ぎゃーっと飛び上がり、おしゃべりクッキングと紅白を消してやったという話し
3日ぶりに自宅へ戻った昨日の夜。
誰もいないはずの部屋で私を出迎えたのは、世の中の嫌われ者〝G〟だった。
窓を開け換気扇を回し、母の部屋へ入った瞬間、ヤツは居た。
ぎゃーっと飛び上がり、すぐさま殺虫剤を取りに走る。
こいつめー!
私の唯一の武器を向け発射するが、どうもヤツの様子がおかしい。
なんとヤツはひっくり返るでもなく、歩行時のそのままの姿でお陀仏していたのだ。
締め切った部屋で、よほど高温だったのだろうか。
なかなかしぶといはずのGさえも呆気なく殺してしまう温度まで上昇していたかと思うと、違う意味でちょっと怖くなった。
半泣きになりながら死体を回収。
なんで帰って早々、こんなことをしなくちゃならないのかと…。
他に死体がないか不安になり、あちこち見て回り、ようやく落ち着きを取り戻す。
やはり、家はあまり留守にするものではないな…。
ましてやこんな猛暑の季節に。
***
死体が転がっていないか母の部屋を物色していると、ビデオデッキの録画マークが点滅しているのに気付く。
先週の土曜日から緊急入院となった母。
録画時間が不足となり、ドラマが録画出来ていませんよーという点滅だった。
勝手に触るのもどうかと思いつつ、録画一覧をポチッ。
まーまーな数のドラマが録画されており、病室で観ているかも知れないが、何を観たかは分からないのでそのままに。
不思議だったのは、なぜか『上沼恵美子のおしゃべりクッキング』が録画されており、再生した形跡のあるものもそのままとなっていたこと。
そんなに上沼恵美子が好きだったのか?
いやいやそんな話は聞いたこともなく、もうすっかり料理などしなくなっている母がなぜこの番組を何本も録画していたのか…。
料理番組よりもドラマの方が観たいだろうと勝手に判断し、おしゃべりクッキングは全て削除。
それでも録画時間は不足のまま。
録画一覧を遡ると、昨年大晦日の紅白歌合戦がまるっと残っているではないか。
今さら絶対観ないと自信が持てた。
だってもう7月だよ?
あと5ヶ月でまた紅白するよ?
ていうか、紅白、観たよね?
というより、録画していることすら覚えていないに違いなく、これもまるっと削除決定。
ここでようやく時間不足で溜まっていた予約番組がほぼ録画可能に。
***
昨日のお昼頃、そんな母からやっと2度目の電話がかかってきた。
土曜日に血液検査をし、炎症反応の数値が戻っていれば、点滴から内服に変更した上で退院できるとのこと。
『娘さんに言っておいた方が良くないですかー?』と看護師さんに言われたから電話をしたと話す。
言われなくてもして下さい。
てかそんなことまで教えてくれなくてもいいんだけどね。
「病院から何も知らされてないので、何か分かったらすぐに教えてよねー」と念押し。
「いやー、薬の副作用みたいなんだけど、お腹がゆるくてねー。
おまけにちょっと吐き気もするのよー。
だからなんだかねーそんな気分になれなくてー」
「吐き気のことは看護師さんは知ってるの?」
「…ん?」
「いやいや、それ言わないと。
違う薬に変えることも出来るんだから」
「あーそう?んーはい、わかりました」
「大丈夫?ちゃんと食べてるの?」
「はい、食べてますよー。
でも、そっちはどうなのー?あなたのことが心配でねー」
「人の心配してる場合じゃないでしょ?
私は大丈夫だから。心配しなくても元気だから!」
「はいはい、わかりました」
入院している90の母に心配されているとは…なんとも情けない限りだ。
でも話し口調がさらに元に戻っていたので、少し安心した。
「トイレに行く時は必ず呼ぶようにって言われているのよー」
そりゃそうだ。
だからこそポータブルトイレを置いているのだ。
しかし大の時は外のトイレまで歩いて行くらしい。
「呼び出しボタンを押してもなかなか来てくれないのよねー。
すぐそこなのよートイレ」
「看護師さんも忙しいから。
でも絶対勝手にひとりで行ったらだめよ?
転倒でもしたら大変でしょ?」
お人好しで空気の読めない母であるが、なかなか頑固なところもある人なので、もしかしたら勝手に行っているかも知れないと思い、釘を刺しておいた。
「はいはい、わかりました」
何度もわかりましたと繰り返すが、本当に分かっているのかどうかは疑問に残るところである。
看護師さん達に迷惑をかけていなければいいのだが…。
どうか無事にこのまま退院できますように。
また以前のように、録画したドラマを楽しむ日々が早く訪れますように。
そしてその時はどうか、上沼恵美子と紅白が消えていることに気付かれませんように。
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