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#巴
vol.23 今宮戎神社
境内は静かで、「有名どころだから」と言った友達の言葉を、私は少し疑い始めていた。
「人いないね」
「行事のない神社って、こんなもんだよ」
だけど友達はあっさりと答えて、スマホをいじり始めた。画面を盗み見れば、どうやらカレシと連絡を取っているようだった。
「なんか工事してる」
「ああ、だから余計なんや」
スマホをしまって、ようやく境内を見渡した友達は一人納得していた。
だだっ広い砂地
vol.22 長柄八幡宮
(どうしよう、早くに着きすぎちゃった)
バイトの面接。道に迷ったり、遅刻したりしないよう、早く出た。二十分かかるという道に、一時間の時間を当てた。その結果が、三十分の空き時間だ。
慎重に慎重を重ねた結果の空き時間に、萌は途方に暮れた。
見知らぬ場所。近場にカフェも見当たらず、歩き回るのも憚られた。時間潰しで遅刻なんて、情けないことは避けたい。
萌は面接会場のそばで立ちすくむ。辺りを
vol.21 八坂神社
私たちは八坂神社の能舞台の前。ちょっとした人だかりの中に居た。
「なんか、気持ち悪くなってきた」
「なんで!?」
さっきより青白くなった絵里加の顔に、驚きが隠せない。
屋台で食べたのは鶏皮餃子のみ。しかも一カップを半分ずつに分けて食べた。お昼に惣菜も食べたが、胸焼けを起こしたなんてことはないだろう。お腹が減ったわけでもなし。鶏皮餃子を食べてから、一時間も経っていないのだから。
気持ち悪
vol.20 大阪・豊国神社
「どうして、いつも裏口にたどり着いてしまうんだろうね」
「いつも同じ方向から来てるからやん。そら、同じところにしかたどり着かんやろ」
「なぜ違う道を行こうとしないんだろうか」
「お喋りに夢中やから違う?」
行き慣れてしまうと、足が勝手に向かう。喋っているとその慣れに気づかないまま進んで、当初の思惑とは別の道を進んでしまっている。なんて、ざらにあるものだ。
「なんやったら、ここから表門行ける
vol.19 神護寺
おばちゃんと二人、どれだけの間、バスに揺られていただろう。とうとう二人っきりになった。
「かわら投げ?」
「そう。素焼きのこれくらいのお皿を投げて、厄除けするのよ」
さっきよりも声を大きくして、話を続けた。おばちゃんは人差し指と親指で円を象って、笑いながら楽しげに返してくれる。
神護寺は高雄山の中腹にあるお寺で、ここまで来るのにそれなりの時間を要した。それでも話が途切れることなく、お互い
vol.18 摩耶山天上寺
六甲山牧場に向かう途中で、時間が空いた。
月に一度の日帰り旅行。一分一秒も無駄にしたくなくて、二人で近場の観光地を探し歩くことにした。
スマホ片手にブラブラと歩きながら風景を眺め、時折、手のひらの中のリストをスクロールする。
「お寺があるって! 行って良い?」
「どこ?」
「多分、近く」
「多分って」
横から呆れ声が返ってきた。だから私は必死でスマホを傾け、地図を指す。
「分かったか
vol.18 安井金比羅宮
白い短冊・形代を持って並ぶ。こんなに緊張するなんて思わなかった。
小さな穴を潜る人たちを見ながら、何度も間違えないようにとじっくり観察する。
潜って、帰ってくる。潜って、帰ってくる。
悪縁を切り良縁を結んでくれるその行いを、何人も見守る。私だけじゃない。列に並ぶ参拝客の多くの目が、たった一人を見ている。それがまた、私の緊張を増幅させた。
形代を所狭しと貼りつけられた巨石には、人々の怨念が
vol.17 橿原神宮
白い砂利の広がりに、思わず声をあげそうになった。
白く大きな鳥居は改修中で見れなくて残念だったけど、境内でこんな広がりを目にできるなんて。知らなかった風景に、一気にテンションが上がった。
「まるで平安神宮みたいだね」
「確かに。あそこも真っ白だったね」
「何? その幼稚園児みたいな感想」
「素直に感動してるの!」
曇り空の下でも白砂利は、ここが聖域であるこを明示している。
私と愛奈は白
vol.16 四宮神社
「あ、暑い……」
汗が滴る。真夏日は過ぎ去った、九月八日。まだ、真夏日だった。
生田神社から歩いて大通りに出たら、影が一つもなくて夏日に曝された。大通りの向こうの、スーツ姿の団体が目に入った。
「ランチか……! 羨ましい!」
私よりはるかに暑そうな格好をした一団に、羨ましさは募る。湿気臭い視線に気づいたか、そのうちの一人と目があった。とっさに、目を反らした。おもむろに近くにあった、地図
vol.14 京都・豊国神社
六波羅蜜寺から歩いてどれくらい経っただろう。
小道を進んで、大通りを横切って、住宅街をさらに進んだ。道中のカフェや和菓子屋さんに立ち止まりそうになりながら、自制の先にたどり着いた京都・豊国神社は、階段の先にある。
「階段が重い」
「足に来る~!」
腰が曲がる私とは違って、遥は声を弾ませた。
「なんでそんなに楽しそうなの?」
「なんでそんなに苦しそうなの?」
数段先を行く遥は振り返っ
vol.13 河合神社
ここか。
やっとたどり着いた門を前に、汗が額をすべる。立ち寄った本屋で見つけた古本市の張り紙につられてやって来た、下鴨神社の端にある、河合神社。女性の守り神としても有名なこの神社は、美の神でもある。
正直、美しさに自信はない。そして、諦めてしまったものを今さら願おうとも思わない。ただ、ここに来る女性は大抵の場合、美を願いに来るらしい。ネット情報だけど。
一礼して境内に入ると、こじんまりとし
vol.12 地主神社
清水寺に来た、本当の目的。それは。
「地主神社、こっちだ!」
「そうそう! 階段上った上った!」
縁結び!
恋人いない! 新しい友達ができない! という悩みが未久にはあるそうで、いや、私にもあるけど。
階段を上った先の小さな広間で、親子とすれ違う。軽くお辞儀をした先で、やっと境内に着いた。
「本堂、どこ?」
「さあ?」
「まだ階段あるね」
一先ず階段を上らず、奥に進む。横並びでは
vol.11 清水寺
今日は未久の誕生日祝いに、未久がずっと行きたいと言っていた、清水寺に来ていた。
といっても、今はまだ、坂の途中。賑やかなお土産店に挟まれている。外国人の観光客や、中学生らしき集団に道を塞がれている状況だ。
横で未久が歓声をあげる。また、お店の前で止まってる。
さっきは扇子の店の前で止まっていた。言ってくれれば良いのに。ただ立ち止まるものだから、振り返って居なかったときに驚かされるのだ。
vol.10 大阪天満宮
「久しぶり」なんて挨拶は、合流できない事件で流された。
「今、どこ?」
「2階? の、改札でたところです」
「え? なに出ちゃってんの?」
「も一回入ってきて」
新年早々のあわあわな事態に、テンパる。横にいる元・バイト仲間は、”仕方ない”というより”なにしてんだ”という口ぶりで、私と電話越しの元・後輩を先導した。やっとおちあって、環状線にのりこんで、天満駅にたどり着いた。
「え? これ、