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龍の背骨

 窓から部屋の外を覗いていた。後ろを向けば自分の全てがある。前を見ると大通りを一つ挟んだ向こうのマンションの屋上で作業員が一人仕事をしているのが目に入った。
 その人は必死に何か棒のようなものを引っ張っていた。何を引っ張っていたのかは分からないがとにかく彼は必死だった。彼は僕が見ていることには一切気付いていない様子で、まるで綱引きをしているかの様にその何かを引っ張り続けていた。この人からは全てを見られている、僕は何故かそんな気がしてならなかった。
 その日の天気予報は大雨であった事を僕は思い出し、気付くと目の前には大粒の雨が激しい音を立てて降っていた。いつの間にか窓は全開で、僕らのマンションの間にある大きな通りの空間とそれらは合わさっていった。気付くと、そこには大きく半透明な龍がいた。部屋から見えるのは筒状の大きな身体が、道路を下にして蛇の様に身体をくねらせる胴体だけであったが、それは確実に龍だった。そしてその身に纏った細かい鱗は絶えず蠢く様に動いており、それに反射した光線がその身をより一層美しく着飾っているように僕の目に魅せた。しかしそれは透明とも言える半透明の身体でありながら、僕により一層彼との隔たりを強く感じさせ、それがなんだか少し悲しかった。
 僕はその龍を部屋から眺めているだけだったが、彼はその龍の中にいるようにも僕からは見えたので、あれは本当は龍の背骨を治してあげているんじゃないのかなぁと、そこで僕はおかしくなってふふふと思わず笑ってしまったその時、ピピピピ!と追い焚き完了の音が鳴った。終了の合図だ、お風呂に入ろう。そうして僕は窓を閉め、お風呂場へと歩いて行った。
そんな音なんかほんとはないのに。



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雨の日をたのしく

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