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今日が水平線に落ちる頃

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散文、詩、ドローイングなど
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#つぶやき

春のイモムシ

春のイモムシ

イモムシが好きだ。

何度も書いたり叫んだりしている気がする。ずっと前から好きだったわけではない。昨年の夏に、のそのそと桜の樹から土へ降りようとしているスズメガの大きな幼虫を手に乗せた時、身体の細胞が全身で喜んでいた。

緑色の身体はクリームソーダのように穏やかで爽やかで、マットなスベスベ肌はしっとりと暑い夏にひんやりと手に清涼感を感じさせてくれた。

最初、手に乗せてみようと思った時、躊躇がなか

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空が遠ざかるのは、きっと鳥のはばたきに余白を残して

空が遠ざかるのは、きっと鳥のはばたきに余白を残して

もうそろそろ夜明けは、少しまるくなった温かい風が運んでくる。

何年も先の日記のページを暗示するような明るさの雲の層は、数々の鳥の目覚めを飲み込んでいる。遠くに頬の高揚に似た、桃色がしみてくる

聞き慣れた音階に似た声の鳥に集中すると、聞き取れる音域が広がってきて音楽が組み立てられていく。

小さな鳥 大きな鳥、それを何セットか繰り返したのを合図にセミがだんだんと鳴き重ねていく。風が少し吹く、シャ

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銀河、私たちは永遠の夏の子ども。

銀河、私たちは永遠の夏の子ども。

瞳の奥に赤い華の咲き乱れているそこは夏の終点。宙の露が、光る場所。

汗は顔や身体中をつたってざわめき世界中の道のような血管の凹凸を重力に従って落ちていく。熱い土に黒くシミを落として、そして目指す。私たちは全く誰もいない知らない場所を知っている。

このむせるような暑さの果て。真夜中、ペルセウス流星群には今年も搭乗できなかったけれど、強くこの道から進もう。たいそうな旅になるかもしれないと心配すると

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羽化の穴

公園へ行った。朝の暑くなってきた頃に。そこいらじゅうに大人の親指程度の 穴、穴。蝉のでてきた穴だ。夜にたくさんの秘密が生まれていることを思うと、羽化を感じるために夜の木々の間に耳を歩かせている自分がいる。

木の多い大きな池のある公園は、長い梅雨を終えて待っていたとばかりの蝉の大合唱の真っ只中だ、密に何種も鳴き始めている気がする。私には三種類くらいしかわからないんだけれど、ミンミンゼミ ツクツクボ

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テグジュペリ 「夜間飛行」について

自分は、経験してきた今までの仕事に対して、磨き上げた満足感という感覚がこれといって無い。何について、どれだけ深く追求し、愛という時間を込めたのか、自分の中の神さまに使えたんだ。と言い表せるような諦めに似た澄んだ気持ちになってみたいと、サン テグジュペリの「夜間飛行」を読みながら思う。

その当時の飛行士は、決して誰も現場を見ることのできない、夜という黒い海の中、完全な孤独と経験にゆだねられていたの

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体の中の音は何よりも近く。命がノックする音が聞こえる。

体の中の音は何よりも近く。命がノックする音が聞こえる。

私は音を聞くことが好きである。そして海中を思う。あまり響かないのか、響く最大の波長を聞こうと頑張るかの、ただの実験的毎日に過ぎない。海中で消えてしまうような無意味な音は泡に似ていると思う。聞くことは、書くことに変換して増殖する。泡が分裂するように。聞くというのは、その季節や1日の時間の移り変わり、バイト先での音楽やら駅のたくさんの動的なものが含まれた場所の音の収集作業だと思う。  それらが 「言葉

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