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それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~

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それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第11回 いずれザワつく!? 青果巷(チングオシアン)

(35)さらに南へと歩いていく。文化路(ウェンホワルー)を行き、延陵西路(イエンリンシールー)を横断、それから正素巷(ジョンスーシアン)に入る。新しいビルが増え、飲食店も目に入るが、客の姿はほとんどない。まっすぐ青果巷(チングオシアン)風景区に向かう。ところでこの風景区とは何ぞや。夫(そ)れいうなれば景勝地のことなりき。有名どころでは黄山とか桂林とか、絶景自慢の景観保護地区に使われる言葉だが、わりと汎用性が高く、町並みの美観を保存している指定地区にもこの語が使用される。さて、

それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第13回 愛され食堂を後にして

(つづき)一方の春雨鍋はというと、牛肉、白菜、長葱、えのき、木耳(きくらげ)と具だくさんで、これまた体にやさしい一品である。苦手な香菜は取り除かせてもらったが、水餃子諸共(もろとも)、これもちょいちょい醤油を付けて美味しくいただいた(欲を言わば、ポン酢でも食べてみたかった)。栄養バランスが良くて、お手ごろサイズ。こんな素朴な鍋料理が、中国一人旅にはちょうどいい。砂鍋(シャーグオ)の美味しい店に出会うと、旅行中の食事がぐっと楽しくなる。以前、ずっと内陸の甘粛(かんしゅく)省天水

それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第16回 過激にアバンギャルドな!? 常州仏閣図鑑

(49)近年中国では、うなる人民元を投じて、お釈迦さまも達磨大師もビックリの宗教建築が全国各地に出没している。雨後の笋(たけのこ)のごとく、覇を競うがごとく。そう、試みに無錫霊山大仏、宝鶏法門寺、南京牛首山と検索してみてほしい。出てきた画像のその破格のスケールと奇抜な外観に、我邦の善男善女ことごとく喫驚するだろう。山を削り、地を開き、金ピカ御殿を建ててしまう。どうしたらこのような資金が調達できるのか不思議でならない。最初はぼくも、本当にこの世の景観かと目を疑ったものである。二

それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第21回 博物館で会いましょう

(64)そうこうするうち、前方に博物館の偉容が見えだした。入館してみると、博物館はちょうど常設展が改装中。ということで、ぼくは「中国龍文化特典」という特別展のみを見学した。新石器時代の玉、西周の青銅器、戦国時代の銅鏡、五代の木彫、唐の三彩俑など、龍をかたどった、あるいは龍の紋様を取り入れた、さまざまな出土品がならんでいた。展示されていた唐三彩は、顔面が龍で、体がなんと人間の姿をしている。袖(そで)の幅広い伝統服、長袍(チャンパオ)を着て膝立ち姿勢になった龍は、撫(な)で肩でな

それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第23回 続・B級旅行者のたくらみ

(70)ここまでくると話は早い。ぼくはさっそく適当な中国地図をプリントアウトして、上海・常州・荊州・武漢の四都市をプロット。蛍光ペンでコースをなぞり、配色をほどこした。眺めれば眺めるほど、良きアイデアに思えてきた。あとはエクセルで作った旅程シート(中身はブランク)に、移動・観光・宿泊・食事などのイベントをフリーハンドで書き込んでいき、ときに所要時間や訪問順を調整しながら、旅の大まかな流れを作っていった。参考にしたのは、日本と中国の観光案内書や古本、口コミサイト、ブログ、動画サ

それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第26回 グッバイ 常州!

(83)明けて土曜日の早朝である。常州駅の待合室は一つ。片隅にこぎれいなパン屋が営業中で、ぼくはそこでウインナーロールをもとめて食べた。レジ隣のショーケースには、美味しそうなジェラートも売られていた。朗姆(ラム)、抹茶、草苺(ストロベリー)、巧克力(チョコレート)、紅豆栗子(あずきマロン)、芒果(マンゴー)と6種類、カラフルな光彩を放っている。一カップ32元と値は張る。品名には英字名が添えられていて、抹茶冰淇淋(アイス)には、Green tea ではなく、Matcha ice

それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第28回 週末の三国名城クエスト

(07)新北門から城内に入り、そのまま城壁沿いを西へ走る。緑濃き素朴な景観と城壁の組み合わせに、なんとなくアスレチック要素多めの、ワイルドな印象を受ける。そういえば中国の街には珍しく、到着からここまでの周辺環境にものものしい政治的アイコン(党や市政府のスローガンなど)をあまり見かけない。だから、この初見の地方都市にいっそう腕白な性質を感じてしまうのかもしれない。クルマは三国公園なる庭園にさしかかり、そのまま園内の池のふちを走る。しっとりと落ち着いた、古都らしい眺めである。

それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第31回 古代遺物と杏仁スイーツ

(14)西門から荊州中路(ジンジョウジョンルー)を歩き、数分で荊州博物館に到る。途中に開元観という道観あり、しかし不定期開放で立ち入りできず、そのかわり博物館は国内旅行客で賑わっていた。ターコイズブルーの曲線的な瓦屋根が美しい。ただ、こちらも修復期間中の建物が多く、主陳列楼のみの見学となった。内容は新石器時代の焼き物、周代のおなじみの青銅器、戦国時代の祭祀(さいし)や饗宴(きょうえん)の際に使われた青銅の鐘(かね)や剣、玉製のお面、西晋の牛車・騎馬・防砦(ぼうさい)・井戸をか

それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第32回 天日に干したる黄な物体

(16)いったん荊州中路(ジンジョウジョンルー)へと戻り、さらに東進する。此処(ここ)は片側二車線の道路で、10路線以上の公交車(バス)が走行する。いよいよ荊州の英雄、関羽を祀(まつ)る関帝廟へ向かうのだが、せっかくなので古い街並みが残る裏道に引っ込むことにする。文廟街(ウェンミャオジエ)という狭い通りである。クルマ一台しか通れない、静謐(せいひつ)なゾーン。左右はしだいに古びた平屋中心の民家になり、だがそうなると、今度は道が広く感じられる。まもなく曲がり角に差しかかると、頭

それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第33回 荊州のマクドナルドで考えたこと

(18)ぼくは入店するとレジに直行し、双層芝士厚牛堡套餐(ダブルチーズ厚切りビーフバーガーセット)45元──中可楽(コーラM)と中薯条(ポテトM)付き──を注文、レジ近くの卓子(テーブル)席で食べた。当時のレート換算で約720円。比較的高価格の、肉厚な安格斯漢堡(アンガスバーガー)である。味は期待を裏切らない。わざわざ湖北省荊州まで来て頓珍漢なことを言うようだが、思いがけず幸福な気分にひたった。強がりは言わない。やはり、慣れた味と、慣れた店舗空間が落ち着くのだ。出発前の調べに

それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第40回 寿司松茸海鮮和牛炒飯

(42)菜単(メニュー)に目を落としているあいだに、紺色の着物風ユニフォームに身を包んだ男がぼくの前に出てきて、先客のためにサイコロステーキを焼きはじめた。短髪でキリッとした眉をもつ、イケメンの若者である。彼の手ぎわのよいコテさばきを横目で観察し、カチャカチャ、ジュッジューッ、なんて至福の調理音を聴きながら、ぼくはぬかりなく空腹でやってきた自分を称えた(よしよし、これは期待できるぞ)。ちなみに、仕事にいそしむ彼の背後は違い棚になっている。そこへ扇子や日本人形のほか、月桂冠・菊

それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第46回 鉄女寺の参拝者たち

(59)昼の栄養補給を済ませ、三たびタクシーを拾う。荊州には地下鉄が存在せず、また今回の我が旅程には「ゆとり」がない。せわしないがタクシーばかり利用する。昨日の民主街(ミンジュージエ)と賓興街(ピンシンジエ)につづき、これより城内の三義街(サンイージエ)に潜入する。例によって、あらかじめ中華地図アプリや谷歌地球(グーグルアース)をたよりに、散策に適した古い街並みを探し当てていたのである。クルマは昨日訪れた荊州博物館付近で停車。運賃は10元だった。荊州中路(ジンジョウジョンルー

それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第52回 高速鉄道のうた2019

(75)玄妙観からまたまたタクシーで荊州駅へ。駅へ向かう道路とその周辺は、見れば見るほど破壊的であり、またじつに革命的であった。新しい街を造れよと、まるで天から命じられたように構造物は徹底的に無にされ、またそこら中に目隠しの壁がめぐらされ、重機が休みなく働いていた。かつて此処(ここ)にどんな風景があったのか、そもそも懐旧すべき物があったかどうかなんて、年老いた人もしだいに忘れだし、新しい人は想像だにしないだろう。車道は幾度も折れ曲がり、クルマは工事用フェンスで仕切られた野外ア