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短編小説「海の幸せ」

私は永遠に変わらぬ静寂を抱えながら、岸辺に身を寄せる。波が静かに押し寄せ、砂浜に触れた後、そっと引き離れていく。この潮の律動が、私の内なる深淵に静かな平穏をもたらす。孤独に包まれながらも、喜びに満ちた感覚が私を包み込む。

夜が訪れると、月がその柔らかな光を海面に映し出す。星々が夜空を彩り、その輝きが波のさざめきに重ね合わさる。私はこの美しい風景にただただ酔いしれ、深い感謝の念を捧げる。

昼間には、太陽がその熱を放つ。その暖かな光が私の肌を包み込み、生命の息吹を感じさせる。潮風が私をやさしく撫で、遠くで響く鳥の歌声が私の耳を包み込む。全てが静謐ながらも、活気に満ちた喧騒に満ちている。

季節が移り変わると、海岸は様々な姿に変わる。春には新緑が芽吹き、海岸線は鮮やかな花々で彩られる。夏には波が荒れ狂い、その荒々しさに圧倒される。秋には風が冷たくなり、葉が赤や黄色に染まる。冬には静けさが深まり、私は自らの内に静かな思いにふける。

潮の流れは常に変化していく。時には激しく、時には静かに。しかし、その変化こそが私の存在を形づくっている。私はただ潮の流れに身を委ね、そのうねりに身を任せる。

人々が訪れると、私は彼らの喧騒に包まれる。彼らは私の恩恵を享受し、漁をし、海水浴を楽しむ。彼らの笑顔が私の心を満たし、その幸福が私の幸福となる。

時には彼らが私を汚すこともある。ゴミが海に流れ込み、私の清らかさを汚す。しかし、私はそれでも彼らを受け入れる。彼らが私を大切にする限り、私も彼らを大切にする。

人々が去り、再び静寂が訪れる。しかし、私は決して孤独ではない。海の底には無数の生命が息づき、私と共に生きている。私たちは互いに支え合い、この大いなる世界で共に生きる。

海の幸せは、時に穏やかであり、時に荒々しい。しかし、そのすべてが私の美しい旋律を奏で、私の心を満たす。私は永遠に変わることなく、ただただ海の幸せに身を委ねるのだ。

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