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ひと言だけ

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雑記帳およびみじかい小説など
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2018年6月の記事一覧

今だけが人生

今だけが人生

地震があったね。

あっというまに日常のニュースに紛れ込んでしまった。

阪神淡路大震災はすごかった。日常があそこで分断された。

9.11のときも、世界があそこで分断された。

3.11のときも、日常が強制終了ボタンを押されたみたいになって、一旦日本が仕切り直しみたいになった。

夏目漱石が、「悲劇はえらい、悲劇のみが人を真面目にする。命に関することだけが悲劇だ。あとは喜劇だ。現代は喜劇ばかりが

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エネルギー

エネルギー

熱が全然さがらなくて、布団で何日も寝ている。

薄暗い畳の部屋に閉じこもって、外の世界の喧騒を聴きながら、寝て起きて、また眠りに落ちる。
たくさんの人たちが試合をして負けたり勝ったり、落ち込んだり喧嘩したり愛し合ったり、そういうのを想像しながら、自分はじっと布団の中で生命維持活動に専念する。

身体に集中すると頭の熱さや手足のしびれの波長をかんじる。身体が、わたしの世界の全て。手の先に落ちている黄

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イライラするので、おのれを分析!

イライラするので、おのれを分析!

イライラして困るので、原因を追究してみました。

誰かおなじことで困ってる人の参考になれば、えいな。

せっかちで、先を急いでいるから、なんか忘れたり時間に遅れたりたとき、余裕をもって「あらあら」とならずに、「なんで、もう!イライラ」となる。

せっかちはどこから来ているか。

仕事で一度にいろんなことに気を付けながら、あれもやってこれもやって、急いでばっかりいるから、それが普段も持ち越されてる。

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時計の音もまた違う

時計の音もまた違う

夜はおなじようには訪れない。長さも暗闇の濃さも。その中に含んでいるモノや音や湿度も。

怖い夜。暖かい夜。寒い夜。一人の夜。うるさい夜。永遠と続くような夜。布団の中で一瞬で終わる夜。布団の中で永遠と続くような夜。

夜、夜。よるよるよるよるよるよる。よる。

わたしは時計の刻むカチカチ、という音とともに夜を進めている。この音がなくなったら、もう朝がこないと思う。

ひんやりとした床を歩き、玄関へ向

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浮浪者みたいに、純粋に。

浮浪者みたいに、純粋に。

週末の回転寿司屋は激混みで、わたしたちの乗った藍色の車はくるくると駐車場を周回してやっと入り口から遠い隙間にもぐりこんだ。

レーンの上を流れるサーモンの肌色、さばの光る青。玉子の列。まぐろの列。皿が積み重なる。皿。皿。皿。金色。灰色。赤。青。緑。金色。

金色は一番高い480円で、これを二皿だけにとどめる約束なのに、彼が注文したうにの軍艦巻きは金色の皿に乗って大将から手渡される。
こっちを見て彼

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蛍

幸福というのはどこにあるのだろうと思う。

いつも私は探しにいって必死にそこらじゅうをあさり、疲れて幸福をさらに減らしてしまう。
「幸せはあなたのが足元に」むしろ「幸せはあなたの中に」という台詞があったなたしか。心が明るいと、なんでも楽しくみえてしまうものなんだろう。

どうしたら、心に明かりを入れられるのか。

真理子はうつむいたまま、帰り道をいそぐ。イタリアンレストランでの勤務が終わった後は、

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束の間の光

束の間の光

朝の光は台所の床に反射して、家じゅうに差し込んでくる。電子レンジの表面も、床に転がったもらいものの野菜の入ったビニール袋や、壁に立てかけてある描きかけの油絵にも、等しく光が当たって、皆、目を覚ます。私もふとんのやわらかな弾力の中から抜け出て、部屋に立って、つかのま朝の自分を捕まえる。

窓の外が今日も天気が良いと告げる。まだ6時半。日差しはこれから一気に強くなっていく。

玄関に置いてある水着とタ

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救い

救い

あるところにお姫様がおりました。
庭の井戸のところで、空を見ていました。
夕暮れの青が、空気の上に水彩絵の具を重ねるように、じわじわと濃さを増します。足元の雑草が見えづらくなり、お城の窓からは、ほっかりと柔らかい黄色の光が洩れています。広い庭のあちこちで、外灯がつき始めました。山の隆線が、月の光に照らし出されて、惑星の表面みたいに凹凸を見せます。

ずうっとこの景色を見て育ったのでした。広い庭は散

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ふきぬける水色

ふきぬける水色

味のない炭酸水を飲み、電車のホームであと26分をどう過ごすか、思いを巡らせる。単線、二両編成の電車はいつまでたってもやってこない。

向かいのホームの後ろは草むらが広がり、その後ろには小学校の校庭が見える。こっち側のホームは大通りに面していて歩道橋とパンやとでっかいラーメン屋のチェーン店がある。コンクリートがぼろぼろのホームの長さは70メートルくらいしかない。

水色の空から風が吹き下ろして、線路

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