【メディア解剖連載 Vol.1】ASCII.jp編集長 大谷イビサさん(前編)広報がメディアを逆取材する新連載がスタート!
このたび、企業の広報部門立ち上げコンサルティングを行うリープフロッグ松田純子とPRコンサルタント高橋ちさ、ライターとして参加してくださる企業広報の3名(橋尾日登美さん、前田弥生さん、堤はるなさん)が共同で、【メディア解剖連載】をスタートします!
広報の大きな悩みの一つは、メディアと適切なコミュニケーションをどのようにして取っていくのか。その第一歩として重要なことが、きちんとメディアを理解することです。ただし、各社の広報が一人ずつメディアの方をつかまえてお話を聞くことは困難で非効率。
そこで、メディアと広報の幸せなコミュニケーションづくりのため、こちらの連載を始めたいと思います。ゆっくりした更新になるかもですが、ぜひ楽しみにお待ちくださいヽ(*´∀`)ノ
対象とするメディアは、松田と高橋の専門分野であるBtoB向けメディアです。毎回以下のような項目を中心にヒアリングしてnoteにインタビューを掲載していきます。
・媒体コンセプト、ターゲット読者
・取材の注力分野
・広報担当者との関り方 など
第1回は、ASCII.jpのBtoB分野「TECH」と「Team Leaders」の編集長 大谷イビサさん
にお話を伺います!
Team Leaders:https://ascii.jp/teamleaders/
ASCII.jpの媒体資料 コチラ
プレスリリースの送付先 news@nmag.jp
プロフィール
株式会社 角川アスキー総合研究所
デジタルメディア部 ASCII課
TECH.ASCII.jp編集長
大谷 イビサ
オンラインメディア「ASCII.jp」のIT・ビジネス担当。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンターテインメント」をキーワードに、エンジニア界隈やユーザーコミュニティを中心にした情報発信を手がけている。2017年からは新メディア「ASCII Team Leaders」を立ち上げ、働き方とテクノロジーの理想像を追い続けている。
■ASCII.jpのコンセプト
Q:まずは、大谷さんが所属されているASCII.jp全体のコンセプトについて教えてください。
ASCII.jpは角川アスキー総合研究所の運営するアスキーのITニュースサイトです。21世紀に入り、運営企業はアスキー・メディアワークス、KADOKAWAと移っており、現在は角川アスキー総合研究所のデジタルメディア部が運営しています。
日本で一番古いコンピューター雑誌である「月刊アスキー」を立ち上げたアスキーのIT媒体ということで、当初はごく一部のコア層、いわゆるオタク向けのサイトでした。私自身も、「ASCII DOS/V ISSUE」という自作パソコン雑誌の編集からキャリアをスタートし、その後テクノロジーやBtoBの方面にシフトしたという経緯があります。
しかし、20年前とは時代が変わって、今ではデジタルが誰にとっても当たり前のものとなりました。これまで経済誌がデジタルの話題を扱うことはあまりなかったんですよね。それが6、7年ほど前のタイミングから、クラウドコンピューティングを手がけるAWS(Amazon Web Services)のテクニカルなイベントに経済誌の記者も来るようになりました。記者の立場から見ても、これは驚きでした。
これはどのメディアでも同様ですが、その意味で私たちが扱う範囲も広くなりました。もちろん、アスキーが元々の読者であるコア層をターゲットとしていることは変わっていませんが、この20年で読者に広がりが出てきたということです。
■大谷イビサさんの担当領域
Q: 次にASCII.jpのなかでの大谷さんのご担当領域について教えてください。
私が担当している領域は、ASCII.jpのなかのBtoB向けテック系情報です。法人向けのサービスに関する情報を扱っていて、タブ的には「TECH」と「Team Leaders 」でコンテンツを掲出しています。
ちなみに、広報の方々に知っていただきたいのは、皆さんが思っている以上に、記者は自身の「ジャンル」を意識しているということ。「ビジネス」なのか、「コンシューマー」なのか、「働き方」なのか、「テクノロジー」なのか、ニュースをどうジャンル分けするかにこだわります。その意味で、広報としてはメディアの扱っているジャンルを正しく理解してターゲティングすることが重要です。
広報の皆さんにも担当領域がありますよね。私にとってそれが「ASCIIの中のBtoB領域」です。記者それぞれに担当領域があるので、それを把握することが重要です。
■ターゲット読者
Q:まずはそこからですね。「TECH」と「Team Leaders」の具体的な読者ターゲット像はどのようになっていますか?
まず、「TECH」は技術者側の人がターゲットです。 企業の情報システム部の方々やITベンダーなどのエンジニアの方々ですね。
逆に「Team Leaders 」は、技術に明るいビジネスパーソンです。例えば、クラウドサービスを使って働き方改革を推進したいと思っているんだけど、自分はエンジニアではないですっていう人たちです。この読者はわりと新しい読者です。
今までだったら会社で何かシステムを導入するとなれば情シスに頼んでいましたよね。でも今は、技術を知らなくても気軽にクラウドサービスが使える時代です。このように現場でカジュアルにITを使う人たちをターゲットにして作ったのが「Team Leaders」です。だから、載せている話題も技術やコスト削減よりも、業務効率化を目指した比較的小さいITがメインです。
このメディアを作ったのがSaaSが普及し、働き方改革がもてはやされた約5年前。新しい読者をイメージして仮説を立てましたが、それが合っているかは正直分からないです。ただ、探りながらやるのも私たちのやり方です。
Q:やはりこうした「ターゲット像」をよく理解した情報提供が重要なんですね。
そうです。そもそも各媒体は必ず読者ターゲットが決まっています。読者のモノの考えや行動様式のようなペルソナもあるはずです。そして、「その読者への情報提供」が私たちの仕事です。だから、そのターゲット読者が求めている情報を提供してくれる広報さんは私たちの味方です。そうでない場合は…というと、読者にとっては正直なところノイズになってしまうんです。
この20年で、デジタルは一般的になり過ぎました。リリース案内のメールは全部目を通しますが、私たちに入ってくる情報は大量で幅広く、ありとあらゆるものを受け取っています。トレーニングジムや飲食店の新規オープンとかね(笑)。だから100通、200通あっても全体の九割九部は記事化しないイメージです。
Q:むしろ、すべてのメールに目を通されているんですね!?
はい。そういう意味だと、メールには、記者がすぐに「うちのメディアに関係している内容だ」と判断できるタイトルがついていることが凄く重要です。メールでプレスリリースを見るかどうか判断するので。
だから、タイトルで言えば、内容を偽らずにプレスリリースを出してくれる会社は有難いですね。メールを送る広報担当者からしたら、大量のメールからどうやって目にとめてもらうか…と競争になるので仕方ないのですが“釣ろう”とするものには限界がある。結局、満足度が下がっちゃうんですよ。
■取材の注力分野
Q:現在は、どのような分野への取材に興味がありますか?
実は、こういった質問は少々回答に困るんですよね。少なくとも私はどちらかというと受け身というか、新しいキーワードに慎重であまり追っていないんです。たぶん、記者としてはあまりよくないんですが。
IT分野は、バズワードを追っていればPVが取れるわけではないんですよね。私たちは、ゆっくりでもちゃんとした情報を出したいと思っています。その情報が「どういうもので、社会にどんな影響を与えるのか?」ということをある程度見届けてから取り上げたいんです。これは、私個人の指向でもあります。
Q:では、ここからが「一時の流行りものではない」というラインはありますか?
ユーザーがある程度増えることですね。キャズム理論でいう(アーリー・レイト)マジョリティが使いはじめた技術やサービスのイメージです。
たとえば、クラウドサービスは、15年前はアーリーアダプターのような一部のユーザーが使っていただけでした。それが今やマジョリティになっている。
もっと言うと、レイトマジョリティまでカバーしなくてはならないとも思っています。IT媒体としては、FAXや電話を使い続けている人を時代遅れみたいな感じで置いていきたくない。そういう人達がデジタルというものに対して、どうやって対峙していくかの方がむしろ重要です。
その意味では、BtoB企業はユーザーの導入事例が多いですが、私は広報担当者さんに「2,3年寝かしたものを持ってきてください」と伝えています。
広報としては、バイネームで事例を出せるのはテンションが上がるのかもしれませんが、私としては導入されたこと自体には、正直そこまで価値がないと思っています。ところが、寝かせると変化(成果)が出てくる。「これで仕事のやり方が全然変わったんです」とか、逆にそのサービスを使わない人が出てきていつの間にか別の製品にリプレイスされたりしますよね。
実際にそのサービスが使われているのか、使われていないのか、成果はどうなのかの方が私たちには重要です。だから私たちが持ってきて欲しい情報は「このユーザーさん、ものすごく活用しているんです」という情報です。
導入やサービス開始のような新しい話でも、その背景や経緯に実績や結果が存在すればまた別ですが、ただ単に新しい技術、サービス だけだと取り上げにくいと感じます。
■他媒体との差別化ポイント
Q:その部分が、他媒体との差別化でもあるわけですね。
新しい情報を追う媒体はたくさんあります。でも、 もう正直言って、SNS をやっている人たちの情報感度やスピード、専門性に私たちは勝てないし、勝つ 必要もないと思っています 。
だからこそ、メディアじゃないとできないことをしたい。その1つとして導入して 3年後のユーザー事例に 価値を感じて取材している人はそんなに多くないと思うんです。
私たちは、他のテック、IT系メディアに比べて、BtoB向けを立ち上げたのもかなり後発なので真逆をいっています。
【後編はコチラ】
※後編では、以下のお話を伺っています。
・編集部の体制
・取材担当分野
・情報収集の方法
・広報とのコミュニケーション方法
・オンライン(オフライン)イベントについて
・広報担当者に求めること など
※その他の連載記事はこちら
(ライター:橋尾 日登美)
1987年10月生まれ、東京都出身、大阪在住フリーランス。人事/広報/ライターの領域で複数社を支援。コンセプトは『「ひとり雇うほどじゃないけど、経験ある人誰か手伝って」を複業で』パンダ、ビール、着物。
Twitter
(編集・構成:リープフロッグ 代表 松田純子)
B2B企業向けに、伴走型・人材育成型による広報部門の立ち上げ支援コンサルティングを実施。「広報の目的=企業成長」と捉え、新人、ひとり広報でも最速で効率よく広報部門を立ち上げ、企業成長に資する広報活動が行えるよう支援。各種メディアでの執筆、登壇多数
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