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第58話 Amazonで1位になって考えたこと

「あなたはAVでトップは取れない。でもAV以外でトップを取る」
 AVデビューしたての頃、エイトマン社長は私に言った。
 しかしこの1年後、私はアマゾンで1位を獲得した。

Amazonランキング1位(2023年9月8日現在)

「AVではトップを取れない」
 似たことを昔、誰かにも言われた気がする・・・・・・。そうだK先生だ。その人は高校の数学の先生だった。

 私は高校の頃、数学が苦手だった。しかし理系クラスにいたので、数学は避けては通れない。授業終わりや放課後にK先生を追いかけ回して、数学を教えてもらっていた。
 ある日、先生は言った。
「お前は数学のセンスがない。でも数学を必死に聞きにくる素直さだけはある」
 喜んでいいのか悪いのか。素直さだけあっても数学が解けるようにはならへんやん。
「でもな、いいことを教えてやる。数学は暗記や。ヒラメキなんかじゃない。ただ稀にとてもセンスのある天才がおって、そいつはヒラメキで数学を解ける。俺の仕事はお前みたいな学生に数学を解くためのナイフとフォークを与えて、それの使い方を教えることやねん。後はもうお前次第。上手にナイフとフォークが使えるようになるまで、何回も練習しろ。つまり同じ問題を何回も解いて暗記しろ。それを繰り返すだけや、数学は」
 素直さだけがある私は言われた通りにした。分からない問題は何度も先生に質問し、暗記するまで同じ問題を何度も解いた。
 高校を卒業する頃には数学への苦手意識はなくなり、数学ってなんかおもろいな、と思うようになった。

 理系のまま大学へ進学し、数学の授業をいくつか履修した。大学の数学は概念的なので、理解するのがとても難しい。
 しかしその難解な数学が面白かった。教科書を何度も読み、読んでもさっぱり理解できないことに失笑し、分からないところは数学の教授に質問しに行った。
 ちなみにその教授は、数学オリンピックで優勝してしまうような人だったため、質問をしに行っても彼の説明はセンスがありすぎて理解できなかった。

 大学1年生の学期末テスト、私は数学のテストで学年1位をとった。

 履修者も少なく、授業でやった問題がほぼそのままテストに出たため、問題を丸暗記していた私は運よく1位になれた。けれどそれでも、高校であれだけ苦労した数学で1位をとったことは嬉しかった。
「このことK先生に自慢したろ。数学のセンスなくても1位取れたってドヤ顔で言ったろ」
 掲示板に貼られた数学テストの順位表を写真に撮り、いつか先生に報告しに行くことを想像して、さらに嬉しくなった。

 AVデビュー作がデビュー1年後にアマゾンの1位を取って、高校の頃から同じことをしてるなと考えた。
 苦手な数学にあえて挑んだ。K先生に言われたことを素直にやり続けた。丸暗記していた問題がテストで出たから、運よくテストで学年1位を取れた。
 AV女優になってもそうだ。この事務所の社長怖いなと思った事務所にあえて飛び込んだ。社長に言われたことを素直にやり続けた。noteを書いたり、AVがバレてバレエ講師を辞めた話なども赤裸々にSNSで発信した。するとSNSが炎上して多くの人に注目された。そして運よくデビュー作がアマゾンの1位を取った。

 数学の1位もアマゾンの1位も、私が素直に一生懸命やり続けた結果ではあるが、たまたまの結果であることも否めない。しかし両者で大きく違う点が1つある。アマゾン1位を取ることができたのは、より多くの人たちのおかげだということだ。
 1位を取れたのも、藤かんながこの世に存在できるのも、私のAVを観てくれる人がいるからである。1位という結果は私の実力ではなく、私を支えてくれたたくさんの人たちのおかげなのだ。AVを観てくれた皆さん、本当にどうもありがとう。
「アマゾンで1位を取るのはすごいよ。デビュー作がアマゾン1位を取ることはある。デビュー作は売れるから。でも藤かんなはデビューしてから1年以上経ってるけど1位を取った。これは自信を持っていい」
 社長は興奮もなく淡々と言った。そしてこんな話をした。
「例えばオリンピックに出るとして、1回だけの優勝を目指すか、3回連続優勝を目指すか、どっちの方が強くなれると思う? 俺は昔、前者やと思っててん。1回の優勝のために全身全霊をかけた方が、当然強くなれると思ってた。でも答えは後者やってん。
 3回連続オリンピックに優勝するって遠くの未来まで想像した方が、たくさんのエネルギー必要やん。目の前の相手にパンチするより、1メートル先の相手にパンチする方がいっぱいパワー使う感じ。未来を想像した方がたくさんのエネルギーを出せる。結果強くなれる。未来を想像できるかどうかってむっちゃ大事やねん。世界で業績を残した人たちは来世のことまで想像してた。未来そして来世を想像できた人が強いねん」
「アマゾンの1位はすごいけど、あなたのゴールはそこじゃないで」と言われた気がした。そうだ、私はAV以外でトップを取るのだった。アマゾン1位で浮かれていてはいけない。この1位はこれまでのご褒美。次のステージへのチェックポイント。思い出の1つとしてここに書き残しておこう。

 大学生の私が数学のテストで1位を取った3年後、K先生は死んだ。結局、先生に1位を自慢をすることはできなかった。
 正しいことを教えてくれる人は短命である。きっと今世ではもう、人としての合格ラインに達したから、来世にステージアップさせてもらったのかもしれない。
 おそらくエイトマン社長も短命だろう。正しいことを教えてくれる人だから。でもまだ来世に逝ってもらっては困るので、ちゃんと人間ドックに行ってくださいね。

サポートは私の励みになり、自信になります。 もっといっぱい頑張っちゃうカンナ😙❤️