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LINE校閲チームが指摘をカテゴリ分けする理由

こんにちは。LINE校閲チームの澤田です。

みなさんは校閲業務が実際にどのような流れで行われているかご存知でしょうか?

新聞・出版などの媒体やサービスによっても違いはありそうですが、基本的には以下のサイクルで行われていると思います。

①文章を読み、
②気になる箇所を調べ、
③必要があれば指摘を書き込み、
④編集者や執筆者などの書き手にそれを伝え、
⑤指摘が反映された文章を再度読み込んで確認する。

しかし、LINE校閲チームでは③の指摘を書き込む作業に加えて、いくつか行っていることがあります。その一つが「指摘のカテゴリ」を選択することです。

校閲者は、ミスや気になる箇所を見つけたら書き手に修正を検討してもらうための指摘報告文を作成します。同時に、その指摘がどのような誤りの種類に該当するのかを校閲者自身が選び、指摘一つひとつのログをとっています

今回は、業務の改善と品質のさらなる向上につなげるために校閲システムを活用して行っている指摘の分類や集計・分析の取り組みをご紹介します。

校閲システムとは
LINE校閲チームが独自に開発している"校閲補助ツール"。編集側のニュース配信システムと校閲側のシステム連携により、月間1万5,000本(※2023年4月現在)の記事がリアルタイムで入稿される。校閲作業はもちろん、指摘があった際の編集部への連絡や、修正が反映された記事の確認まで、一連の校閲業務はほぼすべてシステムを通して行われる。

校閲者の能力を100%活かす、LINE独自の「校閲システム」とは

曖昧な「誤り」の定義を明確にする

そもそも校閲で指摘を必要とする「誤り」の基準はどこにあるのでしょうか。誤りは曖昧な概念です。

たとえば、日常的に日本語を使っていれば以下のような例文の違和感に気づきやすいと思います。

上の文では、日本語の文法において「主語と述語を対応させる」というルールに基づき、主語と述語のねじれを「誤り」として認識したはずです(あるいは、ルールに基づいた正しい文にたくさん触れてきた経験から感覚的に気づくこともあると思います)。

複数人で同じサービスの校閲を行うときに、個人の知識や経験に頼りすぎずに共通認識のレベル感で誤りを指摘するには、ある程度その範囲やカテゴリを明確にしておく必要があります。

また、最初に「指摘のカテゴリ」の全体像を知っておくことで、それ自体がナレッジになるという利点もあります。

蓄積した事例から汎化したオリジナルの「指摘のカテゴリ」

私たちのチームで設定している「指摘のカテゴリ」は、大分類・中分類・小分類に分かれており、現在小分類には38の項目があります。

大分類では、校正の指摘対象を「決められたルールに沿っていない内容」、校閲を「事実と反する内容や不安要素」などにざっくりと分けている

これらのカテゴリは帰納法で分類されたものです。帰納法とは、複数の事例から共通する情報やルールを抽出して共通項を導き出す考え方です。

チームでは、LINE NEWSをはじめ、複数のサービスの記事を月間1万5,000本ほど校閲対象としています。軽微な指摘や相談を含めると指摘数は月間約1,300件以上あり、これまでチームで積み重ねた指摘事例から汎化してカテゴリを設定しています。

カテゴリの数が多いと選ぶのに時間がかかってしまいそうですが、少なすぎても選択に迷いが生じ、主観が入りやすくなります。当初の項目数は現在の半分ほどでしたが、カテゴリが絞られていた分、包括される意味が広いカテゴリ名になっていたため、複数人が共通の基準で選択することが難しい事例も発生していました。

指摘事例が蓄積したことで、よりチームに最適化されたカテゴリにアップデートすることができました。

カテゴリ以外の「可能性」に余地を残す

分類することのデメリットとしては、既存のカテゴリに当てはめることが目的になってしまうことも考えられます。主要なカテゴリ以外の指摘が発生する可能性も大いにあるため、新たな視点が埋もれないように、中分類ごとに余地を残した「相談」や「そのほか…」の項目が設定されています。

指摘するのは「誤り」だけとは限りません。特に校閲では、誤りとは言い切れないが正しい表現とするにも不安な要素がある…など、白黒はっきりできない場面によく遭遇します。誰の目にも明らかな誤りだけではなく、読む人によって判断が分かれる場合や、校閲者の小さな"引っ掛かり"を相談する場合であっても選びやすいカテゴリ設定になっています。

上記はあくまで弊社で受け持つサービスにおいて、過去の指摘事例を踏まえたオリジナルのカテゴリ設定になっているため、必ずしも校正・校閲の「一般的な指摘のカテゴリ」とまでは言えないのですが、文章などを確認する際の一つの参考にはしていただけるかもしれません。

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あらゆる校閲情報から業務改善のヒントを探す

ここまで「指摘のカテゴリ」についてご説明しましたが、カテゴリを設定した一番の理由は、集計して傾向を分析することで校閲業務の改善やさらなる品質の向上につなげるためです。

そのため、校閲チーム内には数値集計チームがおり、校閲業務の傾向をサービス単位やチーム単位で分析しています。

数値集計チーム
記事の入稿情報や件数、校閲者の指摘内容などを数値で実態把握する班。業務のなかで記録された情報を分析し、校閲チーム内や連携する編集部にフィードバックしている。

校閲者として活躍しながら、数値集計も担当する同僚の鈴木さんにお話を伺いました。

鈴木 菜月(すずき・なつき)
2019年入社。校閲者。
前職は旅行ガイドブックの編集。現在は校閲業務の傍ら、校閲チームの数値集計を担当。趣味は散歩で、この1年間に歩いた距離は3,000km超。パン屋さんで胃袋のキャパより1個余分にパンを買う癖をやめたい。

――数値集計チームの業務内容と目的を教えてください。

校閲チームで対応した記事件数の集計などを通して、数値で業務の実態を把握するのが仕事です。また、業務のなかで記録された情報を分析することによって、チームの校閲業務の質を高めることに貢献したいと思っています。

具体的には、記事の入稿された日付・時刻・曜日/記事の種類(サービス名・配信面)/指摘のカテゴリ/指摘内容・修正有無 などの情報を集めていて、適宜必要な部分を取り出して集計したうえで、指摘内容の傾向を調べたり、対応件数の多い時間帯や、ミスの出やすい固有名詞などを調べたりしています。

忙しい時間帯がわかれば、シフトの人数や休憩時間などの業務態勢にも反映していただきやすいですし、頻出の固有名詞などがあれば校閲システム上で発見しやすくしてもらうなど、実用的な取り組みにつながるように業務の質を高めるヒントを探しながら集計・分析にあたっています。

校閲システムでの注意喚起機能。登録済みの単語をマウスオーバーすると説明文が表示される。表記ルール・誤用・商標・固有名詞などが登録されている

分析結果は記事を掲載する編集側にも共有していて、校閲ルールやフローの見直しにも役立てていただいています。

校閲者自らが指摘を分類する意味

――「指摘のカテゴリ」に関連してお尋ねします。そもそも、なぜ校閲者自身がカテゴリを選択する必要があるのでしょうか?

校閲では様々な内容の指摘が発生します。指摘報告文はメンバーがそれぞれ直接入力するので、どうしても文面や書き方がばらばらになります。すると、自動でカテゴリを付与することは難しくなります。

指摘の本来の意図に合ったカテゴリを適用するには、実際に記事を校閲して指摘を書いた本人に都度選んでもらう方法が最も確実と考えていて、校閲時にそれぞれのメンバーに選択してもらっています。

システム上での指摘入力時に「指摘のカテゴリ」を選択する仕様になっている。校閲者が選択した指摘のカテゴリ情報は書き手に直接送信されず、システムにログが溜まっていく仕組み

指摘の分類を校閲作業に組み込んだ当初は、校閲者によってカテゴリの選択基準がそろわず、集計チームとして想定とは異なるカテゴリが選ばれることも多くありました。

指摘の際にカテゴリを選択すること自体が弊社独特の作業だと思うので、まずは作業に慣れてもらうために、入社時に簡単な研修を行っています。また、一問一答でカテゴリ選択の練習ができるクイズや、実際の事例や理由とともに推奨カテゴリを事典のような形式でまとめたページを用意していて、各自で見てもらっています。加えて、メンバーがそろう定例会議でも、適宜実際の指摘事例とその推奨カテゴリを周知しています。

校閲チームには約20人の校閲者がいますが、全員に共通の基準で選択してもらうために、メンバーに意見を出してもらいながらカテゴリ名そのものをより直感的に選びやすい文に変更するなどの試みも重ねてきました。

――カテゴリ選択を校閲時に組み込むメリットは集計作業の最適化以外にもありますか?

校閲者目線のメリットとして、カテゴリ選択によって指摘の意図が明確になるという効果もあると思います。

たとえば文章の読みやすさにかかわる指摘を出すとき、なんとなく不自然に思えるから…という感覚も大切だと思いますが、カテゴリ選択によって、毎回、文法的にどの部分が適切でないかを言語化して把握することが必要になります。

メンバーそれぞれがカテゴリ選択を実施し、積み重ねていくことで、指摘の基準が明確になり、チーム全体で校閲の品質を保つことができるのではないかと思います。

プラットフォーム校閲ならではの指摘傾向も

――集計して分析する際は、どのような点に着目していますか?

集計は毎月行っているのですが、普段と異なる数値に特に注意して、なぜ異常値が出ているのか、原因を検討するようにしています。指摘のカテゴリの集計では、指摘数が著しく増減した項目について、どういった記事にどういった指摘が出たのかを確認し、背景を突き止めます。

具体的には、(実際の例ではないですが)「ファクトチェック : 日付・数字・単位」の指摘が著しく増えていた月があったとして、そのカテゴリが選ばれた指摘の内容や、当月どんなニュースがあったかを確認し、スポーツの大きな大会があったのでスコアにまつわる指摘(=数字のファクトについての指摘)が多く出たんだな、というような事実が確認できたら、チームにこれを周知しています。

そうすることで、ミスの出やすいポイントを実際の校閲で校閲者に意識してもらうことができますし、ルールの再確認や改善につなげられることもあります。

――分析で特に意識する指摘のカテゴリはありますか?

ファクト(固有名詞、日付・数字・単位)、商標、入力(変換ミス・タイプミス)は、校閲として必ず指摘しなければならないところで、同じ内容の指摘が複数出ていた場合などは校閲チーム内や編集側に事例共有や注意喚起をする必要があるので、気をつけて見ています。

また、ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)に関する指摘も絶対数として大きく増減することはないのですが、大きな出来事やトレンドに付随してこれまでになかった観点での指摘が出てくる場合があるので、主に内容面で傾向を注意して見ています。

ポリティカル・コレクトネスとは
【political correctness】
人種・宗教・性別などの違いによる偏見・差別を含まない、中立的な表現や用語を用いること。(大辞泉)

校閲の質の維持という点では、校閲チームの指摘全体で、指摘カテゴリ別の割合をみると、矛盾解決(記事内容の整合性、誤読・複数解釈の可能性、情報要素の不足など)の指摘の割合が常に最も高いのですが、矛盾解決で一定の温度感での指摘を出せることが弊社校閲チームの強みの一つだと思うので、この割合の変動も意識するようにしています。

――「矛盾解決」の指摘割合は、主にプラットフォームに掲載される記事を校閲対象にしていることと関係がありそうですね。

一次媒体社から配信された記事がプラットフォームに掲載される際、サービスの形式に合わせてタイトルなどがリライトされますが、特に文字数が圧縮されたことで意味が変わっていないかなどの整合性を、多くの人の目に触れることを意識してチーム全体で注意深く見ている傾向があると思います。

もう一つは、編集部との関係が表れているとも思っています。矛盾解決やポリコレの指摘がよく出てくるのは、編集部が都度丁寧に検討してくれるという信頼があるからだと考えています。この2つのカテゴリは「明らかな誤り」の報告ではなく、誤読のリスクを避ける目的や受け手によって判断が分かれる表現などの「相談」になる場合が多いので、信頼関係があるからこそ校閲側から相談しやすい傾向があると思います。

以前、修正されなかった指摘の編集部からの回答(修正しなかった理由)にはどんなものが多いかを集計したことがあるのですが、編集側が毎回丁寧な検討をして、論理的に理由を回答してくれていることがあらためてよくわかり、自分もいっそう真摯に校閲にあたろうとモチベーションが上がりましたね。

校閲者の肌感覚も大切にした双方向の分析を

――分析で特に苦労されるのはどんなところですか?

普段と違う数字が出たときはいつも悩みます。それが何かの原因で出た異常値なのか、たまたまなのかの見極めが難しいからです。

原因がわかれば対策も考えやすいのですが、はっきりしないことも多いので、表れている数字だけでなくメンバーの肌感覚なども頼りに推論を立てるようにしています。

校閲システムでは、チームで発生した「指摘の一覧」をリアルタイムで閲覧することができるのですが、この機能は数値集計チームで要望して実装されたものです。

誰でも指摘内容を常時閲覧でき、たとえば指摘カテゴリや固有名詞で絞り込んで検索することもできます。

指摘の一覧画面

集計担当から一方的に結果を伝えるのではなく、メンバーからの気づきや問題提起などの双方向のディスカッションにつながることを期待しています。実際、校閲者が自発的に一覧を観察して気づいたことを共有してくださることもあります。

――分析結果を共有するときに心がけていることや、今後試してみたいことがあれば教えてください。

分析してわかったことを普段の校閲で自然に活かしてもらえるといいなと思っているので、最近はただ数字を読み上げる報告をするのではなく、できるだけ何か新しい切り口で分析を行ったり、キャッチーな情報の見せ方をしたりして印象に残るように心がけています。指摘の多かった固有名詞・変換ミス・商標をランキング形式で、半期に一回ぐらいのペースで校閲チーム向けに発表しているのですが、いつもよい反応をいただきます。

集計は、長い期間継続することで異常値に気づいたり、異常値の原因を特定したりできるようになると考えています。なにより、指摘を集計して分析すること自体が、システムを介して校閲を行っている私たちの強みだと思っています。試行錯誤しながら、今後も長く続けていきたいです。

🖋この記事を書いたのは…
澤田 恵理(さわだ・えり)

2019年入社。校閲者。
前職はテレビ局報道記者。日課は愛犬のジャックラッセルテリアの散歩。「パンのペリカン」のロールパン、「みんなのぱんや」の甘食がお気に入り。

👇LINE校閲チームのこれまでの記事はマガジンからご覧いただけます。
https://note.com/linenews/m/mb2f0d1b2788e

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