みしらぬゆき

みしらぬゆき

最近の記事

龍の背骨

 窓から部屋の外を覗いていた。後ろを向けば自分の全てがある。前を見ると大通りを一つ挟んだ向こうのマンションの屋上で作業員が一人仕事をしているのが目に入った。  その人は必死に何か棒のようなものを引っ張っていた。何を引っ張っていたのかは分からないがとにかく彼は必死だった。彼は僕が見ていることには一切気付いていない様子で、まるで綱引きをしているかの様にその何かを引っ張り続けていた。この人からは全てを見られている、僕は何故かそんな気がしてならなかった。  その日の天気予報は大雨であ

    • はやくついたとき

      小さい通りに面している塾とアパートの間にある誰も通らなそうな細い道の先へ進んだ。暇な人が街に迷い込んだ時しか見れないこの景色を見せる為だけに、あのアパートの住民は毎日ギラギラした単色のドアと向き合ってるのかと、果たして彼らはこの景色を知っているのだろうかと、観る余裕があるのだろうかと、彼は僕を待っていたのだろうかと。今年僕は23になる。

      • 正常本能

        今日僕は、自分の中の一つの世界の終わりを見た気がする。もしくはあれは腐敗だったのかもしれない。全ては主観であった。そこには自分の人生を生きる上で自分の力で何かを変えるというのを諦めている僕がいた。それが言葉を持って伝えられたわけでもなく、それによって苦しんでる姿を見たわけでもなかったけれど、あれは確実に世界の終わりであったし、腐敗であり同時に、今生きてる僕の現実でもあったように思える。それはなんとなくある夜の、まだ行ったことの無い駅の電車の乗り換えの中に潜んでいて、また、なん

        • 梅雨の蟻

          煙草は煙を吐いた後に吸う空気が美味しく感じるから好きだ。いつか知り合った同じ大学の退学した後輩と一度だけ呑んだ時、メンソールは口が臭くなると言っていた事を思い出す。彼はお笑い芸人を目指していた。目の先がチカチカする。目眩だろうか。今日は曇りなのに太陽の光はこんなにも強いのか。いつか、誰だったか、紫外線は曇りの日も60%は地面に届くと言っていた。昨日は大雨だった。木製のこのベンチ以外地面はぬかるんでいて水溜りも乾いていない。雨がぽつりぽつりと降ってくる。また降るのだろうか。読ん

          靴擦れ

           夕方、僕は母親に下着から透けた乳首を見られた。  その日何かあったわけでは無いが、ジワジワと謎の嬉しい気持ちが昂ってきたのを感じていた僕はいてもたってもいられず外に散歩に出ようと唐突に思い立った。長袖の白い下着の上にジャージを着、ジーンズを履いて揚々と外に出ようとしていた時だった。  その日は雨が降ったり止んだりを繰り返しており、春というのに空気が非常に蒸し暑い気がしていた。その事に僕は玄関で気付いたが靴を履いてしまった手前部屋まで戻るのが非常に面倒に感じた。  その時履い