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【あがり症】自己暗示によってセルフイメージを高めても、効果がなかった話

あがり症克服のために
トライアンドエラー
(セルフ人体実験ともいう)を
繰り返した、ロン毛のあがり症です。


今回のテーマは、
「自己暗示によってセルフイメージを
 高めても、効果がなかった話」
です。


以前、
自己暗示によるセルフイメージの
向上には効果があるのか?
という投稿をしました。


今回の内容は、
それを深掘りしたものになっています。


ぜひ読んでみてくださいね!



まずは、前回投稿した内容のおさらいから。


【おさらい】

・過去の私は、
 「人前で話す際にあがって失敗する」
 ことばかり考えていた。

 その結果、自己イメージも
 そうなってしまい、失敗を繰り返すように。


・それを解消するため、
 自己暗示(アファメーション)による
 自己イメージの改善に取り組んだ。

 「人前で話す時ワクワクしている!」
 というような自己暗示を
 半年から1年程度やってみた。


・しかし、実際に人前で話す時には
 自己暗示の効果は無かった。


こんな感じです。

※自己暗示(アファメーション)の
 言葉の定義等は、前回の記事
 書いていますので見て下さいね!


ではなぜ、私には
自己暗示が効かなかったのか?


早速結論からいきます!


それは、
人の脳は、「思考」よりも、
「身に迫る危機への対処(扁桃体の働き)」
を優先するから。



これです。


これを理解するためには、
脳の一器官である“扁桃体”の働きを
知っておく必要があります。


一つづつ説明していきますね。


扁桃体ってなに?

扁桃体は、迫ってくる自動車との衝突の可能性や、恐ろしげな通りがかりの人といった脅威を感知すると、視床下部と脳幹へただちにメッセージを送り、ストレスホルモン系と自律神経系を動員して、全身の反応をまとめ上げる。
〜中略〜
私たちが危険について意識的に自覚しないうちに、入ってくる情報が生命の維持にとって脅威になるかどうかを判断する。何が起こっているかに私たちが気づいたときには、体がすでに動きだしている場合がある。

体はトラウマを記録する P103
ベッセル・ヴァン・デア・コーク

恐怖症の対象物と出会うと、扁桃体は刺激を無意識のうちに感知し恐怖を身体的に表現する。

エモーショナル・ブレイン P303
ジョセフ・ルドゥ


引用文にもある通り、

扁桃体の役割の一つは
無意識のうちに、身に迫る危機を察知し、
身を守るための行動をとらせる
というものです。


例えば、夜道を歩いている時に、
背後より不審者が迫ってきたらどうしますか?




↓  ↓  ↓





↓  ↓  ↓





↓  ↓  ↓




ヒェーーー!!(泣)


恐らく、思考を挟むまでもなく
体が反応して、
逃げだしていると思います。

(中には、戦う人もいるかもしれませんが、、)


ひらたく言うと、
これが扁桃体の働きです。


なぜ、扁桃体は無意識のうちに反応するのか?


脳の最大の使命は、
人を危険から遠ざけ、生き延びさせることです。


その使命を果たすために、

脳内で危険を察知する情報伝達ルートは
2ルートあると言われています。


第1のルートは、
「無意識」のもとに瞬時に反応するルート。
(ただし、よく間違える。)


第2のルートは、
「意識」のもとに反応するルート。
(正確だが、反応が遅い。)


絵で表すとこんな感じです。

エモーショナル・ブレイン P195
(ジョセフ・ルドゥ)
図6-13を参考に作成


ではなぜ、
このように2つのルートがあるのか?


情動研究の世界的権威
ジョセフ・ルドゥが分かりやすく
説明してくれているので引用します。

ハイカーが林の中を歩いているとき、通り道で丸太の向こうにとぐろを巻いているヘビに突然出会った。視覚刺激はまず視床で処理される。視床の一部はほとんど原始的な、粗雑な情報を直接扁桃体に伝える。この速い、粗雑な情報の伝達によって、脳はヘビであるか無害なただの棒であるかわからないが、細い曲がった物体が意味する潜在的な危険性に対して反応し始める。

〜中略〜

視床から扁桃体への直接経路よりも、皮質路はより正確な内容を扁桃体へ伝えるけれども、皮質路を経由すると情報が扁桃体へ到達するまでにより時間がかかる。危険な状況下では、敏捷に反応できることが非常に有用である。皮質からの入力を待っているよりも、視床からの情報に反応することで扁桃体が節約した時間は、生と死の別れ道となる。 棒をヘビとして把える方が、ヘビの可能性のあるものに反応しないことより良いのである。

エモーショナル・ブレイン P198
ジョセフ・ルドゥ


扁桃体は、危険の「可能性」であっても、
過去の経験等に照らし合わせて瞬時に察知し、
反応するということですね。


なぜかというと、

自分の身に危機が迫った際、
いちいち考えて行動していては、
間に合わないかも知れませんから。


とっさに反応してナンボということです。


仮に、無害なものを誤って察知したとしても、
“察知しないよりかはマシ”というのが
扁桃体の役割です。


私の体験談


私は過去に、
職場の会議で凄まじくあがってしまい、
大勢の前で大失態を晒したことがあります。


これが、トラウマになってしまいました。


この体験により、私の”脳”にとって
人前で話すことが「極めて危険な行為」だと
認定されてしまいます。


それ以降、人前で話す場面では
無意識のうちに凄まじい
緊張に襲われるようになりました。


この”無意識の緊張”こそが
先ほどお伝えした扁桃体の働きです。


人前であがってしまう危険性
扁桃体が察知し、反応したということですね。


自己暗示はどうだったか?


例え、緊張したとしても、
自己イメージを改善させれば
人前で話せるようになると考えた私。


「人前で話す時ワクワクしている!」
といったアファメーションを繰り返し、
潜在意識の書き換えに努めました。


「緊張」を「ワクワク感」と
思えるようにも努めました。


しかし、冒頭お伝えしたように、
効果はありませんでした。


なぜ、そうなったのか?


それは最初に書いた通り、
人の脳は、「思考」よりも、
「身に迫る危機への対処(扁桃体の働き)」
を優先するから。



ジョセフ・ルドゥの言葉を借りると
こうなります。

われわれが情動でひどく苦しんでいるときには、それは何か重要なこと、おそらく生命をおびやかすことが起こっているからであり、脳のもつ資源と手段の大部はこの問題に費やされる。情動は、一つの目標にすべてが向けられた嵐のような活動を引き起こす。

~中略~

危険や他の挑戦的な情動的状況に直面すると、われわれは時間的余裕をまったく失い、予備の心的資源もなくなる。自我全体が情動に吸収されてしまう。

エモーショナル・ブレイン P357
ジョセフ・ルドゥ


ひらたく言うと、

扁桃体にひとたびスイッチが入れば、
脳のリソースの大部分は危機への対処に
使われる
ということですね。


そして、
心の余裕を完全に失った状態になる
ということです。


私も、これと同じ経験を何度もしました。


当時の私にとって、
“人前で話す”ということは、
“命の危機に直面している”のとほぼ同じです。


だから、人前で話す時には
命を守るために扁桃体のスイッチが入り、
我を失うほどの緊張状態になってしまいます。


結果的に、強い身体の反応に思考が釘付けなり、
自己暗示の効果は消し飛んでしまった
いうことですね。


さて、ここまでの説明で
お分かりになったでしょうか?


このことは、少し視点を変えてみると
分かりやすいように思います。


少し、思考実験してみましょう。


重度のあがり症の方にとって
「人前で話す」ことは、
「猛獣のおりに入れられる」
ことと同じくらい不安なことです。


なので、仮に自分が、
「猛獣のおりに入れられる」
状況を考えてみます。


もし、猛獣のおりに入れられれば、
脳(扁桃体)が危険を察知し、
有無を言わせずに緊張するでしょう。


たとえば、その時の緊張を
「ワクワクしている」といった
前向きな言葉や感覚に変換できそうでしょうか?


恐らく、私だったらそんな言葉を
思い浮かべることは無理だと思います。



猛獣と対峙した瞬間、
凄まじく緊張し、
我を失ったような状態になるでしょう。



扁桃体の反応を鎮めるためにはどうすればいいのか?


扁桃体は無意識下で反応するため、
思考の力で抑えることはできません。


反応をコントロールしようとすると、
“コントロールしないといけない危険な状況”
という刺激を扁桃体に与え、
より反応が強化されます。


扁桃体の反応を弱めるためには、脳に刻まれた
「人前で話す=危険」を
「人前で話す=安全」に変える必要があります。


そのためには、
「人前で話すことができた」
という成功体験が必要です。



ちなみにこのことは、
“情動の研究”でも明らかにされています。

条件づけされてビクビクしているのどが渇いたウサギの近くに水たまりがあったとしよう。キツネに再び出会うことなく毎日水たまりに行くことができれば、ついにはウサギは、水たまりでキツネに会ったことがなかったかのように行動するようになるだろう。

エモーショナル・ブレイン P173
ジョセフ・ルドゥー

森に行ってオオカミに襲われたが、なんとか助かったとしよう。あなたの脳はオオカミ襲われた時のことを簡単によみがえる鮮明な記憶として残す。同じ危険を避けさせるためにだ。それでも同じ場所に行くなら極めて慎重になり、瞬時に逃げ出せるように備えるだろう。しかし後日同じ森に行ってもオオカミは出てこなかった。次に行ってもまた出てこなかった。その次もその次も。そのうちに元の記憶は変化し、大きな脅威として認識されていたものへの恐怖が減っていく。つまり脳が記憶をアップデートし、現実問題どのくらい怯えていなければいけないかを調整するのだ。

ストレス脳 P64,65
アンデシュ・ハンセン


「人前で話すことができた」
という成功体験を繰り返し得る。


そうすれば、扁桃体の反応が
鎮まってくるということですね。


事実、私の経験を振り返っても、
凄まじい緊張の改善に
一番効果があったのはこの方法です。


私は、今回紹介した知見に基づいて、

“安全な場所”で、
“スモールステップ”で、
“緊張を受け入れ”ながら
場数を踏むことがいいと考えています。


ちなみに、この方法
心理学用語で表すと、

「恐怖条件付け(※)の消去」
と言います。
※レスポンデント条件付けの一つ


参考までに。


まとめ


今回は、私の実体験に基づいて、
「自己暗示によってセルフイメージを
 高めても、効果がなかった話」
をお伝えしました。


今回紹介したように、
いくらセルフイメージを高めても、
あがり症を改善できない場合があります。


このnoteをご覧の方の中には、
自己暗示をやってみて、私のように
効果が無かった方もいるかもしれません。


しかし、脳の働きを知れば、
それは理にかなっており、
当たり前だということが分かります。



ですから、落胆する必要はありませんよ。


私の体験談が
皆さんのあがり症克服の
お役に立てれば幸いです。

(関連リンク)
役に立つ話:「恐怖条件付け」について
表情に反応する脳みそ
無意識に湧き上がる緊張はどこから来るのか?
結局、「場数を踏む」のがベストな選択
場数は「スモールステップ」で踏めば大丈夫
「緊張して当たり前!」がナイスな場数の踏み方
45秒でわかる:成功体験が大切な理由
成功体験はどのように脳に働くのか?

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