Lei Hamilton

30代で夫と死別。喪失から再生までの旅路を描いた「キャタピラスープの1000日」を連載…

Lei Hamilton

30代で夫と死別。喪失から再生までの旅路を描いた「キャタピラスープの1000日」を連載中。喪失によって「わたし」を構成していた価値観やアイデンティティといったものは、どろどろに溶けてしまった。自分に深く潜り込み、いつの日か、自分の「コクーン(繭)」を作りはじめる。

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  • キャタピラスープの1000日 - 喪失から再生への旅路

    30代で夫と死別した「零」の日記。「わたし」を構成していた価値観やアイデンティティといったものは、どろどろに溶けてしまった。自分に深く潜り込み、いつの日か、自分の「コクーン(繭)」を作りはじめる。喪失から再生まで、グリーフワークと自己癒しの旅路を描いた「キャタピラスープの1000日」を連載中です。

記事一覧

The Last Eagle Hunters of Mongolia

乾いた大地を駆けるキツネ 頭を耳を、体を、そちらへと向ける その一瞬、空から降り刺さった、鷹の爪 相まみれて、その軌跡が灰色の大地 漆黒の瞳が じっとそのときをまつ …

Lei Hamilton
1か月前
2

「いってらっしゃい(死なないでね)」

どれほどそれを飲み込んだか たかが出張 たかが出勤 「いってらっしゃい」はいつだって 深海へのびる「死なないでね」の浮き 「大好きだよ」だって欠かさない 最期になるか…

Lei Hamilton
1年前

ちびちゃんの話

だれかを恋しくおもう こんな夜は、 ちびちゃんを想う コアラのような銀の毛色をした ちびちゃん うちのワンタン(トイプードル)と、同じくらいの年で、同じくらいの頃…

Lei Hamilton
1年前
1

2018/09/30 処し方の違い

12:00 大型の台風が来ている。高速で動くワイパーすら少し心もとない。打ち付ける雨で視界は悪く、周囲の車に合わせ、速度を落として運転する。明朝には都内で大事な打ち…

Lei Hamilton
1年前
3

2018/09/29 世界は変わってしまった。だけど、世界は変わっていない。

8:39 午前四時に目が覚める。 夢の中ですら、奏くんはすでにこの世にいないことになっていた。 なんて悲しいんだろう。 せめて夢で、 せめて、夢で、 この現実と異な…

Lei Hamilton
1年前

2018/09/28 My coping process

9:30 布団を、洗って、干した。遺体となって病院から戻ってきた奏くんが横になっていた布団。iPhoneが鳴る。沙子だ。 「おはよー!今日はやっとスッキリ晴れたね♪」 「…

Lei Hamilton
1年前
1

2018/09/27「生も死も日常。生きている人が元気でいることが大事。」

10:10 奏くんの部屋に置かれた後飾り祭壇には、遺影に遺骨、そして白木の位牌(仮位牌)が飾られている。戒名ではなく「小西奏」がそのままに記された仮位牌。 「仮」と…

Lei Hamilton
1年前
1

2018/09/26 「幸せ」

8:14 良く眠った。この感じ、一体いつぶりだろう。鍼、いや、先生すごい。 10:15 「幸せ」ってなんだろう。 阪急京都線で淡路駅を通過する。二〇一五年に行った淡路島…

Lei Hamilton
1年前
2

2018/09/25 「ガラス越しに消えた夏」/京都へ

6:51 真夜中に目が覚めた。 奏くんが良く歌っていた曲が流れている。 寝ぼけた頭では、事態が掴めない。 暗い部屋。見上げている天井。一体どこから流れているのか。体…

Lei Hamilton
1年前
2

2018/09/24 お別れ会

24:06 ファミマの角を曲がって、ゆるやかな坂をのぼっていく。左耳にざわめきが入ってきて、ひとつ息をはいた。左手の階段に足をかける。よし行ってこい。次の段、また次…

Lei Hamilton
1年前
2

2018/09/23 やっと会えたね

4:17 やっと会えたね。 奏くんが夢に出てきた。ひとり寝ようとして、気づいたら隣で奏くんが優しく微笑んでいた。ふわっとしたその身体に、そっと抱きつく。彼はすぐに起…

Lei Hamilton
1年前
1

2018/09/22 人は突然いなくなる。すべてをそのままに遺して。

8:41 目が覚めて、現実。 誕生日の余韻のなかにいる。あんなにも悲しくて、あんなにも涙に溢れた、誕生日の余韻。 お腹がちょっと痛い。 9:53 ひとりになる。 奏くん…

Lei Hamilton
1年前
2

2018/09/21 あなたの目に映っていたもの

7:41 奏くん。私、三十七歳になったよ、誕生日だよ。奏くん。 一緒にいる日々をもっと大切に過ごせなかったことを、やはり後悔してしまう。 昨日は紀亜と次の作品につい…

Lei Hamilton
1年前
2

2018/09/19 魂が追いつくのを待っている

6:35 いやな夢を見た。ものすごい高いところから落ちそうになっている。一緒にいた茉奈は落ちた。目が覚める。またこんな時間か。昨日も五時間睡眠、今日だって同じくらい…

Lei Hamilton
1年前

2018/09/18 静かに、少しずつでも受け入れていく(しかない)

9:10 スナフィーとの関係を再構築する。奏くんと私とスナフィー。二人と一匹で構成されていた「群れ」のダイナミクスは変わってしまった。スナフィーはやはり「犬」。人間…

Lei Hamilton
1年前

2018/09/17 「死への解釈は意味がない」

23:32 以下青の言葉メモ。 ・いろんな人がいろいろと解釈をするけど、それは受け流す。ポジティブなものだとしても。解釈、特に死への解釈は意味がない。死は、自然のこ…

Lei Hamilton
1年前

The Last Eagle Hunters of Mongolia

乾いた大地を駆けるキツネ
頭を耳を、体を、そちらへと向ける
その一瞬、空から降り刺さった、鷹の爪
相まみれて、その軌跡が灰色の大地
漆黒の瞳が
じっとそのときをまつ
片翼ほどの尻尾が宙を捲いた

“All the unpleasant things disappear
It radiates energy to me
and I leave all my worries, all my pain

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「いってらっしゃい(死なないでね)」

どれほどそれを飲み込んだか
たかが出張
たかが出勤
「いってらっしゃい」はいつだって
深海へのびる「死なないでね」の浮き
「大好きだよ」だって欠かさない
最期になるかもしれないんだ

口にはできない
死なないでね なんて

愛が深まれば
死がこわくてたまらない
こわくて、こわくて、たまらない

でも、
麻痺させることは もうしない

愛に
歓びに
全身全霊で
飛び込んでみせる
愛してるよって口にし

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ちびちゃんの話

ちびちゃんの話

だれかを恋しくおもう
こんな夜は、

ちびちゃんを想う

コアラのような銀の毛色をした
ちびちゃん

うちのワンタン(トイプードル)と、同じくらいの年で、同じくらいの頃に、同じように引き取られてきた、同じくらいの大きさのトイプードルのちびちゃん
ちびちゃんの目は、植物のようだ

退職した木下さんと奥さんと
穏やかに暮らしていた
ちびちゃん

ある日、近くで白い子犬たちが生まれた
一匹が、木下さんの

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2018/09/30 処し方の違い

2018/09/30 処し方の違い

12:00

大型の台風が来ている。高速で動くワイパーすら少し心もとない。打ち付ける雨で視界は悪く、周囲の車に合わせ、速度を落として運転する。明朝には都内で大事な打ち合わせがあるというのに、外房線は明日始発から運休がすでに発表されていた。義父母宅に急遽泊まることになり、暴風域に入る前にとお昼過ぎには車で出発した。

今朝は、一〇時からコーチングがあった。

コーチとの対話を通して、奏くんへの想いを

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2018/09/29 世界は変わってしまった。だけど、世界は変わっていない。

2018/09/29 世界は変わってしまった。だけど、世界は変わっていない。

8:39

午前四時に目が覚める。

夢の中ですら、奏くんはすでにこの世にいないことになっていた。

なんて悲しいんだろう。

せめて夢で、

せめて、夢で、

この現実と異なる世界が、そこにあっても良いのに。

12:50

そうだった。このパン屋さんの店内は流行歌がかかるんだった。

「そばにいて」

この日もやはり、切ない恋を歌い上げる声に音楽。喉が胸が締め付けられて、身体が強張る。トレイと

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2018/09/28 My coping process

2018/09/28 My coping process

9:30

布団を、洗って、干した。遺体となって病院から戻ってきた奏くんが横になっていた布団。iPhoneが鳴る。沙子だ。

「おはよー!今日はやっとスッキリ晴れたね♪」

「おはよー!洗濯&布団干しざんまいだね。あのお布団を、やっと干せたよ。ひとつずつだけど、ちゃんと前に進んでいるよ」

「そっか!うんうん。まだいろいろと踏み切れない部分もあるだろうけど、身の回りの物は変わっていっても、零さんさ

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2018/09/27「生も死も日常。生きている人が元気でいることが大事。」

2018/09/27「生も死も日常。生きている人が元気でいることが大事。」

10:10

奏くんの部屋に置かれた後飾り祭壇には、遺影に遺骨、そして白木の位牌(仮位牌)が飾られている。戒名ではなく「小西奏」がそのままに記された仮位牌。

「仮」と名のつく白木の位牌は、四十九日法要の際に故人の魂を抜くという「閉眼供養」を経てお焚き上げされる。抜かれた魂は「開眼供養」を経て、黒塗りの立派な「本位牌」となって仏壇などで祀られる。

本位牌を作るのには二週間ほどかかるらしく、葬儀社

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2018/09/26 「幸せ」

2018/09/26 「幸せ」

8:14

良く眠った。この感じ、一体いつぶりだろう。鍼、いや、先生すごい。

10:15

「幸せ」ってなんだろう。

阪急京都線で淡路駅を通過する。二〇一五年に行った淡路島へのキャンプを思い出す。

シルバーウィーク中に誕生日を迎えるようになってから、時期をずらしてお祝いをするようになった。「混雑するならやめとこう」レベルに混雑耐性が低い。その年も、十月に入ってから誕生日旅行に出かけた。淡路島

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2018/09/25 「ガラス越しに消えた夏」/京都へ

2018/09/25 「ガラス越しに消えた夏」/京都へ

6:51

真夜中に目が覚めた。

奏くんが良く歌っていた曲が流れている。

寝ぼけた頭では、事態が掴めない。

暗い部屋。見上げている天井。一体どこから流れているのか。体を起こして、辺りを見回す。

隣のベッドでは義母が眠っていて、そのベッドサイドにはラジオが置かれている。あぁ、と理解して、ベッドに体を横たえた。天井を再び見つめる。

長いこと奏くんの部屋だったここで今、鈴木雅之の「ガラス越しに

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2018/09/24 お別れ会

2018/09/24 お別れ会

24:06

ファミマの角を曲がって、ゆるやかな坂をのぼっていく。左耳にざわめきが入ってきて、ひとつ息をはいた。左手の階段に足をかける。よし行ってこい。次の段、また次の、と、脚をあげるたびに身体が小さくかわっていく。最後の段に、顔を上げる。知っている面々の横顔が向こうに見える。

中目黒は、奏くんが話す物語の舞台のひとつだった。

二〇〇〇年代のはじめ、中目黒銀座商店街の特殊な建物の二階に、彼の事

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2018/09/23 やっと会えたね

2018/09/23 やっと会えたね

4:17

やっと会えたね。

奏くんが夢に出てきた。ひとり寝ようとして、気づいたら隣で奏くんが優しく微笑んでいた。ふわっとしたその身体に、そっと抱きつく。彼はすぐに起き上がり「別の私が眠るところ」を探しに行く。着いたのはカプセルのようなところだった。奏くんは側にいてくれたし、触れている感覚もあったけれど、それが奏くんかどうかはもうわからなかった。

「やっと会えたね」。目が覚めて、声にならない声

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2018/09/22 人は突然いなくなる。すべてをそのままに遺して。

2018/09/22 人は突然いなくなる。すべてをそのままに遺して。

8:41

目が覚めて、現実。

誕生日の余韻のなかにいる。あんなにも悲しくて、あんなにも涙に溢れた、誕生日の余韻。

お腹がちょっと痛い。

9:53

ひとりになる。

奏くんがマイクロドローンを飛ばし遊んでいたウッドデッキ。二人で作った家庭菜園のレイズドベッド。フリーランサー二人の生活に合わせた、この家。

ひとりでなにができるだろう。

11:00

スナフィーの散歩に出る。整体師の友人に

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2018/09/21 あなたの目に映っていたもの

2018/09/21 あなたの目に映っていたもの

7:41

奏くん。私、三十七歳になったよ、誕生日だよ。奏くん。

一緒にいる日々をもっと大切に過ごせなかったことを、やはり後悔してしまう。

昨日は紀亜と次の作品について話していた。ゼロから考えてつくることを想像する。真っ暗なこの先に、白い光が見えた。ずっと暗いところにいるんだな、と、改めて認識する。

9:54

カウチを整えて、好きな香りをスプレーして、キャンドルをつける。そして、音楽をかけ

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2018/09/19  魂が追いつくのを待っている

2018/09/19 魂が追いつくのを待っている

6:35

いやな夢を見た。ものすごい高いところから落ちそうになっている。一緒にいた茉奈は落ちた。目が覚める。またこんな時間か。昨日も五時間睡眠、今日だって同じくらいだ。

ワークショップが終わったあと、泉川さんとお茶をした。紅茶にレアチーズケーキを食べながら彼と話すのはまさに癒し。「一〇月くらいにはもう少し回復している予定」で、「思考は少しずつ整理され前を向いて来ているけれど、気持ちがまだ付いて

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2018/09/18 静かに、少しずつでも受け入れていく(しかない)

2018/09/18 静かに、少しずつでも受け入れていく(しかない)

9:10

スナフィーとの関係を再構築する。奏くんと私とスナフィー。二人と一匹で構成されていた「群れ」のダイナミクスは変わってしまった。スナフィーはやはり「犬」。人間とは違う。新しい「群れ」の中でスナフィーの様子が変わってきている。青に言わせると、この新しい「群れ」をリードしていこうとしている。思い当たる節がたしかにある。スナフィーとの新しい関係を、新しい「群れ」を、再構築していこう。

奏くん。

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2018/09/17 「死への解釈は意味がない」

2018/09/17 「死への解釈は意味がない」

23:32

以下青の言葉メモ。

・いろんな人がいろいろと解釈をするけど、それは受け流す。ポジティブなものだとしても。解釈、特に死への解釈は意味がない。死は、自然のことだから。
・グリーフケア受けるのも良いかも(一般社団法人リブオン)
・タトゥーの件。シンボルについては、自分の「ストーリー」から来るものでない方が良い、自分のカルマから抜けられないから。自分の「魂」から来るものの方が良い。いつか、

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