見出し画像

「最後の晩餐は唐揚げでいい」 常識を打ち破る食いしん坊チャレンジャーが ヒット商品を連発できるワケ

第1弾のおかずがウィンナーだけの「ウィンナー弁当」を皮切りに、次々と常識を打ち破る「だけ弁当」を開発し、ことごとくヒットさせてきたのが、ローソンストア 100の林弘昭さんです。しかも林さんの本業は店舗運営で、商品開発ではないのにも関わらず、ウィンナー弁当の発案から販売まで10年も要しました。その規格外のチャレンジについて聞きました。

ローソンストア 100 次世代事業本部 統括マネジャー/林 弘昭
1978年、千葉県生まれ。大学卒業後、九九プラス(現ローソンストア100)入社。店長やエリアマネージャーなどを経て、2017年に関東第二運営部 部長、2021年に運営本部 統括部長、2022年3月から次世代事業本部 統括マネジャーを務める。2021年6月、10年の歳月をかけて開発したウィンナー弁当がtwitterでバズり大ヒット。以降、考案したミートボール弁当のり磯辺揚弁当白身フライ弁当チキンナゲット弁当も売り上げ好調。


すべては生き残るために

  林さんは何のために、どのような思いで、本来担当ではない商品開発に自分から積極的に取り組んでいるのですか?

究極の目的は、端的に言うと「生き残るため」です。我々の属する小売業界は、とにかく競合が多いんです。そんな強力なライバルたちと同じことをしていては、とてもじゃないですがまともに戦えないし、生き残れません。
生き残るためには、言うまでもなくローソンストア 100の売り上げを伸ばすことが絶対条件。そのためには差別化できる、オリジナリティのある商品を作って、一人でも多くのお客様にお店に来ていただく必要があると思っています。

  つまり、商品部ではないのに「だけ弁当」を開発したのは、お客様がローソンストア 100に来てもらうきっかけの1つを作りたいという思いが強いということなのですね。

もう1つは、現場を盛り上げたいと言う思いも強いです。どんな商品を仕入れるかは、あくまでもお店のオーナーさんや店長さんが判断すること。そして、現場で働く人が売ろうと言う気にならない限り、売れるものも売れません。その意味ではこれまでなかった、多くの人があっと驚いたり興味をもっていただける商品を作ることによって、お店側もモチベーションが上がって「おもしろい、こう言う商品ならいっちょ力を入れて売ってみるか」と言う気になると思うんですよ。その結果、商品が売れればお店も盛り上がるし、売り上げも伸びます。こっちの思いの方が強いかな。

  なるほど。本当にやりたいのは商品開発なのかなと思っていたのですが、そうじゃないんですね。

違います(笑)。自分の仕事の目的はあくまでもよりよい売り場、お店を作り、売り上げを最大化することなので。自分がこれまでにない発想ができたのは、現場の近くにいるからこそ。しかし、商品開発にはいろんな見えない決まり、暗黙のルール、しきたりなどがあるので、それが本業になっちゃうと逆に「だけ弁当」のようなぶっ飛んだアイデアは出てこなかったでしょうね。

  ぶっ飛んだアイデアが出せる秘訣は?

先ほどの話とリンクしますが、これまでと同じことをしていると、ライバルに勝てません。常にこれまでやったことのないことをやろうと考えていないと、新しい発想って出てこないんですよ。過去にうまくいったことを少し変えてやったら失敗のリスクは減ります。ただ、その代わり、それを上回る成功も絶対にないんですよ。無難なことだけやっていてもジリ貧になるだけ。
特にコンビニのような業態はそれが常です。

あきらめようと思ったことなどない

  第1弾のウィンナー弁当は10年間、何度も却下されたにもかかわらず、最終的には発売までこぎつけました。粘り強さが尋常ではないですよね。途中で無理かもとかあきらめようと思ったことはないですか?

確かに無理かなと思ったことはありますが、ウィンナー弁当を作ろうよと訴えること自体をやめようと思ったことはないですね。

  その理由は?

出せば絶対に売れると確信していたから。今はダメでもいずれはできるかなと思っていました。

  そもそも一度始めたことは最後まであきらめずやり通す、粘り強い性格なんですか?

そんなことはないですよ。嫌なことや、これ無理だなと思ったらすぐ投げ出しちゃうことも普通にあります(笑)。

  その最後まで諦めないケースと途中でやめちゃうケースの違いは?

うーん、なんでしょうね。「だけ弁当」に関しては、これまで世の中にないものだから、やってみなきゃわかんねえだろうという思いが強かったからでしょうかね。

  ウィンナー弁当が世にでるまでにたくさんの反対意見があって却下され続けてきたわけですよね。その抵抗勢力をどのように説得して納得させたのですか?

ただ押すだけです(笑)。「これまで世の中にないものなので、やってみないとわかりません。でも出せば必ず売れます。だからやらせてください」ということを、いろいろ手を変え品を変え言葉を変え、地道に訴え続けただけですね。それに商品部の人間が共感して、協力してくれたおかげで世に出たわけです。

  とはいえ、普通の人間はこれまで世の中になかったものを提案するのは腰が引けてしまうと思います。常識を打ち破るチャレンジに対して不安や恐怖心などはないのですか?

全然、何もないですね。逆に聞きたいですが、それの何に不安や恐怖を感じるんですかね?

  失敗したらどうしようとか。

失敗したら「ごめんなさい」。これしかないですよ(笑)。今までやったことがないわけですからある意味失敗して当然。まあ仕事で失敗しても命までは取られませんからね(笑)。

  メンタルが強いですね。

それはあるかもですね。学生時代に野球部だったので、そこで相当鍛えられましたので。

  「だけ弁当」第1弾のウィンナー弁当がヒットした時の気持ちは?

自分は絶対売れると思っていたので、喜びやうれしさももちろんありましたが、それ以上に、「ほら見ろ、言った通りだろ」って感じでしたね(笑)。

普通の会社ではできなかった

  そもそも商品開発担当ではない社員が商品開発に深く関わるということは、普通の会社ではあり得ないと思うのですが。

オフィス内に商品部の人間が近くにいるので、何か思いついたら「こういう商品どうかな?」とか、すぐに話しかけられるんです。そもそも部署は違えど、結局「商品を売る」という会社全体としてのミッションは同じじゃないですか。そのためにこの会社の全社員は働いているわけです。つまり、自分もローソンストア 100の一社員として至極当たり前のことをやったにすぎないという感覚なんですよ。

  とはいえ違う部署の人も林さんの話に耳を傾け、受け入れるのですから、風通しのいい社風と言えますよね。

そうですね。それと、会社もよく「だけ弁当」のような弁当を作らせてくれたなと思いますよ。本当に。普通の会社だとやらせてくれないでしょうね(笑)。その意味では度量が大きいというか、懐の深い会社だなと感じます。

  ウィンナー弁当以降も次々とありそうでなかった弁当を開発して、そのことごとくがヒットしているわけですが、他店の弁当からインスピレーションを受けたりすることもあるんですか?

いや、それはないですね。インスピレーションなんて受けちゃダメなんですよ。あくまでも自分の中から独自の発想で生み出さないと、同じような弁当になっちゃう。それじゃ意味がない。だから他店には視察にはよく行きますが、弁当は全然気にしてないですね。それより店全体の売り場をどうしているか、商品の陳列、POP、売り方、接客などの方が気になります。

  現在の立場である次世代事業本部統括マネジャーとして部下の管理や育成に関して心がけていることは?

以前は部下の手掛けている仕事をつぶさに追いかけながら指導していたのですが、2年ほど前からやめました。それって結局人を信用していない証拠だし、指示待ち人間になって成長しなくなるからです。だから口を出すのをこらえて、まずは自分で考えさせてやらせてみることにしました。それで失敗してもいいんです。あとは上司である自分がケツを拭けばいいだけの話ですから。ただ、結果の振り返りは必要。成功と失敗の原因を一緒に考えて、必要ならば指導するというやり方に変えました。実際にやったこと、そのプロセス、その結果の3段階で評価しています。

洗車で心も洗う

  趣味やストレス発散法は?

車が趣味なので、仕事でもプライベートでもよく乗るんですが、洗車が好きなんですよ。会社の車なら2〜3時間、自分の車なら4〜5時間かけて洗車します。そうするとすごく心がスッキリするんですよ。日常がグチャグチャだから洗車でスッキリさせて満足してるんだと思います(笑)。

  ストレスってどういう時に感じますか?

それが自分ではあんまり感じてないんですよ。疲れたなとは思うんですが、ストレスが溜まってしんどいなってのがあんまりなくて。ずっと仕事のことを考えているので、プライベートの時間も仕事の時間も一緒になってるからかもしれないですね。

  では何をしているときが一番幸せですか?

メシ食ってる時かなあ。食べることは子供の頃から大好きで今でもかなりの量を食べますから(笑)。お腹が空いたら自分でぱぱっと作ることも多いです。

  一番好きな食べ物は?

ウィンナーと唐揚げ。一番は唐揚げかな。中高生時代から変わってないですね。だから小学生の娘とすごく食が合うんですよ(笑)。

  では最後の晩餐も?

唐揚げでいいっすね(笑)。それで十分です。

  生きる上で大切にしていることは?

相手を思いやることかなあ。自分のことはどうでもいいというか、あまり考えていないんですよね。それよりも他人のことが気になっちゃう。自分がというより、人が楽しそうにしてるとか幸せそうにしてるのを見ると自分も嬉しくなっちゃうんですよ。相談されると自分ができる最大限のことはやってあげたいと思います。特段親からそういう教育を受けたわけでもないし、性分なんでしょうね。

  生まれ変わっても同じ仕事をしたいですか?

定年退職してからでもと思っているんですが、農業をやりたいですね。将来的に野菜や魚、肉などがべらぼうに高くなると思うんですよ。作る人が激減するから。そうなったら供給が追いつかなくなって高騰するのは必然ですよね。やっぱり食べることは人が生きていく上ですごく大事なこと。売り方はわかるので、あとは自分で作れれば困ることはないし、おもしろいかなあと。漠然とそう思っています。


この記事が参加している募集

仕事について話そう

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!