LIBYA UPDATES: May 2020 Week 3
こんにちは🕊
リビアの1週間の動きをまとめました。
今回は、21日に行われたリビアと新型コロナに関するZoomでのシンポジウムの内容も共有いたします。
これまでのリビア
リビアでは、2011年に40年続いたカダフィによる独裁体制が崩壊。その後、新たな政府樹立を巡り国が分断状態にある。
現在は首都トリポリを拠点し、国連の仲介で作られた国民合意政府 (以下GNA)と、東部の都市トブルクを拠点とする政府(以下HoR)、二つの「政府」が正当性を主張し合っている構図だ。
HoRとつながりを持つハフタル将軍率いる勢力は2019年4月、首都トリポリへの侵攻を開始。GNAに忠誠を誓う民兵組織などがこれに応戦し、軍事衝突へと発展した。 GNAにはトルコ、ハフタル勢力側にはUAE、ロシアなどがつき、軍事支援などを行っている。
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1. 戦闘
GNA勢力は18日、ハフタル勢力の戦略的拠点であるアル・ワティーヤ基地を奪還した。
報道によると、基地周辺では同政府を支援するトルコのドローンが確認されているとのこと。
リビア東部を拠点とするハフタル率いる勢力は2019年、首都トリポリへの軍事侵攻を開始。約1年で同勢力は大きく支配地を拡大している。
リビアの各勢力の支配地域を表した地図。黄色がGNA勢力、赤がLNA勢力。
出典: Middle East Eye
ハフタル勢力は20日、首都トリポリの一部地域から撤退することを決定した。
ハフタルが率いる民兵組織LNA(「リビア国民軍」)のスポークスマンは軍事的な敗北については言及せず、「ラマダンが終わる時期に市民が自由に移動できるようにするため」と説明しているいう。
トリポリでは1年以上ぶりに、爆撃のない夜を迎えたという声も寄せられた。「多くの人にとって、この平和な一晩は大きな意味を持つ」
だが今週も、市民が戦闘に巻き込まれている。
トリポリでは16日、国内避難民のシェルターがハフタル勢力による爆撃の被害に遭い、2人が死亡。
この日に起きた爆撃の様子はTikTokでも共有された。15秒の短い動画を共有する、若い世代を中心に人気のSNSだ。
ハフタル勢力は、トルコの軍事拠点を狙った爆撃を開始することを宣言。
LNAの空軍部隊長、アル・ジャロウシ氏は声明で「この数時間で、リビアの歴史で最大規模の航空作戦をみることになるだろう」と述べている。
GNA側も同勢力に引き続き応戦する姿勢を見せており、今後も市民に安全な暮らしがもたらされるかは疑問だ。
2. 新型コロナ
WHO東地中海事務所によると、21日時点で確認されているリビアの新型コロナ感染者は71名。1週間で新たに7名の感染者が確認された。死者については増加はなく、3名となっている。
リビアでは検査体制が整っていないことや、医療用防護服の不足が懸念されている。
パンデミックがリビアの紛争や人びとに与える影響について考えるため、21日にオンラインでシンポジウムが開かれた。
主催はグローバル政治について扱うウェブメディア、 openDemocracyと、英国とリビアに拠点を置くNGO、Lawyers for Justice in Libya。登壇者は両団体による連載、"Libya: between conflict and pandemic"の記事の執筆者4名。いずれも研究者やNGO職員などとしてリビアに関わっている。
シンポジウムの全編はこちら(YouTube)よりご覧いただけます。
リビアでは世界的に新型コロナのパンデミックが続くなか、4月頃から体制崩壊後、最大規模の攻撃が行われてきた。
「トリポリで大きな爆撃が続いている」と話すのは、NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの中東地域担当、ハナン・サラー氏。この結果、インフラの更なる破壊が進んできた。特に新型コロナの感染拡大以前より医療制度が適切に機能していなかったリビアでは、医療崩壊のリスクが高い状態にあるという。
サラー氏は、ハフタル勢力がクラスター爆弾などを含む武器を使用してきたことが判明している一方、GNA勢力も市民が攻撃に巻き込まれないよう十分な努力をしてこなかったと話す。国内外で司法が十分に機能していないことも問題だという。
社会の中で弱い立場にある人の存在も忘れてはならない。
国際司法裁判所の中東・北アフリカ地域担当、ケイト・ヴィネスワラン氏は、リビアに留め置かれている移民や難民について言及。これらの人びとを収容しているのはGNA政府だけではなく、様々な非公式の勢力でもあると説明した。全ての勢力が移民・難民の権利などを保障する必要があり、そのために国際社会の支援も必要だという。
補足
リビアではカダフィ体制の崩壊後、混乱の中でサブサハラ諸国等からの移民が増加。当局や武装勢力、犯罪組織の共謀により、移民に対する検挙、収容 所への収監、暴行や金銭の巻き上げなどが行われてきた。移民・難民の中に同国を経由して欧州を目指す人もいることから、EUはこれらの人びとをリビアに留め置くよう、資金等を投じてきた。
「女性の声も政治の場で代表されてこなかった」とリビアの活動家、アスマ・ハリファ氏は訴えた。少ない女性政治家らも、報復を恐れて大きく声を上げることが難しい状態にあるという。2014年にはリビアで有名な女性活動家が国政選挙の投票をした日に、武装勢力により射殺されるという事件も起きている。
「市民社会などが訴えを続けてきたが、誰にも女性の声は優先順位が高いと思われてこなかった」
希望もある。
リビア政治アナリストのタレク・メゲリシ氏は「国際社会は動きを見せていないなか、これまでリビアで対立が存在していた地域の中には話し合いが進んでいるところもある」と話した。
3. 国際社会の動向
ハフタル勢力が後退した背景には、トルコによるGNAの支援があると考えられている。
こうした状況の中で今週、アル・ワティーヤ基地をGNAが奪還したことにより、同国の影響力はますます強くなるという見方も根強い。
一方、ハフタル勢力を支えるUAEやエジプト、ロシアの存在も見逃せない。
国連のレポートによると、UAEに拠点を置く企業2社から2019年6月、西欧の傭兵がリビアのハフタル側に派遣されていたことが分かった。
UAEはこれまでもハフタル勢力に対してドローンやジェット燃料などを提供していることが分かっている。
ステファニー・ウィリアムズ暫定国連リビア特使は国連安全保障理解で19日、外国勢力に同国の紛争当事者への支援を止めるよう訴えた。
特使は「リビアを失敗させてはならない」と強調。「国連安保理は紛争を悪化させている地域国や国際社会に着実で信頼できる圧力をかけ、安保理が維持すべき集団的安全保障を確実なものにできる」
一方、ロシアとトルコの外務大臣は電話で21日、リビアでただちに停戦を後押しした。
両者は国連主導の政治移行プロセスについても、再開を支持したという。
21日のシンポジウムにも登壇したタレク・メゲリシ氏は今週の戦況の変化を受け、GNA、ハフタル両勢力を支援する外国諸国が歩み寄る可能性があると述べている。
参考
リビアのこれまでの動きと最新の情勢をまとめたレポートです。全文英語ですが、同国のことや国際社会の動きなどがとても分かりやすく整理されています。
毎週金曜日にリビア情勢を日本語で整理しています。
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