです。

16世紀に教会が分裂し、一方ではカトリック信仰の高揚を図るような美術を発展させた反面、もう一方では宗教美術が偶像崇拝を呼び起こすのか憂しつつ、そしてさらに、他者に対する関心が自分自身への関心へとつながりました。その頃から絵画は「何を描くのか、どれだけ似ているのか」の問題から逃れるようになりました。

…(略)…

「人」という言葉を思い浮かべながら絵画にあらわれた画家の視線をたどってみてはいかがでしょうか。素敵な絵を鑑賞すると、その時代を生きた人々の物語が聞こえてくるかもしれません。

特別展のご挨拶


I.ルネサンス、人のもとに来る神(르네상스, 사람 곁으로 온 신)

 ルネサンスの画家たちは、空間描写の線的遠近法を習得するために数学を、人体を正確に描写するために解剖学を、そしてインスピレーションを得るために古典を探求しました。キリスト教の観念に従い抽象的な神の世界を描いた中世の画家たちとは異なり、自らの瞳に映る世界を科学的に分析することで、作品を創造したのです。

サンドロ・ボッティチェッリ《聖ゼノビウスの3つの奇跡》1500年頃
ラファエロ《アルドブランディーニの聖母》1510‐1511年頃

ルネサンス美術では、それまでの平面的な表現とは異なり、聖母マリアと幼子イエスには「感情」が込められています。さらに金色を基調としていた背景には、自然や建物が描かれるようになりました。人の手の届かない世界にいた神聖な存在が、地上に舞い降りたのです。
ダミアーノ・マッツァ《ガニュメデスの略奪》1575年
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《女の肖像》1510‐1512年頃
ジョヴァンニ・バッティスタ・モローニ《Portrait of a Lady, perhaps Contessa Lucia Albani Avogadro》1556‐1560年頃

◇◇◇

II. 分裂した教会、異なる道を行く(분열된 교회, 서로 다른 길)

 1517年にマルティン・ルターによって始まったローマ・カトリック教会に対する宗教改革。新教のプロテスタントが誕生し、キリスト教世界は分断されます。

 このような背景の下、17世紀のヨーロッパ美術は発展します。イタリア、フランス、スペインなどのカトリック国家では、美術の力で人々の信仰心を高めようと試みました。そこで生まれたのが、見る者の感覚や感情に訴えるバロック美術です。一方、プロテスタントの中心である北ヨーロッパでは、絵画に描かれた人物が神のように崇拝されることを憂い、宗教美術を否定。画家たちは、自由に人物や自然の世界を描きました。

ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ《トカゲに噛まれた少年》1594‐1595年頃

まさかカラヴァッジオの作品を韓国で観られるなんて!
個人的には、今回の展示で一番観たかった作品です。
ディエゴ・ベラスケス《フェルナンド・デ・バルデス大司教の肖像》1640‐1645年

去年開催された特別展「ハプスブルク600年、魅惑の傑作」以来のベラスケス!
2年連続で観られるだなんて!
レンブラント・ファン・レイン《63歳の自画像》1669年

今年の3月にレンブラントの故郷・オランダへ旅行で行って以来、いつか必ず観たいと思っていた《63歳の自画像》が韓国に! 「わたしに逢いに来てくれたのですか?」と思っちゃう。
レンブラント最晩年の作品です。
ヨアヒム・ブーケラール《The Four Elements: Fire》1570年
ヤン・ステーン《The Interior of an Inn ('The Broken Eggs')》1665-1670年
アルベルト・カイプ《A Horseman with a Cowherd and Two Boys in a Meadow, and Seven Cows》1655-1660年

◇◇◇

III. 新しい時代、自己に対する関心(새로운 시대, 나에 대한 관심)

 17世紀後半以降、人間の理性を重視した啓蒙主義が広まります。その影響で絶対的だった神と王の権威は危うくなり、人々は次第に個人の自由と幸福に関心を持つようになりました。1789年のフランス大革命は、このような背景の下で起こります。

 新時代の絵画は、宗教や哲学思想と人々を繋ぐ媒体としてよりも、個人の経験を記録する役割を担うようになります。そう、画家たちの視線は、人々の人生へと向かったのです。

アンソニー・ヴァン・ダイク《ジョン・ステュアート卿と弟バーナード・ステュアート卿の肖像》1638年頃

第3代レノックス公爵の息子を描いた肖像画。2人は海外旅行の許可をもらい、本作品はヨーロッパ大陸旅行に旅立つ前の1638年に描かれますが、実際に旅行に行った記録は残っていません。
カナレット《カナレッジョへの入り口》1734-1742年頃
フランシスコ・デ・ゴヤ《イサベル・デ・ポルセール夫人》1805年以前

宮廷画家としても活躍したスペインの偉大な画家、ゴヤが描いた本作品。X線撮影の分析により、作品の下には男性の肖像画が描かれていることが分かりました。男性の肖像画は完成することなく、上描きされたようです。
サー・トーマス・ローレンス《チャールズ・ウィリアム・ラムトン(The Red Boy)》1825年

Sirの称号を持つ巨匠トーマス・ローレンスの《The Red Boy》。絵画としては、1967年に英国国内で初めて郵便切手に採用されたほど人気を誇る作品です。
当時6歳頃だった赤い服の少年は、13歳という年齢で結核により命を落としました。本作品は、彼の人生を記憶する貴重な記録でしょう。
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《ヘーローとレアンドロスの別れ》1837年以前
ジョン・コンスタブル《ストラトフォードの製粉所》1820年

◇◇◇

IV. 印象主義、輝く瞬間(인상주의, 빛나는 순간)

 19世紀後半、フランスで登場した印象派は、産業革命で近代化された都市に関心を抱きます。また、写真の登場で対象物をリアルに模写する必要性がなくなり、さらに、手軽なチューブ絵の具は画家たちを外の世界へと向かわせました。印象主義の画家たちは、刻一刻と変化する光と色彩を描こうとしたのです。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《A Bather》1885‐1890年頃
エドゥアール・マネ《カフェコンサートのコーナー》1878‐1880年頃
ポール・ゴーギャン《窓の前の果物が入ったボウルとジョッキ》1890年頃
フィンセント・ファン・ゴッホ《サン=ポール病院の庭の草地》1890年
クロード・モネ《アイリス》1914‐1917年頃

高さ2メートルを超える巨大な本作品は、モネが1914‐1917年の間に描いたアイリスの連作20点中の一つです。この作品を描いた当時、モネの視力は白内障の影響を受けていたと推測されています。実際、左下の部分は色が塗られていません。よく見えなかったからでしょうか。ただ、作品は彼が亡くなったときもアトリエに置かれていたため、モネ自身がこれを完成と見なしていたかどうかは分からないそうです。

◇◆◇◆◇◆◇

 今回のロンドン・ナショナル・ギャラリー名画展は、絵画を楽しみながらヨーロッパ美術の発展を学べる貴重な展示でした。

 ただ、あまりにも偉大な画家の作品が集まり過ぎて、まとまりに欠ける気がしました。線にはなっているけど、中心がない感じ? そういう点では、昨年の「ハプスブルク600年、魅惑の傑作」は、本当におもしろい展示だったなと思います。

 それでも、これだけの名作を韓国で観ることができ、ただただ感謝です。もう1回くらいは、観に来ないとな。


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