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私たちの体はいつだって私たちを守ろうとしている〜愛着と神経系のはなし

はじめに

愛着。
それは幼い頃に養育者との間で育まれる絆。

この愛着の形成が不安定だと、大人になってから心の問題が表出しやすい、ということは最近では広く知られるようになってきた。

当然のことながら、私はこの愛着形成が不十分である。
故に大人になってからは人に依存的であったし、怒りの爆発も多かった。

愛着、という言葉を聞くたびに、私は愛着に障害があるのだと悲しい気持ちにならざるを得なかった。

昨年から、トラウマの分野でとても注目しているものがある。
それが “ポリヴェーガル理論” だ。

神経系をもとにしたポリヴェーガル理論

なにやら不思議なカタカナの並び。初めて聞く人には、なんのこっちゃと思われるかも知れない。しかし私は昨年この “ポリヴェーガル理論” に出会い、独学でそれを学び、専門用語ばかりの本をより理解するために図解しながら自分に落とし込んできた。

そしてそれを実践することで、私の生活に少しずつ光が見えてきていることを感じているのである。

正直言ってすごい。

何年もの間、自分の生きづらさと付き合い、自分を卑下し、自分が苦しいのは自己責任なのだと思い続けてきた私だったが、このポリヴェーガル理論を始めとする数々の書籍に、心底救われている。

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とても簡単に説明すると
ポリヴェーガル理論は神経系をもとにした理論である。
1994年、アメリカのステファン・W・ポージェス氏が提唱し、その後アメリカのトラウマ研究者たちとも繋がり合うことで、トラウマの臨床治療にも役立てられ始めている。

ポリ=複数の
ヴェーガル=迷走神経  という意味である。

迷走神経、という言葉が聞きなれないと思うので、そちらについてもざっくり説明すると

自律神経系
・交感神経
・副交感神経
   迷走神経ー腹側迷走神経、背側迷走神経
   その他の神経

という感じである。
つまり迷走神経は副交感神経に含まれる。

今まで、私たちは自律神経について交感神経副交感神経という2つの視点から見ていた。

交感神経は活動するときの神経。副交感神経は休息のときの神経。
そしてストレスを感じたときに使われるのは主に「交感神経」だと認識してきた。

しかし、命の危機を感じたときに人は交感神経のみを使っているのではなく、副交感神経の中の古い神経系を使っている。そういった考えがポリヴェーガル理論では語られている。

※トラウマとの関連性についてはここでは割愛し、愛着と神経系の話に移ることとする。

愛着パターンと神経系

愛着には4つのパターンがある。

・安定型
・回避型
・不安(定)型
・無秩序型

ここでは各パターンについて詳細に説明することは省略し、私がどのパターンで、そこに神経系がどう絡み、私がそれをどう活かしているか、という点についてお話する。(各パターンについては専門家の方々が説明されているので、ぜひ調べてみていただきたい)

その前に、愛着と神経系の仕組みについて私がまとめた図をご覧いただきたいと思う。

(参考文献をもとに筆者図解。 
参考文献:浅井咲子(2017)「今ここ」神経系エクササイズ「はるちゃんのおにぎり」を読むと、他人の批判が気にならなくなる 梨の木舎.)

自己分析ではあるが(つまり専門家に愛着パターンを判断してもらっているわけではないが)、私の愛着パターンは無秩序型と回避型の混合型であると考えられる。

まずは無秩序型の方から見ていこう。

無秩序型〜わたしの場合

私の親自身が幼少期のトラウマを抱えており、突然怒りを爆発させることも多かった。

そして大人になった私は、図にあるように過覚醒と虚脱を繰り返し、怒りを爆発させていた。

一日中せわしなく動き回っていたかと思えば、その後自分の意思では動けなくなる。それは「活動したいから」活動していたというよりも、「何かに急き立てられるように」活動し、その後反動が来たかのように動けなくなるのだ。

図を見てもらうとわかるのだが、このタイプは話せば話すほど興奮し、自分や他者に破壊性が向くといわれている。

私がこの症状に苦しんでいた当初(数年前)、私は怒りの塊であった。そして怒りを感じる出来事、人に対し絶えず言及し、議論を求め、そこでさらに怒りを爆発させていた。

当時は、自分が抱えるもやもやとした気持ちについて、話せば話すだけ解決に近づくのだと思っていた。だって私は理性的な生き物で、理性で考えれば絶対物事はよくなる。そう思っていたのだ。

しかし、愛着と神経系、身体の仕組みについて学べば学ぶほど、これは悪手だったとしか言いようがない。私は怒りを感じる事柄について、話せば話すほど興奮し、破壊性を増していたのだ。

当時を振り返ると、私は自分の破壊性が恐ろしかった。

こんなにも自分の体の中から怒りが出てくることも、それを止める方法がわからないことも。それを望んでいないにも関わらず、だ。

望まない怒りの爆発は、生きづらさを抱えた大人の中でも抱えやすい課題だと思う。そしてそれを抱える人は、とても苦しんでいるだろうと思う。

なぜ怒りがこみ上げるのかわからず、どうすればいいのかもわからない。
それを紐解くヒントは、神経系に隠されていた。

無秩序型の場合、子どもは日々「危機」を感じている。
そうするとどうなるか。

心拍は上昇し、血圧は低下する。
交感神経に作用するアドレナリンが出て、興奮しすぎてコルチゾールに切り替わる。

アドレナリンとコルチゾールについては引用をご覧いただくとわかりやすい。

交感神経が興奮するとき副腎からアドレナリンが出ます。これは長くても15分ぐらいで鎮静するようになっているのですが、あまりに興奮が引き続くと今度はコルチゾールという効き目の長いホルモンに切り替わります。身体は効率がよいことが好きなのです。コルチゾールの効き目は多いと約8時間。(浅井, 2017, p.47)

私は、幼少期に危機に溢れた環境で育った。
それは野生動物が出没する山の中で生活していたとか、そういう話ではない。


一緒に暮らしている親や周りの大人が、「自分を守ってくれる」とは思えない環境だった。突如怒りを爆発させる大人ばかりだった。

そんな環境の中で、私の神経系は、【常にサバイバルモード】で構築されてしまった。

思えば、夫と知り合った当初「どうしていつもそんな戦おうとしてるの?」と言われたことがある。見た目はごくごく普通の穏やかそうな人に見えていたために、その内面との違いに驚いたのだそうだ。

この「戦おうとしている」という夫の表現が、多くのことを物語っていると思う。まさにその言葉通り、私は常に「戦う」モードで生きていたのだ。

アメリカの小児精神科医であるナディン・バークハリス氏は、TED TALKの中で[森のなかで熊と出会ったときの人間の反応]について述べた後にこう語っている。

問題となるのは、毎晩家で熊に会うと何が起こるかということです。(nadin burke harris, 2014, TED)

​回避型とその強み〜わたしの場合

次に回避型について見ていこうと思う。
回避型は協働調整を受けた経験が少ないとされる。

協働調整とは、つまり他者の神経によって自分の興奮がおさまるということです。(浅井, 2017, p.74)

子どもが泣いたときに親がなだめ、子どもの神経系が落ち着く。
それが繰り返されることにより、子どもは自己調整ができるようになっていく。

私はこの経験に乏しい。

その影響として、私はストレスがかかると「無」のモードになることがある。一点のみを見つめ、声をかけられても反応できない。ストレスを「遮断」という方法でやりすごそうとする。

しかしこれも、望んでやっているわけではない。
本当は、他者と繋がり合いながら、問題を解決したい。
自分の気持ちを大切にしながら、相手の気持ちも大切にしたい。

しかし特にトラウマが絡む出来事になると、これができないことがある。
そうした、今の生活においても「私の許容範囲を超えたと感じる出来事」が起こると、時々この「無」モードになってしまう。

これは、幼少時代につらかったことを表出して協働調整してもらう、という経験ができなかったことや、危機だらけの家で「自分」を押し殺して生きてきた故の神経系の名残だと感じている。

そして、日本人は特に、この回避型が多いのではないかとも思う。

しかし、回避型にも強みがある。
(他パターンにもそれぞれあると私は思っている)

それは「思考を使えること」が強みだということだ。

私はこれについて浅井咲子さんの【「今ここ」神経系エクササイズ】という著書を読み感動した。回避型の人にはセラピーの際、思考を使えることが強みであることを伝え、理屈で理解してもらう、という旨のことが書かれていたのだ。

これはまさに、私が自ら実践してきたことであった。

理屈で学び、理解し、それを噛み砕き実践する。
私が意図せず取り組んできたことは、私の神経パターンに合った、理にかなった方法だったのだ。

確かに、愛着の形成不全、それによる神経系の問題を抱えていることはつらい。しかし私はこれを知ったとき、私の神経系が私を幼い頃の危機だらけの家から守り、今ここまで命を必死で守ってくれていたことに気がついたのだ。

そして、その中で発達してきた「理屈で物事を理解する」という特性が、今まさに私の身を助けてくれていることを知ったのだ。

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