小説「オレンジ色のガーベラ」第3話
第3話
「るるるん。今日は何を書こうかなぁ?」
みずほは鼻歌交じりに一人ごちた。
手にはスマートフォンが握られ、Twitterのページが開かれている。ちょっと首をかしげたみずほは、すぐに書き込み始める。
「『靈はいない』『おばけは存在しない』はウソ!
見えないだけでたくさんいるんだよ。靈やおばけが見えてる人もいるけどね(笑)」
「わたしたちは肉体があるから生きている。死んだ人は肉体が無い。でも共通点はある。死んでも生きていても意識はあるってこと」
「生きている人=肉体を使うことが許されている靈人。
死んでいる人=肉体を返した靈人」
みずほは日々こんな書き込みをしている。
元々ベースになる知識をほとんどの人は知らない。知らないというか、世の中の人は誰も教えてもらっていない。
知らないことを知る。
その土台を作らなければ、精神病といわれるものが病ではないと、認識されにくい。
『精神病は病氣じゃないんです!』
『薬をやめましょう』
『心療内科に行っても良くならないですよ』
このような主張を繰り返している人は多い。しかし、実際には患者数は減るどころか、うなぎ登りだ。
もっと根本から考え方を変えていかないと、患者と呼ばれる人たちは減らない。みずほはそう考えている。
「せっかくいただいた教えだもん!他の人にも伝えないとねぇ!」
人から見たら地道過ぎる作業だと思われるかもしれない。もっと手っ取り早い方法を探してみてはどうかと言う人もいるかもしれない。
でも、みずほはこの一つ一つの言葉が誰かに届くことを願いながら、書き込みを続けていた。でも、この文言は自分が学んだことを整理して、わかりやすい言葉に置き換える自分のための作業でもあったのだ。
みずほは弾む気持ちを抑えながらも、スマートフォンの画面をタッチし続けた。
みずほがTwitterを始めてしばらくしてから、ポツポツとフォロワーが増えてきた。自分の発信をチェックしてくれる人がいるんだぁ、とみずほは嬉しくなる。
どんな言葉なら人に届くんだろう?
どういう表現なら人の琴線に触れるんだろ?
そんなことを考えながら、みずほは日々繰り返し発信を続けた。
大きなリアクションがあったのは、梅雨になる前の真夏のような暑さの日だった。
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なんか目障りなんだよな、このつぶやき。
いや、イラつくのはこの暑さのせいか?
そうじゃない。やっぱこのツイートのせいだ。
何?靈が見えるのは病氣じゃない、だと?
当たり前じゃん、そんなの。
なんで、今更そんなことをわざわざ書くんだよ。
たださ、当たり前だと思っているのは俺だけかも知れないな。だから、俺は口に出さないけどさ。
その俺が他の奴に言わないようにしていることを、こんなに大っぴらに書く奴がいると、氣になるんだよ。
次はどんなこと書いてあるんだろって。
絶対にこんな奴と会ったりしないとは思うけどさ、イチイチ検索するのはメンドーだから、フォローしておくか。
フォローだけじゃ氣がすまない。一言言っておかないと、コイツ絶対に調子こいて書き続けそうだからな。
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あ、わたしのつぶやきにコメントがある。
なになに?
「そういう常識から外れたことばかり書いていて、恥ずかしくないのですか?」
ふ〜ん。このアカウントの雰囲気からして、男子だなぁ。そして、文章が丁寧だ。
抗議しているような雰囲気だけど、違うな。言葉が丁寧だからこその攻撃的な雰囲気もあるんだけど……。
みずほはしばらく考え込む。
そっかぁ、わたしのことを心配してくれているんだ。おそらく同じような体質なんだろうなぁ。嬉しいなぁ。
仲間を見つけたぞぉ。
これはちひろさんに報告しなくっちゃ。
そう思ったみずほは、ちひろにメールを書き始めた。
「ちひろさん、お元氣ですか?
わたしのTwitterのつぶやきにコメントしてきた男の子がいます。なんとなくの直感ですが、わたしと同世代です。そして、同じように靈が見えるみたいです。
わたしのことを心配してくれている優しい人です。文面はつっけんどんだけど(笑)」
書き終わって送信した数分後に返事が返ってきた。
「みずほちゃん、こんばんは。
メールありがとうございます。その男子のコメントをわたしも読みました。
今まで数々のコメントがあったけど、それらとは全く違う雰囲氣。
みずほちゃんの直感、わたしも同じように感じました。
何かしらご縁がありそうですね。これからが愉しみです」
そっか。ちひろさんも愉しみだと思ってくれているのか。
わたしは世界を変えるけど、実は意識下で仲間が集まってくるのを感じていて。
その仲間で世界が変わっていく礎を築いていく、そんな予感がする。わたしはきっかけ作りなのかもしれないなぁ。
みずほはみずほなりにできることをやっていた。目に見える世界で。
実は見えない世界でも大きな流れがあり、世界全体が大きく変わろうとしていた。
(第3話2,072文字 トータル6,699文字)
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