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【音楽コラム】国内アーティストの時代を超える名盤5選【私的セレクト】

割引あり

音楽って、素晴らしいものですよね。
(金曜ロードショー風)

日本のポップミュージック文化ってすごいです。
最近の個性爆発状態もすごいですが、それも何十年も前から続く先人の積み重ねがあってこそ。
レトロブーム、昭和ブーム、世界的なシティポップブームの中で、そのクオリティの高さが改めて評価されている昨今です。

ただ、実際に平成時代を生きてきた者からすると、当時の日本の音楽業界が何もかもいい状態だったとは、決して思えませんでした。
一つには、あまりにも商品性を高めることを重視していたため、クオリティは上がるものの、どうしても「芸術」ではなく「大人の仕事」だと感じられてしまうこと。
それが逆にドライな距離感になって、今の時代には合うのかもしれませんが…
作り手側の顔や仕掛けがちらついてしまうため、本当に「若者自身のもの」になることはなかった気がします。
だからこそ、私なんかは洋楽のインディー・ロックなんかに走っていったわけですが、やっぱりその後のインターネットの誕生によって、全ては変わっていったという感じがします。

そんな革命前夜のせめぎあいの中から生まれた、時代を超える名盤5作を、ピックアップしてみました。
それではどうぞ!👇


①『Nostalgia』 徳永英明

シルキーヴォイスの帝王、徳永英明。
90年代初頭に活躍していた多くの男性シンガー、横山輝一・楠瀬誠志郎・陣内大蔵・東野純直などの中でも、その存在感は図抜けていました。
あまりにも美しいその声は、性別すらも越えているように思えるほど。

しかし今、彼の存在が最もよく知られているのは、「カバーシンガー」としてではないでしょうか。
幾多の昭和の名曲を、その唯一無二の声で、あまりにも素晴らしく歌い上げています。
また、往時の彼を知る人でも、そのイメージは「輝きながら…」や「夢を信じて」など、明るく爽やかなヒット曲とともに記憶されているかもしれません。

しかし、彼にはまた一つ別の面がありました。
それは得体の知れないほど深いダークサイドです。

「恋の行方」や「I Love You」などは、既にその暗さが顔を覗かせていますが、まだヒットシングルとしての体裁を保っています。
しかし、このアルバム『Nostalgia』収録の「FRIENDS」まで来ると、その切迫感はもはや隠しようもなくなってきます。
私はこの曲をずいぶん長く聴いていますが、未だに歌詞を解釈しきれません。

ああ 愛することさえ迷わせた二人の
破り捨てる 破れない 無情な夜 破れない
取り繕った笑顔の奥で 声にもならない悲しみが
愛し合えない 君に伝えて
走れよ今 叫べよ今 歌えよSoul My Friends

激しく情念的なメロディの盛り上がりと合わせて、ただただ絶望の純度ばかりが伝わってきます。

『Nostalgia』は、彼のキャリア全体の中でも極めて異質なアルバムです。
ひたすら深く、静かで、暗い。
が、その芯には、思いもよらない強さが宿ってもいます。
中盤のハイライト「魂の願い」の大サビでは、実に十六回にわたって、
「頑張れ」という一言だけが繰り返されます。

頑張れ 頑張れ 頑張れ 頑張れ
頑張れ 頑張れ 頑張れ 頑張れ
頑張れ 頑張れ 頑張れ 頑張れ
頑張れ 頑張れ 頑張れ 頑張れ ALL DAYS

そして最終曲「もう一度あの日のように」の、セピア色の風景に向かって叩きつけるような叫び、神話的なまでの思い出の横溢で、アルバムはしめくくられます。

どこかでどこかで 憧れだけを抱いて
大人の大人の 慰めだけを待って
ああ 流れてないか もう 流されないで
ああ 培った夢は 真夏に濡れた白いシャツのように
緑の風を受けて 輝いていた
もう一度あの日のように

実はこのアルバム、「タイトル曲が収録されていない」という、Led Zeppelinの「Houses Of The Holy」や、Queenの「Shear Heart Attack」のような状態になっています。
後日、そのタイトル曲が別の作品に収録されてリリースされた、という点でも全く同じです。
その楽曲「Nostalgia」は、これまた飛び抜けてダークですが、その中で彼はこう歌っています。

子供のころに見た夕日の中で 僕らはいつも輝いていた
胸に手をあて尋ねる場所で きっとみんなと同じ答えが待ってる


②『RADWIMPS4~おかずのごはん~』RADWIMPS

新海誠監督のアニメ作品と連動することで、国民的バンドとなったRADWIMPS。
しかし彼らは、それ以前から邦楽離れした演奏力と作曲力、さらには目もくらむほどの言葉の力で、
「なんでこんなにすごいものが、世の中に大きく評価されないんだろう?」
と疑問を抱かせるほどの存在でした。

まだインディーらしさも残す3rdアルバムも、名曲「最大公約数」や「セプテンバーさん」「25コ目の染色体」を収録し、文句なしのクオリティ。

ですが、さらに成熟したこの4th『おかずのごはん』は、不朽の名作レベルに到達した記念碑的作品です。

これがカッコよくないは嘘だろうの「0540-ん」や、ユーモラスな「いいんですか?」は、アルバムを代表する楽曲。
しかし真骨頂は、「me me she」に代表される、全身を投げうつような無防備全開、無償の愛を具現化したようなラブソングです。

中でも一曲目「ふたりごと」は、「ここまで言っちゃうの? 恥ずかしい」という想いが地球の裏側へ突き抜けて、人類全体を感動させるような史上最高の名曲です。

もう決めたもん 俺とお前50になっても同じベッドで寝るの
手と手合わせてたら血も繋がって 一生離れなくなったりして
こんな夢をいつまでも見よう 醒めなければいいってことにしとこう
醒めるから夢と呼ぶんでしょう? て言うなら他に名前つけよう
君と書いて「恋」と読んで 僕と書いて「愛」と読もう
そうすりゃ離れそうもないでしょう?
いつかそんな歌作るよ

六星占術だろうと 大殺界だろうと
俺が木星人で君が火星人だろうと 君が言い張っても
俺は地球人だよ いやでも 例え木星人でも
たかが隣の星だろ?
一生で一度のワープをここで使うよ


➂『Idol Is Dead』 BiS

「楽器を持たないパンクバンド」BiSHは、メジャーシーンに到達し、一時代を築いた伝説となりました。
しかし彼女たちさえ解散した今となっては、その前身に、第一期BiSという「踏み台」がいたことを知る人も、だんだん少なくなっているのではないでしょうか。

アイドル崩れ(褒め言葉)のプー・ルイを中心に、本気で戦う気があるのかないのかわからないようなメンバーを集め、一昔前の深夜テレビのような顰蹙ものの企画を連発していたBiS。
しかしその中で、シンガーとして確実に才能のある人が二人いました。
ゆっふぃーことテラシマユフ、そしてみっちぇることミチバヤシリオです。
前者は一聴してわかる「際立った」声で、鼻にかかったセクシーさと凛とした清潔さが共存し、技術も備えた唯一の「本物」でした。
後者はまるで対照的で、テクニック的なものはほとんどありませんが、舌足らずでフックのかたまりのような声質で、彼女の歌うパートだけどうしても印象に残ってしまいます。
あまりにメンバーの出入りが激しく、中心人物のプー・ルイと二人が揃っていたのは、このアルバム『Idol Is Dead』期だけです。

BiSHで有名になり、あまたの地下アイドルにコピーされた手法ですが、オルタナティブを通過したゴリゴリかつ浮遊感のあるロックをアイドルに歌い踊らせる、というスタイルが、ここでは既に完成しています。
何より楽曲の粒が異常に揃っています。
シングル「PPCC」「nerve」「primal.」はもちろん、ロカビリーパンクな「CHELSEA」や、マイブラやスマパンファンも納得の「Our Song」、ゆっふぃーの声の魅力が最大限引き出された「urge over kill of love」など、良曲のオンパレードです。
「あんまり名作とか評価するのが恥ずかしい」という、何だかバッチイ感じ(褒め言葉です)も最高です。

最初のピークを迎えたBiSとWACKでしたが、メンバー間の軋轢なのか事務所の方針への反発なのか何なのか、歌手として才能のあったゆっふぃーとみっちぇるが相次いで脱退してしまいます。
ゆっふぃーはソロアイドルとして活動していますが、清純なイメージの枠内に留まっており、BiS時代の軋むような違和感が逆に武器になっていたと感じさせられます。
みっちぇるに至っては、引退してOLになってしまいました。
その後、肥大化したBiSを守るためにメンバーを補充しますが、『Idol Is Dead』期ほどのクオリティと評価は戻らないまま、やや尻すぼみで解散してしまいます。
後期のメンバーも期待されたほどの活躍はできず、本物の才能を持つアイナ・ジ・エンドら後進に道を譲ることになりました。

が、たった一人だけ例外がいました。
後期メンで随一の正統派の美貌でしたが、最後まで中心扱いはされず、中途半端な大阪弁とエロキャラで才能を持て余していた彼女。
今では大河ドラマの準主演まで務めることになった彼女は、実はBiS当時既に結婚していたのでした。
今でも「ファーストサマー・ウイカ」という当時の芸名を使い続けているのは、BiSへの愛情からだと考えてもいいのでしょうか。


④『BASIN TECHNO』岡崎体育

岡崎体育については、別稿で思う存分語らせていただいております。

なのでこちらでは、彼のメジャーデビューアルバムにして名作『BASIN TECHNO』収録の、ある楽曲を巡る、奇妙なストーリーについてお話ししたいと思います。

それは「スペツナズ」という一曲です。

岡崎体育というアーティストのカタログの中で、この一曲は奇妙に孤立しています。
他のどの曲にも似ておらず、コンセプトも異なり、岡崎体育のパブリックイメージとも完全にかけ離れています。
にもかかわらず、少なくないファンにとっては、この曲がナンバーワンの名曲なのではないでしょうか。
「Music Video」や「家族構成」のような面白切なさもない。
「エクレア」や「鴨川等間隔」のような孤独のリアリティもない。
ではここにあるのは、一体何なのでしょう?
岡崎体育は、一体なぜこのような曲を書いたのでしょうか?

そもそも「スペツナズ」とは、一体何のことでしょう。
それは実は、ロシア軍の特殊部隊の名前なのです。
そして歌詞は、最初から最後まで謎めいています。

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