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時代に埋もれゆく和菓子屋を言葉で救う物語【キャッチコピー】

たかしは、人の言葉を「聴く」ことに長けていた。それはただ耳を傾けるというよりも、言葉の裏に潜む感情や、その人が本当に伝えたい思いを、静かに拾い上げるような行為だった。彼がいつも座っている窓際のデスクには、周りの喧騒がほとんど届かない。ここは、言葉が沈黙に溶け込む場所だ。たかしはその沈黙の中で、人々が無意識に抱える願いや記憶を、少しずつ形にしていく。

ある日、たかしに新しい仕事が舞い込んだ。創業100年以上の歴史を持つ老舗の和菓子屋からの依頼だった。昔ながらの手作りを守り続けてきたこの店は、時代の波に少しずつ埋もれていき、若い世代にその魅力が届かなくなっているという。新しいキャッチコピーを通して、若者たちにも和菓子の良さを知ってもらいたい。そんな店主の願いがあった。

たかしは、最初の打ち合わせのために和菓子屋を訪れた。お店の入口に立つと、ほんのりとした甘い香りが鼻をくすぐった。中に入ると、昭和の時代をそのまま切り取ったような店内に、たかしはどこか懐かしい気持ちに包まれた。

店主の田中さんは、自分の店について熱心に語った。子どもの頃、祖父と一緒に餅を作った思い出、母と餡を練った時間、そして自分の子どもにその技を伝える瞬間。たかしはじっと聞きながら、言葉に宿る温もりを感じていた。けれど、それだけではまだ何かが足りない。彼の胸に、かすかに引っかかる感覚が残っていた。

たかしは田中さんと何度も話を重ねるうちに、和菓子の奥に潜む「時間」の存在に気づいた。それは、甘いお菓子という表面を越えて、もっと深い場所に眠るものだった。和菓子は、ただの食べ物ではない。それは家族と過ごす時間、子どもたちと笑い合う瞬間、世代を超えて受け継がれる物語の一部なのだ。

「田中さん、和菓子って、家族と一緒に過ごす時間の象徴みたいですね」

たかしが言葉を投げかけると、田中さんは少し驚いたように顔を上げた。そして、ゆっくりと頷いた。

「そうなんだ。うちはただお菓子を作ってるんじゃない。家族の大事な時間を提供しているんだよ」

その言葉にたかしは深く共感した。彼の中で、いくつもの言葉がかき混ぜられ、一つのシンプルなフレーズが姿を現す瞬間が訪れた。それはまるで、長い道のりを歩いた末に、目的地にたどり着くような感覚だった。

数日後、たかしは完成したコピーを手に、再び田中さんのもとを訪れた。見せたのは、たったひとつの短い言葉だった。

「いつも、家族のまんなかに」

田中さんはその言葉をじっと見つめ、しばらくの間、何も言わなかった。そして、ふと顔を上げると、目尻に少しだけ涙を浮かべて笑った。

「これだよ。これが、僕たちが本当に伝えたかったことなんだ」

たかしは静かに微笑んだ。短い言葉の中に、どれだけの思いを込められるか。それはコピーライターとしての彼の腕の見せどころだった。そして、その言葉が誰かの心の奥底に届き、想像力をかき立てることができた瞬間、彼はやりがいを感じるのだ。

その夜、たかしは一人で散歩に出た。空は深い藍色に染まり、街灯がかすかに輝いていた。彼は思う。言葉とは、不思議なものだ。短くすればするほど、そこには余白が生まれ、その余白に、受け手が自分自身の物語を描くことができる。その想像の余地こそが、たかしが言葉に惹かれる理由だった。

「言葉は、ただの道しるべだ」

たかしはそうつぶやく。言葉そのものがすべてを語るのではなく、そこに続く道を指し示す役割を持つ。あとは、その道をどう歩むかは聞き手次第なのだ。その自由さこそ、言葉の奥深さであり、楽しさだとたかしは感じていた。

彼はゆっくりと歩き続けた。明日もまた、誰かの話を聞き、そして言葉を紡ぐ。短い言葉が、誰かの心にどんな風を巻き起こすのか、それが楽しみでならなかった。

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