【映画鑑賞】映画『正欲』観ました。
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芸術の秋には映画も楽しみたい、黒木りりあです。
先日、朝井リョウ先生の長編小説『正欲』について、noteでも投稿させていただきました。非常に心の中で重みを感じている作品なのですが、本作を原作とした映画『正欲』を試写会にてひと足お先に拝見できるという非常に貴重な機会に恵まれました。小説とはまた違った意味で、心にズシン、と重く響いた作品に仕上がっておりました。
ということで、今日は映画『正欲』についてネタバレなしでお話させていただこうと思います。
映画『正欲』とは
映画『正欲』は、朝井リョウ氏による同名のベストセラー小説の映画化作品です。
昨日の11/1に閉幕した第36回東京国際映画祭のコンペティション部門にて、最優秀監督賞と観客賞の2部門を受賞した、注目作品です。
本作の監督は『あゝ、荒野』などを話題作にもつ岸善幸氏。主演は『半世界』の稲垣吾郎さん、「コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-」の新垣結衣さん。それぞれ寺井啓喜と桐生夏月というキャラクターを演じています。
桐生夏月の中学時代の同級生・佐々木佳道役を磯村勇斗さん、ダンスサークルに所属する大学生・諸橋大也役を佐藤寛太さん、彼の同級生である神戸八重子役を東野絢香さんが演じています。
映画『正欲』あらすじ
寺井啓喜は横浜に暮らす検事。小学生の息子が不登校となり、その教育方針で妻としばしば衝突しながらも、日々の業務をこなしている。
桐生夏月は広島に暮らすショッピングモールの販売員。実家暮らし。同じショッピングモールに勤める妊婦の販売員からしょっちゅう声をかけられつつも、淡々と業務を遂行する。ある日夏月は中学時代の同級生だった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。
大学生の神戸八重子は、学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントの企画運営をしている。その企画に参加するダンスサークルに所属する諸橋大也は、前年の学園祭で準ミスターに選ばれるほどの容姿の持ち主だ。
交わらないように思えた5人の人生が、あることをきっかけに少しずつ交差していく様を描いた群像劇。
目で、耳で、心で、重みを感じる
原作小説を読んでいるので、原作のストーリーはすべて知っている状態で鑑賞しました。小説と映画の一番の違いは、やはり映像と音があるところ。映画が始まってすぐ、耳から、作品の世界に没頭できました。映画全体で一貫しているある音と映像の描写の神秘性に非常に心惹かれるものがありました。
音、という観点だと、生活音を丁寧に扱っている作品だという印象も受けました。生活音で登場人物の心情を表現しているように感じた個所が複数あり、時に鋭く、時に柔らかい音が鼓膜と心臓にピリリと響き渡りました。
このような音から得られる感動は、配信ではなく劇場映画ならではの経験だな、とつくづく考えさせられました。
ストーリー、という観点で考えると、映画と原作では異なっている点はそこそこありました。ただ、メッセージ性であったり芯の部分であったりは変わっていない印象です。個人的には、映画の方がキャラクターの人物像が丸くて人間味が強いように感じたので、原作よりも共感しやすい人もいるのかな、と思いました。原作はそこそこのボリュームがありますが、映画も2時間を超える上映時間となるなど、ボリュームはやや大きめです。
原作との違いで強く印象に残っているのは、食事のシーンです。原作を読んでいるときは登場人物たちが何を食べているのか、印象的なシーンは後半に登場する1回だけで、それ以外はあまり記憶に残っていませんでした。けれども、映画だと映像で誰が何を食べているのか、ダイレクトに伝わってきて印象的でした。特に、啓喜の食事メニューが意外と子供っぽかったのが新鮮でした。けれども、彼のキャラクター像を想像すると、確かにぴったりだな、と後から感じました。
原作を読んだ時にぜひ映像で観たい!と思ったシーンの一つが、大也のダンスシーン。本からイメージするのと、実際に映像で観るのはやはり受け取る印象が全く違いました。躍動感あふれる彼の動きを見ながら、大也がどうしてダンスに心を動かされたのかが少しだけわかったような気がしました。
実は、佐藤寛太さんの演技を見るのは今回が初めてで、プロモーションの段階では私の中の大也のイメージと合わない部分があるのかな、と思っていました。けれども、実際のお芝居を観て、瞳の使い方や身体の使い方が素晴らしくて、とても強烈な印象を覚えました。
同じく初めてお芝居を観た東野絢香さん。こちらは大也とは反対にスチル写真を見た段階から八重子の空気を纏っていると感じていたのですが、実際に動いている八重子を見ても印象が変わりませんでした。八重子は良い意味で少し気持ち悪い子、というイメージなのですが、その表現の匙加減が絶妙だと思いました。オーバーになりすぎず、それでいてきっちりとその風味を効かせる。素晴らしい若手のお二人のシーンには強く感銘を受けました。
稲垣吾郎さん、新垣結衣さん、磯村勇斗さんのお三方は映画を観る前から絶対にはまり役だろうな、と感じていました。実際に映画で見て、本当に皆さん役にぴったりで。
新垣結衣さんはこれまで演じられていた役のイメージとは少し異なるキャラクターだったのかもしれませんが、私はそれがすごく好きでした。
原作を読みながら「新垣さんならこのセリフをこういう言い回しするだろうな。絶対にカットして欲しくないな」と、思っていたシーンがありました。映画でその場面はカットされることなく、そのセリフもカットされず、私が想像していた通り、いやそれ以上の言い回しで新垣さんが言葉を紡いでいるのを見て、とても嬉しかったです。
磯村さんと新垣さんのシーンも本当に心が掴まれる場面が多くて、感情が大きく揺さぶられました。そして、今、このタイミングで稲垣吾郎さんが啓喜を演じるということは、非常に多くの意味を持つことだと思います。ご自身の背景も含めて、この時期にこの役を演じるということは言葉にしがたい様々なメッセージを世に放つことになると感じています。バランスの取れた啓喜のアンバランスさが、心にぐさりと刺さりました。
この難しい作品を見事に一本の映画にまとめ上げた岸監督の手腕は、まざまざと瞳に、耳に、心に焼き付きました。ネタバレになってしまうので詳しくは言えませんが、タイトルバックの前後の一連のシーンには心の奥底が大きく揺り動かされました。朝井先生がこのテーマを語る上でなぜこの秘密を選択したのか。それを映像の力で一瞬にして網膜に焼き刻まれたように感じました。
映画『正欲』は扱っているテーマから、映画館での鑑賞ではなく配信等を待ちたいという方もいらっしゃるかもしれません。ですが、あの音と映像は映画館でしか味わうことができないものだと思います。少しでも気になった方は、ぜひ映画館に足を運んでみることをお勧めします。11/10全国公開です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
『正欲』の原作についてはこちらの記事にて、感想を書かせていただいております。気が向きましたら、こちらもご確認いただけますと嬉しいです。
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