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『リル・バック ストリートから世界へ』スニーカーで爪先立ちして踊るストリートダンス「ジューキン」のダンサーを追うドキュメンタリー映画
テネシー州メンフィス出身で、ストリートダンス「メンフィス・ジューキン」を踊るダンサー、リル・バック(1988年生まれ)を追ったドキュメンタリー映画。
柔らかい足首でスニーカーを履き、奨学金を得て通ったバレエカンパニーのレッスンで身に付けたテクニックも取り入れて、誰よりも長く「爪先立ち」をしようとダンスする。
子どものころからの映像も残っており、それが挿入されているので、どんどんダンスが進化・深化していく過程を少し目撃できる。
暴力をふるう父親から逃れ、母子家庭で育ったリル・バック。母親は、息子がすぐ履きつぶすスニーカーを、お金を工面して買ってやり、「悪い友達」と交わらないよう心を配る。
ダンスに夢中になることで、治安の悪いメンフィスの子どもたち、若者たちは、麻薬や銃といった犯罪に向かわないよう踏みとどまる。頑張るものを見つけ、探求する。スタジオは借りられないから、広い駐車場で練習する。ダンスが、文字どおり、人を救う。
バレエカンパニーの芸術監督から勧められ、サン=サーンスの曲「白鳥(瀕死の白鳥)」に合わせて踊ったジューキン×バレエの彼独自のスタイルは、音楽にしっとりとなじんでいる。音楽に対する感性も非常に優れたダンサーなのだろう。見たことのない白鳥、しかし舞っているのをずっと見ていたくなる白鳥だ。
その「白鳥」で、神童とされ幼い頃から世界で活躍してきたチェロ奏者、ヨーヨー・マと邸宅のパーティーで共演。それを映画監督のスパイク・ジョーンズが撮影した動画がYouTubeで拡散して、リル・バックは世界中に招待される。北京にも。
振付家でパリ・オペラ座バレエ団の元芸術監督、バンジャマン・ミルピエも会いに来て、彼がバッハの音楽で踊る新しいダンスに感嘆する。バッハとストリートダンスがこんなに合うのか!という発見と喜びを感じた。
ストラヴィンスキー作曲の「ペトルーシュカ」のピアノ演奏で踊るダンスが素晴らしい。全編を見たかったが、演出上なのか著作権の問題なのか、一部のみ映し出された。
地元メンフィスの子どもたち、若者たちに時折ジューキンを教える。教え方もうまいのだと、バレエカンパニーの先生がインタビューで述べる。
教えるときの優しさは、彼のダンスにも表れている。柔らかさや豆腐のような感性も見える。ふるふるゆらゆら自在で弾力があるが、崩れない。しかし必要があれば、スッと切れて形を変えられる。自由な翼を持っている。
爪が割れて血が出て、そのおかげで爪が強くなったと語るリル・バック。そうまでして爪先立ちをしようとする人は、バレエダンサーだけではなかったのか!という驚き。
バレエのポワントは、安定性が大事。「グラグラしないで!」と、レッスンで言われる。リル・バックのポワントは、もちろん軸はしっかりしているが、あえてバランスを崩す、アンバランスの妙。不安定、危うさが魅力だ。
映画公式サイトの解説文も読み応えがある。
・メンフィス・ジューキン(上神彰子)
・メンフィス
・白鳥/瀕死の白鳥
作品情報
2019年製作/85分/G/フランス・アメリカ合作
原題:Lil' Buck: Real Swan
監督:ルイ・ウォレカン
配給:ムヴィオラ
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