見出し画像

展覧会レビュー:キューガーデン 英国王室が愛した花々 シャーロット王妃とボタニカルアート

──酎愛零が展覧会「キューガーデン 英国王室が愛した花々 シャーロット王妃とボタニカルアート」を鑑賞してレビューする話──


 芸術と科学に興味を持って愛する心、アートと産業を結びつける起業家気質。


 どうも、実はお花が大好きでわざわざ撮影に行くほどの私です。


 以前の記事でもお伝えした通り、この秋冬に行きたい展覧会のひとつに行ってきました!

 今回は、東京都港区、東京都庭園美術館で2021年11月28日まで開催されている「キューガーデン 英国王室が愛した花々 シャーロット王妃とボタニカルアート」です!


画像11


画像12

東京都庭園美術館 南側。入り口は北側にある。


 緑豊かな国立科学博物館 自然教育園の隣に建つアール・デコ調の建物と庭園は、かつて香淳皇后(昭和天皇のお后さま)の叔父である朝香宮鳩彦王あさかのみや やすひこおう(ハトヒコじゃないよ!)の邸宅だった所です。1933年(昭和8年)に竣工したこの邸宅は、皇室離脱により朝香宮一家が退去した後、時の外務大臣 吉田茂によって外務大臣公邸として1947年から1950年にかけて使用され、1950年に西武鉄道へ700万円で払い下げられたのち、1955年に白金プリンス迎賓館として開業し、国賓・公賓が来日した際の迎賓館として1974年まで使用されました。後にホテル建設計画が発表されましたが反対運動が起き、1974年からプリンスホテルの本社として使用された後、1981年に139億円で東京都に売却されて、1983年(昭和58年)に都立美術館の一つとして一般公開されたという、実に数奇な運命をたどった建築です。ほんとにね、この建物だけで本が一冊書けるくらい濃密な歴史が詰まってるんですよ。

 時間指定制なので予約して行きましたけれど、窓口でのやりとりを見るに、時間帯に空きがあれば当日券の販売もしているようです!


画像26

 まさに森の中の邸宅。国立科学博物館附属自然教育園も含めて、こんなに広大な森が都心に広がっているのが驚き。


画像3


 ボタニカルアートの「ボタニカル」とは「植物の」を意味する英語。近年にわかに広まった印象があります。ボタニカルアートは植物の絵を意味し、美しさと同時に科学的な正確さも求められる、言わば図鑑の挿絵にも等しい仕事なのです。芸術と科学は対等、それがボタニカルアート。

 英国王立植物園 キューガーデンは、元は1759年にロンドン南西部に造られた小さな薬草園でした。ジョージ3世(1738年〜1820年)とシャーロット王妃(1744年〜1818年)の時代にその規模を飛躍的に広げ、現在ではユネスコ世界遺産に登録され、22万点を超えるボタニカルアートを所蔵する世界最大級の植物園です。

きゅー、って音的にかわいいですよね……きゅう〜〜〜

 キュー ロイヤルガーデンの展覧会は以前にも観たことがありましたけれど、シャーロット王妃のことは不勉強にして知りませんでした……いったいどんな人なんでしょうか。この展覧会でたくさん学んでいきたいと思います!


画像4


 18世紀の英国はそれまでの封建社会や宗教的抑圧から反発するように「啓蒙時代」「理性の時代」へと突き進んでいきました。合理的思考、科学的根拠を礎とし、他国に先駆けて産業革命が起き、人間社会の進歩を理性で主導しようとしていたのです。シャーロットが神聖ローマ帝国の小さな公国、メクレンブルク=ストレリッツから輿入れした時代にはそんな背景があります。なぜ小国からお妃を選んだのか、主な理由は「政治的影響力がなさそうだから」だそうです。ここからも、王室内での権力闘争の臭いが伺えますね。

 ところで東京都庭園美術館って、お越しになった方はわかると思いますけど、建物自体が貴重なレトロ建築なので、私のようなレトロ建築マニアにはたまらない空間なんですよね。展示品と建物と、どちらに集中していいかわからなくなるのが、この手の建築で行われる展覧会の難点とも言えます。


画像12

 ルネ・ラリックのデザインによる、正面玄関の翼を広げた女人像ガラスレリーフ扉。現在は開閉することはない。


 シャーロットは生来、芸術と科学に興味があり、植物学にも関心があったそうです。私も自己紹介における「好きなジャンル」のコーナー筆頭に芸術、科学を載せていますし、わざわざ撮影に行くほどお花が大好きです。なんか親近感!😃😃😃
 18世紀英国では産業革命や啓蒙思想を追い風に、女性の活動が躍進しています。植物学や水彩画を学ぶことは女性の教養のひとつとされ、出版物を用い、女性の家庭教師をつけて勉強し、女性知識人による交流会で時事問題や文芸に関する議論が交わされ、女性による慈善事業、人権運動も活発化していきました。シャーロットも娘ともどもキューガーデン付きの画家にボタニカルアートを学ぶなど勉強熱心だったそうです。


画像5

 第一階段を上がった二階の広間のタペストリーは撮影可能。ここは各部屋へつながるいわゆる階段室だが、宮家の時代にはピアノが置かれるなどして家族の団らんの場としても機能していた。

 

 この展覧会、何の予備知識もなく、またお花にも陶磁器にも興味のない人が観たら(図鑑をバラして1枚1枚はりつけだけじゃん。ツマンネ( ゚Д゚))くらいの感想しか持たないかもしれません。たしかにボタニカルアートは他のアート作品と比べて主義主張が少なく、「意図を伝える」でもなく「考えさせる」わけでもありませんので、地味だと感じる方は少なからずいらっしゃると思います。けれどそれは、ボタニカルアートが何よりも「科学的正確さ」に重きをおいているからです。後世に残すための記録でもあるからです。不必要に元気な花とか、無駄におどろおどろしい草とかの、イメージを乗せた絵だったら、その植物の姿は正しく伝わりませんよね。
 ボタニカルアートの真の魅力は、鑑賞ではなく、実践にあると、私は考えます。実践とはなにか。それは実際に本物の植物を鑑賞してみることであり、栽培してみることであり、自分でその植物を描いて記録を取ってみることです。記憶の中の植物たちと、スーパーリアルに描かれたボタニカルアートの花たちがリンクしたとき、その正確さを生み出す技工に思わずうなるはずです。この展覧会は、お花を鑑賞する習慣のある人であればあるほど楽しめるでしょう。


画像6

 2階南側ベランダのタペストリーも撮影可能。床の大理石の市松模様が美しい。殿下と妃殿下の寝室からのみ出入りできる、ご夫妻専用のベランダ。


 また、今回の展覧会はボタニカルアートのみならず、それを用いたシャーロットの起業家的、文化育成者的な手腕にも着目しました!ウェッジウッドの陶磁器が同時に展示されているのは、その隆盛にシャーロットが大きく関わっているからなのですが、私はここに「魅力的な商品開発」「自身がインフルエンサーになることによる世界的認知」「裾野を広げることによる教養の浸透」を見ました。


 1761年、乳白色の硬質陶器「クリームウェア」を改良し、一部を機械化することによって廉価で品質の高い陶器を製造することが可能になったウェッジウッド社に対し、シャーロットは1765年に「クィーンズウェア」の名を与えて王室御用達とします。さらに芸術の域まで高めた植物の写生画「ボタニカルアート」を陶器に入れる礎を築き、シャーロット王妃の後援を受けたウェッジウッドの製品は、各国の王族や貴族の間で愛用されるようになり、かのエカテリーナ2世からも注文が来るほどに人気を博しました。

 これは産業支援の成功例です。私はアートを鑑賞するとき、それを作るものの目線と、それを売買するものの目線とを持つように心がけていますけれど、シャーロットからは単なるお金持ちの気まぐれとか思いつきではない、見込みのあるものに投資し、自らのコネクションやネームバリューを用いて販路を広げるという確かな戦略を感じ取ることができました。


画像7

 英国のドローイング・ルーム(応接間)。元は夕食後に食堂から引き上げてきた女性たちのおしゃべりの場。ボタニカルアートを描く部屋としても使われるようになる。


 私がもうひとつ、すごい!と思ったのは、文化・教養の裾野を広げたことです。バラ戦争(1455〜1485、赤バラをシンボルとするランカスター家と白バラをシンボルとするヨーク家の王位継承権争い)の頃より英国は花と親和性が高かったとは思うのですけれど、日常使いする器に植物文様を入れたり、植物学や水彩画を王妃が率先して学んだりして、植物を時代の先端に押し出したことは特筆すべき功績だと思います。植物に親しむ国民性はやがて熱心な庭師ガーデナーを育み、今や「イングリッシュ・ガーデン」の名は世界的なものとなっています。ボタニカルアートを通じた交流は、後年、精神を病んだジョージ3世を献身的に看病したシャーロット自身をも支えたことでしょう。


画像8


 アートを通じた交流は、世代や性別を超え、今も新しい活躍の場を広げ続けています。アナログであってもデジタルであっても、現実世界でもネットの世界でも、その交流は休みなく続けられ、日々仲間を増やしてゆく。そんな世界を目にしたら、シャーロット王妃はなんと言うでしょうか。「note!?面白いことを考える人がいっぱいいるのね!どうやって使うの?私も書き込んだりできる?」「有料販売か、なるほど……もっと多くの人の目に触れるには……もっと付加価値をつけるには……」「ねえ、あの子たち見込みがあるわ。今のうちからコラボしときましょ。多少時間がかかってもやっとくべきよ!」「学ぶべきことはいっぱいね!楽しい!」……なーんて、言ってくれるかな?😋


画像9



──────────



 最後に、私がもっとも目を引きつけられた作品をいくつかご紹介します。展覧会にお越しの際は、ぜひともご覧いただきたく思います。

作品No.7〈ゴクラクチョウカ(ストレリチア・レギネ)〉
 極楽鳥の頭のような派手な花。学名のストレリチアはシャーロットの旧姓「メクレンブルク・ストレリッツ」に由来する。

作品No.17〈セレニケレウス・グランディフロルス(大輪柱)〉
 絵に主題以外のモチーフを描き込むことによって暗示的にその花の性質を示している。この場合は時計、時刻が真夜中であることからこの花が夜咲くことを暗示している。

作品No.39〈シャーロット王妃の肖像〉
 やや出目、鼻は大きく、唇は厚い。メゾチントで印刷したもので、確証なんかなにもないけどたぶんこれが本当の姿に近いと思う。ゲインズバラとかレノルズは盛りすぎ。

作品No.50〈ウェッジウッド平皿(クィーンズウェア)〉
 ジャポニスムが伝わる前の作品だがこれはまさしく花鳥画。日本人の美的感覚と親和性が高い。

作品No.56〈ポートランドの壺〉
 古代ローマの壺を当時の技術の粋、ジャスパーウェアで再現を試みた作品。作品そのものよりも古代への挑戦、公開は招待を受けた者のみという上手い売り込み方の方に関心が行く。本物は大英博物館にある。

展示第4章「カーティス・ボタニカル・マガジン」
 1787年初版、現在も刊行されている驚異の書物。銅版印刷の線画に手彩色を施していたが現在はカラー印刷。

その他、進化論の提唱者、チャールズ・ダーウィンとウェッジウッドの知られざる関係は必見。調べなければわからない、これぞ歴史のロマン。


──────────


😋オマケ😋


東京都庭園美術館 日本庭園

画像12

画像13

画像14

画像15

画像16

画像17

画像18

画像21

画像22

画像25

画像23

画像24

画像25

画像26





 今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 それでは、ごきげんよう。


画像26



サポートしていただくと私の取材頻度が上がり、行動範囲が広がります!より多彩で精度の高いクリエイションができるようになります!