ショートショート 海を見ている

もったいないおばけかと思いきや、
もったいないおじさんだったお昼過ぎ、
僕はもったいないおじさんに向かって、
「うっせーバカ!」
と捨て台詞を吐き、
その場を駆け足で去った。

そして今、
僕は海を見ている。
波が穏やかだ。
僕は嫌なことがあると、よくここに来る。

今日は、ジャムパンを買えなかった。
僕はいつもジャムパンを食べるんだ。
なのに、今日はジャムパンが売り切れてて食べられなかった。
だからそうさ、嫌になった。
嫌になって、ここへ来た。

代わりにサンドイッチを食べたんだけど、
なんだかお腹に入らなくて食べ残した。
あとで食べる気もないから、
サンドイッチは捨てた。
その時に、もったいないおばけが現れて、
優しい声で、
ウィスパーボイスで、
僕の耳元に向かって、
「もったいないよ」
と言ってきたんだ。

でも僕は、それを無視した。
無視しても、
もったいないおばけは僕に付いてきて、
変わらず優しい声で、
ウィスパーボイスで、
耳元でふわっと、
「もったいないよ」
としつこく言ってきた。

しかし、
僕はそのしつこさにイラつくこともなく、
もったいないおばけを無視し続けた。

という訳だけど、
そうし続けて二十分ぐらいが経った時、
僕はもったいないおばけの優しい声が、
あの心地の好いウィスパーボイスが、
おっさんの汚い声に変わっていると気付いたんだ。

だから僕は、もったいないおばけの方へと顔を向けていった。
そうしたらそいつは、
もったいないおばけじゃなくて、
もったいないおじさんだったんだ。

でまぁ、
そこで口論になって、
「うっせーバカ!」
という結果になった。

はぁ、
今日は嫌になった上に気分を害した。
まだ暫く、この海を見ていよう。

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