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「この行動は、甘えているだけではないか?」という大人の視点について

たまに、学校で相談を受けるのが、「この行動は、甘えているだけではないか?」「本当は、本人も甘えだと自覚しているのではないか?」という質問です。先生や保護者からそういった声を聞くことがあります。

自分の中では、「甘え」かどうかの価値基準は大人が握っており、その基準を一方的に、ストレス反応の出ている子どもに押し付けてしまうのは、さらなるストレス反応を生むだけで、かえって状況を悪化させてしまうと思っています。

少なくとも、大人と同じ「甘え」の価値基準を本人が採用しており、理性で自分をコントロールできる環境にある場合で、やるべきことをしていない時は「それは甘えだ、ちゃんとしなさい」という指導的な言説が機能すると私は思います。

今回、「ポリヴェーガル理論」関連の本を読んでいたら、その行動が「甘え」かどうかの判断が、私の中でより明確になるような記述が色々とあり、スッキリしました!

『発達障害からニューロダイバシティへ~ポリヴェーガル理論で解き明かす子どもの心と行動』(モナ・デラフーク著 花丘ちぐさ訳 春秋社 2022年)という本に色々と記載がありました。

例えば、
・「彼らの不作法に見える行動は、ストレスに対する子どもの身体反応だったということです。p16」
・「こどもたちが自分の感情や行動を自己調整できると誤って想定していますが、実際には子どもたちはまだその能力を持っていません。p21」
・「子どもがある範囲の「非定型的な」行動をしたときに罰を与えることに価値を見出す、文化的な偏見を反映しています。p16」
・「期待ギャップ」として「多くの親は、幼い子どもが、ある特定の行動をできるはずだと思い込んでいますが、幼児の脳はまだ準備できていないことがあります。p21。」
・「人間が考える脳を働かせるためには、安心感が必要である。p30」
などです。※他にもばっちりまとめて書いてありました。

本の内容を踏まえて、「甘え」かどうかの判断をどうすればできるか整理すると、
①子どもの発達レベルを評価し、行動がトップダウン(理性)かボトムアップ(身体反応)かを観察し評価する。

②自律神経系の状態がどうであるかを観察し、「赤:闘争/逃走反応、交感神経の過活動)、「緑:社会交流システムが機能し安全を感じている」、「青…生命の危機、不動化・シャットダウン」のどの状態に置かれていたか評価する。

※仮に、発達レベルがトップダウンの行動ができるレベルになっていたとしても、自律神経系の反応が「赤」や「青」の時は、トップダウンの機能が働かなくなる。

ということになると思います。

よって、①行動が頭で考える「トップダウン」でできている状態まで発達しており、尚且つ、②自律神経系の状態が社会交流システムが機能している「緑」で理性が働いている状況で、さらに、社会規範的な「甘え」の基準なるものを価値観として本人が採用している場合に、それを「甘え」と呼ぶことができると私は考えます。

逆に、発達レベルがボトムアップ(身体反応)であったり、自律神経系が「赤」や「青」の状態であったり、同じ「甘え」の価値規範を共有できてない場合は、その行動を「甘え」とは呼ぶのは、適切ではないと私は思います。

ちなみに、トップダウンの思考を身に着け始めるのは3歳半~4歳(p22)からということですが、トップダウンの思考は適切な「緑」の人間関係の中で身に着けていく能力であり、発達の仕方に個人差があることを踏まえると、小学生はある程度トップダウンの思考ができるが、出来ない可能性も十分高いと考えたり、中学生、高校生は、基本的にはトップダウンの思考ができそうだが、そうでない場合も十分考えられると私は思います。

そうでない場合は、安心を感じる社会交流が不足していたり、強いストレスを感じやすい環境があったり、生まれ持っての特性などがあると思います。

その際は、トップダウンの思考が身についていなかったり、自律神経系の状態が「赤」や「青」になっている場合があると私は考えます。

たとえ大人になったとしても、強いストレスに晒された時は、「赤」や「青」の状態に留まることになり、その際に、社会規範的な「甘え」や「怠けている」と判断したところで、トップダウンの思考ができなくなっている状態なので、「甘え」や「怠けている」などの評価はさらなるストレスを本人に与えて、「赤」や「青」の状態を強化してしまうことになると思います。

例えば、大人であっても、引きこもりの状態の場合は、頭で考える「トップダウン」の行動をすることが困難で、自律神経系は「青」や「赤」の状態に留まっている可能性が高く、その際に、その人を「甘え」ている「怠けている」と責めたところで、状況がよくならないと考えます。

ということで、もし「甘え」ではないかと感じた時は、良い悪いで判定するより、その人が、どんなことにストレスを感じる特性があるのかよく観察し、自律神経系が安心する交流を一緒に行うことで、感情調節のサポートをすることが大切だと私は思います。

身近な人との関係性で安心を感じる交流(あそび)には具体的にはどういったことがあるかを考えると、

対話的な場を作ったり、傾聴し気持ちを言語化していく場を作ったり、一緒にマインドフルネスやヨガをしたり、一緒に歌ったり、踊ったり、一緒にスポーツやゲームを楽しんだり、一緒にのんびりする時間を作ったり、一緒に自然と触れ合ったり、一緒に何かを作ったりなどして、楽しかったり、安心したりする場を工夫をして生み出していくことが大切だと思います。

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