連載小説 河童

儂は河童だ。
儂は猿のような顔に、亀のような背中、蛙のような体、そして蛙のような手足を持っている。
こんな身なりをしているから人間にはよく驚かれる。それが快感で堪らないのだ。
今日も驚かせようと、河の中で人を待っていた。
河に近づいてくる影が見えた。
儂は興奮した。自分の姿を鏡で確かめ、ワクワクしていた。
何者かが河に入ろうとした儂は勢いよく河から出た。
「クワアッ!」
大きな声を上げたが、何も反応がなかった。
目の前には少女が儂を見つめていた。驚かれなかった事は稀なので、何をすればよいか立ちすくんでしまった。
お互い何秒か見つめあったあと、少女が口を開いた。
「あなた、面白いわね」
「お前こそ、面白いな。儂をみて、驚かないとは」
儂が話すのを見て、少し驚いた様子だった。
少女は座れるくらいの大きな岩を指差してあそこで話をしようと提案してきたので承諾した。
「私、古里美里。よろしくね、あなたは?」
「儂に名前などない。ただの河童だ。」
「おばあちゃんがいるって言ってたけど、河童って本当にいたのね」
感心してる様子だった。
「あなた、一人なの?他の河童はいないのかしら」
「儂は生まれてこの方、他の河童をみたことない。儂はどこから生まれてきたんだろうな」
少女は悲しそうな目で儂を見つめてきた。
「ずっと一人ぼっちなの?寂しくないの?」
「人間の物差しで考えるんじゃないよ」
「そうなのかな…」少女は考え込んでいた。
「私、家族皆んないなくなっちゃったの。でもあなたみたいな生き方も悪くないかも。また、明日ここに来るわ。色々話を聞かせてちょうだい」
少女は岩から降りて、帰って行った。

次の日、河に近づいてくる影が見えた。サイズ的にあの少女みたいだ。河の中で待機してまた驚かせてみる。
「クワァッ!」
少女は驚かなかった。それどころか、儂に近づいてきて言った。
「私、あなたに弟子入りを志願するわ。これから人を一緒に驚かせましょ!」
儂は逆に驚かされた。
「んなこと、できるわけないだろ。お前、水の中どんくらい潜れるんだ」
「水に顔つけられないわ」
「論外だ」

続きます。

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