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ヴィクトリア朝美術の同性愛と女性アーティスト:英国コートルードのサマースクール受講【5日目】

イギリス・ロンドンのコートルード美術館・研究所がオンラインで開講するサマースクールの講座受講、5日目=最終日。

2本のレクチャー動画のテーマは次のとおりです。

Lecture 9: Aestheticism and homoeroticism: Simeon Solomon, Walter Pater and Oscar Wilde
Lecture 10: New Women: women as artists and subjects in Victorian Art

耽美主義と男性同性愛

1本目のレクチャーは、「デカダンス」の話で始まりました。フランスのゴーティエとボードレールがその代表で、デカダンスの文学と美術の特徴は次の点だと紹介されました。

・intense refinement
・valuing of artificiality over nature
・position of ennui/boredom over earnestness or valuing hard work
・interest in perversity and paradox
・interest in transgressive modes of sexuality

イギリスのデカダンスと耽美主義の画家としては、シメオン・ソロモンが有名です。彼はユダヤ系で、同性愛が犯罪だった当時、逮捕、投獄され、恵まれない晩年を送ったとされています。しかし近年、イギリスで彼の作品への評価が高まっているそうです。

ソロモンはスウィンバーンと友人で、スウィンバーンが関わった雑誌で『A Vision of Love Revealed in Sleep』という文章を1871年に出版しています。

その本を、作家で演出家で俳優のNeil Bartlettがテイト・ブリテンで2017年に朗読したパフォーマンス動画がネットで公開されています。このパフォーマンスは、同美術館の企画展「Queer British Art 1861-1967」に伴うイベントで、オリジナルはエイズがイギリスで問題となっていた1987年に行われたそうです。

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文学者のウォルター・ペイターもソロモンと親交があり、自身も同性愛者だったそうです。

ダンディズムを体現する作家としてはオスカー・ワイルドがいます。演劇的な衣装を身に着け、ボイストレーニング(発声法)や立ち居振る舞いの訓練をし、人にどう見えるかを強く意識して、自身を演出していました。同性愛で投獄され、フランス・パリへ移り住んでいます。

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そのワイルドの戯曲『サロメ』の挿絵で有名なのがオーブリー・ビアズリー。事務員として働いていましたが、ダンテ・ガブリエル・ロセッティやエドワード・バーン・ジョーンズと出会い、ホイッスラーのピーコック・ルームを見るなどして、美術の夜間学校に通って腕を磨き、イラストレーターとして活躍するようになります。結核のため25歳で早世。

自身は同性愛者ではなかったものの、『サロメ』の挿絵で作者のワイルドの同性愛を思わせる描写を行うなどしたそうです。

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19世紀イギリスの女性アーティストたち

18世紀にロイヤル・アカデミーに所属していた女性の芸術家は2人だけだったということからもわかるように、女性がアーティストになるのは19世紀でも難しかったようです。

女性が美術学校でトレーニングを受けるハードルは高く、学べたとしても人物デッサンなどに関しては制限がありました。また、水彩画ならまだ女性が描いてもいいが、彫刻は男性の領域だとする偏見もありました。

エミリー・メアリー・オズボーンは、家庭の母子や苦境の女性などを描き、自身は作品がヴィクトリア女王のロイヤル・コレクションに入るなど高く評価されました。

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エリザベス(・トンプソン)・バトラーは戦争画の画家でした。軍人と結婚後は画家としての活動はあまりできなくなり、それは当時のほかの女性芸術家にもよく起こったことでした。

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ラファエル前派はBrotherhoodと自称しましたが、Sisterhoodが皆無だったわけではなく、女性画家としてエリザベス・シダルが知られています。

彼女はジョン・エヴァレット・ミレイの『オフィーリア』のモデルを務め、ダンテ・ガブリエル・ロセッティと結婚しました。ロセッティも「ベアタ・ベアトリクス」など、彼女をモデルにした絵をたくさん描いています。

当時、女性がモデルになることはよしとされてはいませんでしたが、絵を描きたいためにラファエル前派の画家たちに近づいたとも考えられます。

32歳で薬の摂取過剰により亡くなっており、自死とする説もあります。

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シダルは水彩画を残していて、中世のステンドグラスなどから影響を受けています。

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ハリエット・ホズマーはアメリカの彫刻家でしたが、イギリスで作品を展示したということで紹介されていました。イタリア・ローマで彫刻家のジョン・ギブソンに師事。しかし、「男性的」とされた彫刻をしていたことから、批判も受けたようです。

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ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットは写真技術を発明した一人ですが、初期のカメラで撮影した女性写真家もいました。

Clementina Hawarden(クレメンティーナ・ハワーデン)の肖像写真の構図は、グイド・レーニの絵画やミケランジェロの彫刻と比較できます。

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ジュリア・マーガレット・キャメロンは娘からカメラをプレゼントされてから写真に夢中になり、住んでいたワイト島で撮影を行いました。彼女の写真は、エルギン・マーブルの彫刻やラファエロやボッティチェリの絵画と比較できます。

母が子に触れる様子や、愛や親密さを写し出しながらも、ジェンダーの役割を逸脱した描写などもあり、特異な表現が見られます。

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ディスカッション・トピックは?

Zoomを使ってリアルタイムで行われるディスカッション・セッションで話し合うテーマとして事前に提示されていたのは、次のものです。

• Is ‘decadence’ a helpful term in understanding Aestheticism?
• How do the works of Simeon Solomon and Elizabeth Siddall engage with their genders and sexualities?
• How did female artists push against the boundaries expected of them?

・「デカダンス」は耽美主義を理解する上で有効な用語か?
・シメオン・ソロモンとエリザベス・シダルの作品は本人たちのジェンダーやセクシュアリティーとどう関わっているか?
・女性アーティストは自分たちに課された境界をどう押し広げようとしたか?

セッションで実際に話題になったことについて、印象に残ったことを次に書きます。

印刷技術の発達と緻密な描写

ビアズリーが細い線で緻密な描写の挿絵を描けたのは、印刷技術の発展とも関係があったとのこと。(以前、聞いた覚えのある話でした)

エドワード・バーン・ジョーンズはビアズリーのことを評価して仕事を紹介してくれたりしたのに、いざビアズリーが仕上げた作品を見たら、おぞましいと批判しました。(ひどい!でも確かに両者の作風は大違いですが)

神話的な題材で自身のセクシュアリティーをひそかに表現

ソロモンやシダルは、神話の題材を借りて非直接的にジェンダーやセクシュアリティーについてほのめかすような絵も描いています。

キャメロンは「キューピッドとプシケー」という写真で、通常は少年として描かれるキューピッドの役を少女にさせています。

男性の領域とされていた写真に関わる中で、キャメロンは固定化された境界線を越えることができたのかもしれません。写真技術を使いこなせす写真が「ブレている」などと批判もされましたが、それはわざとその効果を狙って撮影していたものでした。

講座の最終日!

これで5日間の講座が終わりました。

ディスカッション・セッションの数時間後には、メールでアンケートが送られてきました。

また、メールには、今後、秋にもオンラインで講座を開講するとの案内がありました。受講しようかな?!と思案中です。

▼コートルード美術館・研究所の講座のこれまでの受講体験記

▼コートルード美術館・研究所の受講感想まとめ

※トップ画像はフリー画像(バーミンガム美術館のコレクション)で、その他の画像はすべてパブリック・ドメインです。

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