ラス蟹

蟹を食べてからの冬彦くんはと言うと、
春彦くんに対しては二度と謝らない
ってな姿勢になり、
夏彦くんに対しては、
どんなことでもまず最初に、
「ごめんね」
と前置きするようになった。
ただ、秋彦くんに対しては、
以前と変わらない接し方をしていて、
今は秋彦くんと仲良くしりとりをしている。

その様子を夏彦くんが静かに見つめていたので、それに気付いた冬彦くんは咄嗟に、
「ごめんね」
と言い、
「夏彦くんも一緒にやる?」
と聞いていく。
だけれども夏彦くんは、
「ルールがいまいち分からないから
見てるだけにするよ」
と言った。

するとそこに
隣のクラスの春彦くんがやって来て、
「おい冬彦。
さっき俺が貸した定規は?」
なんて言ってきた。
そのご質問に対し冬彦くんは、
「そんなのへし折ったよ」
なんて平然と言い、
「ゴミ箱を見てごらん」
とその行動を指示していく。
そうして指示通り
ゴミ箱を見てみた春彦くんはゴミ箱の中に
へし折られた定規があるのを見つける。

そうなると当然、春彦くんは、
「おい! どういうことだよ!」
とお怒りを示すことになり、
「とりあえず謝れ!」
なんて謝罪を要求する訳だけど、
言われた冬彦くんはと言いますと、
「嫌だよ、そんなの」
と冷たく言い放ち、
冷たい目で春彦くんを睨み付けていく。

その態度にブチギレっていった春彦くんは、
「お前ちょっと蟹食ってからおかしいぞ!」
と胸ぐらを掴んでいき、
「なんで謝らないんだよ! 謝れよ!」
とその冷たい目に熱く訴えていく。

が、その熱さをぶつけられても
冷たい目をやめない冬彦くんは、
「君だけには謝りたくない」
としっかり春彦くんの目を見て言い、
「絶対に謝らない! 諦めてくれ!
君が諦めればこの問題は終わるんだ!
分かるだろ」
と逆にそう熱く訴えていく。

が、そう言われた春彦くんは、
「分かんねーよ!」
と返していき、
ついに冬彦くんを殴り飛ばした。
この時、場は騒然となる訳だけど、
秋彦くんが急に場の空気関係無しに、
「セーブデータ」
と言い出して、
しりとりの続きをしようとした。
なので春彦くんは秋彦くんに、
「なに言い出してんだよ!
今はしりとりやめろ!」
と透かさず怒られた。
ってなもんだから秋彦くんは、
「ごめん」
と一言、謝っていく。

といったところで、
夏彦くんが口を開いていき、
「暴力は良くないよ、春彦」
と注意した。
それを聞いた冬彦くんは、
「ごめんね夏彦くん」
と謝っていき、
「確か夏彦くんは、
暴力シーンが嫌いだったよね……」
と申し訳なさそうな顔をする。
注意された春彦くんはと言うと、
「くそっ!」
なんて怒りに震え、
「悪いのはコイツだろ!」
と冬彦くんを指差していく。
そして春彦くんは、
冬彦くんに向かって、
「やっぱ蟹だ! 蟹を食べてからだ!
蟹を食べてから、お前はマジでおかしいぞ!」
と指摘し、ドタドタと教室を去って行った。

という嵐が過ぎ、
それから物の数秒が経つと、
秋彦くんが、
「セーブデータ」
と言い出したので、
冬彦くんは、
「そう言えば、
しりとりしてたんだったね」
と笑い、
夏彦くんがその様子を笑顔で見つめる中、
しりとりを再開していく。

「た、か」
そう言って冬彦くんは、
「た」から始まる言葉を考える。
数秒考えた結果、冬彦くんは、
「たと来たら、タラバガニだな」
と言ったのでした。




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