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黄金を巡る冒険③|小説に挑む#3

黄金を巡る冒険①↓(読んでいない人はこちらから)

その日の夢は次のようなものだった。

僕はキッチンに立っていた。
フライパンにはごま油が敷いてあり、コンロには火が点いていた。
僕はそこにさいの目切りの豚肉を入れる。
火が通るまでしっかりと炒める。
ごま油と肉の油が融合し、香ばしい良い匂いがした。
一旦豚肉をフライパンから取り出し、次に細切りにした長ネギを炒める。
長ネギがしんなりしたら、次に溶き卵を回し入れる。
強火にし卵を軽く焼いたら、その上にご飯をのせ馴染ませる。
塩と黒胡椒、少しの醤油を加え手際よく炒める。
最後に焼いておいた豚肉と、鶏ガラの粉末を加え炒める。
全体が均等に混ざったところで火を止め、皿へと盛り付ける。
上に小ねぎをかけて完成。

僕はそれを友人に振る舞った。
友人はうまいうまいと、夢中になってそれを食べた。
あっという間に完食し、とても満足そうだった。

「ところで、これは何て料理だ?」
「知らないさ。ただご飯と卵を炒めただけさ」
「それにしても美味かったな。名前が無いなんてもったいない。見た目はまるで黄金だったぜ」
「黄金か、そうかも知れないな」

僕はその料理を昔にも作ったことがある。
何回も作った。
そして体で覚えている、黄金の世界を。

僕は忘れてしまったのだろうか?
それとも僕のDNAに引き継がれた”記憶”なのだろうか?
分からないことばかりだが、確かに言えることが一つある。
“この黄金は世界に無くてはならない”ということだ。

僕たちはそれに名前を付けることはできなかったが、
その存在は僕らの中にはっきりと跡を残していた。

その日を境に友人は姿を消した。
何かの事情で消えざるを得なかったのか、それとも何者かによって消されたのかは分からない。
おそらく友人は、あの日この世界の真理に触れてしまったのだろう。
そしておそらく、きっかけは僕だ。
彼は何かを理解し、何かを突き止めてしまったのかもしれない。

僕はもう一度、友人がうまそうに「炒飯」を食べているところを見たかった。
彼とは長い付き合いだし、僕が唯一友達と呼べる他人だった。
また彼と「炒飯」をーー

”炒飯”?

誰かからその言葉を聞いたことがある気がする。とても懐かしい声だ。
春の草原を流れるせせらぎのような、
秋の花畑に吹くそよ風のような、
そして目を閉じて耳を澄ましたくなるような、
そんな声だ。

全てが懐かしい。
それらは僕の元から消え去ってしまったのだろうか。
それとも僕がかつて忘れ去ってしまったことなのだろうか。
消去と忘却の違いに何があるというのだろうか?

僕は窓の近くまで行き、外を眺めた。

外では大きな蛇が渦巻き、巨大な竜巻を作っていた。
数多の鳥たちは鳴き喚き、その声で大雨を降らせていた。
太陽は二つに割れ、月を燃やし尽くし、朝と夜を破壊し世界を紫にした。
地球は38万キロメートル先の小さな友を失くし、孤独となった。

窓の下には黒色の粘着が壁を這い、ずって僕を見て笑っている。
これら全てに名前はない。あるのは疑うことのない存在だけだ。

世界は不安定となり、人はそれでも相変わらず生きていた。
多くの者は死んだ。相変わらず生き残れる者だけは生きている。

僕は生き残り、友人は消えた。
あの時に僕は決断すべきだったのだ。
彼女と一緒に…。

窓の下の粘着は、僕の部屋まで這い上り、僕を見て言った。
「見た目はまるで黄金だったぜ」

***

そこで目が醒めた。

僕はベッドから体を起こし、顔を時計の方へと向けた。
時計の針は11時を指している。
陽光が部屋の床を眩く照らし、街の騒音が壁を微小に振動させていた。

それらは全て夢だった(少なくとも僕はそう思う)。
だが、とても現実の重みを含んだ感触のある夢だった。

一体どこからが夢で、どこまでが現実なのだろうか?
僕は鈍重な頭で、倦怠的な思考を巡らせていてもしょうがないと思い、コーヒーを飲むためにキッチンへ向かった。

キッチンからは香ばしい匂いが漂っていた。


第三部(完)

二〇二三年十二月
Mr.羊


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