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【夢日記】吸血鬼の料理人

 ある少女が線路沿いに住んでいた。鍵もろくにかけずに一人で暮らしており、彼女の家から線路をまたいだ反対側に僕も住んでいた。彼女には名前がなかったから、僕は彼女のことを「君」と呼ぶしかなかったが、彼女はとても美しく、声をほとんど聞いたことがないほど彼女は寡黙だった。度々彼女は僕の家にやってきたが、僕の家にはベットしかなく質素なもので、特にやることもなく、話すこともなく、何もない空間を彼女がただ埋めてくれた。僕の孤独は危ういほど満たされたのだ。
 ある日僕が彼女の部屋に行くと、僕の部屋以上に質素でボロボロな家だった。テーブルには溢れんばかりの食べ物が転がっており、それらは独特な生臭さや腐敗臭を放ち、部屋は控えめに言っても人が住めるようには思えなかった。ただその時その匂いは僕に彼女の全てを察しさせたのだ。
僕はひとまず部屋を出ようと彼女を外食に誘い、部屋を後にした。駅前の方へ行くと、近くの駅の周りには誰もおらず、電車さえ通っていなかった。そこには彼女しかいなかったが、僕は彼女の前でしか冷静になれない気がした。

 レストランに着き席に座ると、彼女は僕と同じ料理を頼んだ。しかし彼女の視線、は僕の後ろの食べ物を嬲り殺すように差していた。彼女は、僕が彼女の正体を知っていること知らないようで、だから彼女は普通を装おうとしていた。でも僕は彼女の目の血管が弾け出しそうなのを見ると、彼女に真実を告げるしかなかった。

 僕は彼女に暗示するため、出てきた料理を勧めると、彼女はようやく気づいた。その瞬間、彼女は全てが台無しだと言わんばかりの表情で僕に背中を向け、店を出ようとした。僕は咄嗟に彼女を抱きしめた。「君が人の肉を食べてようが僕は構わない」と告げた。僕は一人になりたくなかっただけかもしれない。そこで僕の内心の不誠実を彼女に告げようとした時、僕はあることに気づいて笑ってしまった。彼女の表情は見えないまま、僕は自分のこれまでの記憶を取り戻した。他人がいた。もちろん電車も通っていた。ただ僕には見えなかったんだ。僕は彼女のための料理人として、食材を街で集め、彼女の部屋まで持ち込み、捌き、調理し、そして彼女が、、
 僕の顔から笑みは一瞬で消えるのと共に彼女は去った。僕は何も見えなくなってしまった。今度は彼女さえ。

2019年4月13日

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